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第6話 ウチの戦隊と悪の女幹部がとうとう戦う様なんだけど、どうすれば良いと思う?

 戦隊ヒーロー。


 複数人のヒーローが纏まって、組織的に動く集団のことである。

 その性質上、個人というよりチームとして全体を見られる事が多い。

 一人の力が足りなくても、複数人の仲間がいるのなら、実力以上の強敵にも勝てる可能性はあるだろう。


 ……しかし、仲間がおらず。

 自分一人しかその場にいないヒーローは、実力を発揮出来るのだろうか……? 


「おらあ!! “レッドエッジィッ!!!”」

「「「うわああああっ?!!」」」


 ──その答えを、今自身で証明する必要があるのかもしれない。


 俺は、ふとそう思っていた。



 ☆★☆



「(……嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょっ!? なんでレッドしかいないのよ! なに他の3人何有給なんか取っちゃってるのよ、このタイミングで!?)」


 私、コバルト・ティアーは目の前の風景を見てそう思っていた。

 私は内心物凄く焦っていた、レッドが目の前で一人で戦っている様子を見て。

 それに挑みに行き、吹っ飛ばされまくっている【カオス・ワールド】の同胞達を見て。


 いや、マジで何よこの状況。予想外過ぎるわよ!! 


「(だって、ブルーが既に有給事前に申請してたでしょ!? 他の3人も休むにしても、最低日程ズラしなさいよ!? 何この最悪なブッキング!?)」


 今思えば、宣戦布告のタイミングも裏目に出た。

 ブルーが有給取ってるからその日で逃げられないようギリギリで送りつけたのが、まさかの他3人も同じ日に予定。そのせいでレッド側が対策のために緊急呼び出しも間に合わない状態だったのだろう。


 結果的に、レッド一人で出撃しなくてはならない状況が出来上がったと。そこまで狙って無いわよ!? 


「もう一回、“レッドエッジィッ!!!”」

「「「ぎゃあああああっ?!!」」」


「(ああもう! こんな筈じゃ無かったのに……っ!)」


 予定では、私一人が足りない【ジャスティス戦隊】4人に対して、ティアー含んだ【カオス・ワールド】のメンバーで戦う予定だった。

 ギリギリ、ヒーロー側の上官達が【ジャスティス戦隊】だけで十分だと判断して挑戦を受けて、かつ【カオス・ワールド】側が勝利出来るようなメンバーを選定したつもりだった。


 なので、4人の【ジャスティス戦隊】といい勝負が出来る筈だったのだが……まさかのレッドオンリー。

 なんで出撃許可した空本神矢あのバカ、勝てるわけねーでしょーがぁ!? 

 私はここにいないあのバカ長官に対して、私は今ヴィラン側にいる筈なのに、盛大に心の中で文句を叫んでいた。


「“レッド・フレイム”!!」

「させるかあっ!!」

「がぁっ?! ぐ、まだまだあっ!! 発射あっ!!」

「「「「ぐぎゃあああああぁぁぁッ?!!」」」」


「(ああもう、ほら!! やっぱり2秒のチャージでダメージ受けちゃってるし!!)」


 被弾覚悟でチャージしてそれで無理やり発射しているようだが、それでもダメージはそこそこ大きい。

 レッドのヘルメットの一部が破損して、目元が1箇所丸見えの状態になっていた。

 完全破壊したわけじゃないから、認識阻害がまだ働いてるのは不幸中の幸いだろう。


「(本当なら、ブルーのいない4人で戦わせて、その上で力足りずにやられる事で絶望感を煽ろうと思ったのに……!!)」


【ジャスティス戦隊】として戦って、ヴィランである自分達に負ける事で力不足を痛感して“悪堕ち”の状態になりやすいように仕向けたかった。

 だから、レッド一人で戦うと言う、“負けても仕方ない”と言う理由を与えてしまうのは不本意だった。これでは予想より絶望感が足りないだろう……仲間がいたら勝てた、と言う希望を持てるのだから。


 ……ちなみに“ブルーいたら勝てたんじゃないの?” と言う希望はどのみち残ってしまうが、それはそれで“レッドにブルーがいないとダメだ”、と思わせられるので、ある意味そっちでも美味しかった。

 なのでそっちに転がっても、私に取っては嬉しかったりするのでそれは問題無い。


「(だいたい、レッドもレッドよ! 何素直に一人で出撃しちゃってるの!? 反論しなさいよ反論!!)」


 私は内心、一人でノコノコやってきたレッドに対しても内心だんだんイラついてきていた。

 何それふざけてんの? 本当に私たちに対して、一人でなんとかなるとでも思ってたの? 


 ……だとしたら、私たちを舐め過ぎよ。


「(……よし、決めた。“私今回戦わない。他のみんなだけで戦ってもらおう”。そうすれば、流石に幹部クラス以外にやられたって事で、少ないけどある程度絶望感は与えられると思うし)」


 当初の予定では、同僚達に戦って削ってもらった後、満を辞してティアーが出て【ジャスティス戦隊】をボコボコにする予定だったが、この状況ならその必要も無いだろう。

 ……決して、私が直接レッドをボッコボコにするのがはばかれた訳ではない。決して。


 私は通信端末を取り出して、この場にいる同僚達に全員に一斉通信した。


「作戦変更。私今回出ないから、あなた達だけで戦ってくれる? レッド一人なら十分でしょう?」

『よろしいのですか? 確かに勝てるとは思いますが、我々では手加減出来ず必要以上に傷つけてしまう恐れがあるかもしれません』

「ええ、その場合は私が止めるわ。それより、ノコノコ一人で大丈夫と舐めてやってきたレッドを、ボッコボコにして分らせてやりなさい。“みんなに見せつけるんでしょ?”」

『……はい。承知しました、ありがとうございます』


 そう言って、通信がプツっと切られた。

 ……そう。この戦いは“配信されている”。

 そもそも今回に限らず、“戦隊の戦いというものは世界中で見られる”ようになっているのだ。

 恐らく戦隊側の上官達の意向でヒーローの戦いというのを公開して、宣伝とグッズの集客あたりのためにやっているのだろう。

 もちろん、極秘の戦いもあるため全部が全部という訳ではないけれど、今回の戦いの場合は普通に見れる筈だ。


 つまり、“レッドが負けた場合、それが世界中に公開される”。


 それによって隠すことの出来ない恥となり、深い絶望感に繋げられるのだ。


「……ふう。これで良し、と。……あなたが悪いんだからね、レッド。ちゃんと仲間に頼らないから」


 全く、いつもブルー以外の仲間に散々あれだけ頼っておいて、肝心な時に呼び戻したりしないとか本当にどうかしている。ブルー以外にいつも頼っておいて。

 ……だから、これは罰。

 自分一人でなんとかなるだろうと思っている、その“傲り”を。今ここで砕いてあげるわ。


「ぐうっ!?」


「よーっし、だいぶ削れてきた!」

「レッド一人ならラックショー!」

「みんな、あと少しよ!!」

「よっしゃレッド覚悟ぉー!!」


「ああ、もう少しで決着付きそうね……」


 気付いたら、レッドが完全に囲まれているところが丁度見えた。

 あれはもうダメね。

 “レッド・エッジ”だと前方の敵しか対処出来ないから、背後からの攻撃に反応出来ない。

 “レッド・フレイム”は持っての他。もう2秒のチャージなんてさせずに全方位から襲い掛かられる。


 詰みね。

 残念ねレッド。調子乗った罰よ、大人しく今回はやられなさい。世界中に負ける姿放送するのは辛いでしょうけど……


「っ“レッド・エッジぃッ!!”」

「「「がああああっ!!?」」」

「今だ、掛かれえええッ!!!」

「「「「「おおおおおおおおッ!!!」」」」」


 ほら、“レッド・エッジ”を放った。

 あとは背後からの攻撃を、そのまま受けるしか……





「──待って、その“左手”何?」




 ……私は、レッドの左腕が不自然に後ろを向いているのが見えた。

 その左手には、何故か“火球”が備えられており……

 ヘルメットの中で、レッドがニイッと笑った気がした。


「──“レッド・フレイムぅぅぅッ!!!”」

「「「「「っ?! グぎゃあああああぁぁぁっ?!!」」」」」


「──はっ?」


 ……私は、目の前の光景が信じられなかった。

 “レッド・エッジ”を放った後、間をおかずに“レッド・フレイム”を放ったように見えた。

 チャージが必要な、あれを? しかも、片手で? 

 え、待って、どう言うこと? 


「──おい、どうしたよお前ら? 急に立ち止まって……」


「……え、何?」

「なんだ、今の?」

「今二つ、技連続で放たなかった!?」

「待って、そんなの聞いてない!!」

「み、見間違いじゃなくて!?」

「お、お前行けよ!」

「い、いやだ!」


「ほら、チャンスだぞ? 敵のヒーローが、たった一人しかいなくて、囲めているんだぞぉ?」


「ッヒ!?」


 その悲鳴は、誰が上げたのか。


 混乱する私達を他所に、レッドはゆらりとその場に立っている。


 右手に剣を、左手には“火球”を携えて。……私も見たことない、その体勢フォームで。


 割れたヘルメットの一部から、“鋭い眼光”を覗かして。


「……こないなら、こっちから行くぞ」


 そう言って、レッドは振りかぶる。

 右手の剣と、左手の火球を。そして……


「“レッド・エッジッ!!” “レッド・フレイムッ!!”」


 彼の得意技二種が、同時に前後に放たれた。


「「「ぎゃあああああっ?!!」」」 「「「グアアああああっ?!!」」」


「や、やっぱり見間違いじゃない!! 同時に“必殺技を放ってる!?”」


 私はようやく、目の前で起きたことを理解出来た。

 どうやってからは知らないけど、レッドはいつの間にか同時に必殺技を撃てるようになっちゃってる!? 

 何それ、私知らない!! そんなの、ブルーは一切知らないっ!!! 


「アッハッハ!! どうしたよ、【カオス・ワールド】のヴィラン共。そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔して」


「な、何が起こった!?」

「し、白々しいぞコイツ!!」

「レ、レッドテメエ!! 一体どう言うことだそれえ!?」

「なんで必殺技同時に発動出来る!? それにその左手の火の玉はなんだ!?」


「ああ、このフォームか?」


 私の同僚達の言葉に、レッドは演技がかったように大仰に身振り手振りをし始める。

 よくわからない子に、しっかり説明するように。


「お前らもとっくに知ってるだろう? “レッド・フレイム”は2秒間全く動けなくなることを。そこを今までは仲間にカバーしてもらってたんだが、いつもそれだと不便だろ? ……だから、特訓したんだよ」


「特訓……?」


「ああ。“レッド・フレイム”は両手で構えてチャージする技。……それをまず、“片手でチャージ出来る”ように改良した」


「は、はあ!?」


「チャージ時間は倍の“4秒”に増えちまったがな。おかげで片手で、かつ“他の行動もしながらチャージ出来る”ようになった。後は開いたもう片方の手で、剣を片手で振るえるよう筋力アップすれば、“チャージしながら戦える新フォーム”の完成だ」


「嘘でしょ……!?」


 レッドのその説明に、動揺が走る。

 必殺技の改良、簡単そうに言っているが普通そう上手くいくものじゃない。

 それを、目の前の男は思いついたからとでも言うように改造して、それを実戦レベルで通用するように仕込んでいた。


 一体いつから……ブルーとして一緒にいた時でも、そんなそぶりは無かった! 

 年単位の特訓レベルでもしないと、そんなことは出来ない筈なのに……!? 

 まさか、ずっと前から隠れてやってたとでも言うの!? ブルーに気づかれずに!! 


※ごく最近です。


 しかも、あの新フォームとか言ってるあれ! チャージ時間が倍に増えたと言っても、今まで“完全に動けなかった”のが、“動きながら他の行動も可能”になったって、それだけでも大幅に使い勝手アップしてるじゃない!? 


 ブルー、いらない子になっちゃってるんだけど!! 酷くない!? 


「ど、どうする!?」

「こんなパワーアップしてるなんて知らなかったわよ!?」

「こ、これ勝てるの!?」


「う、うろたえないで!! パワーアップしたと言っても、チャージ時間は4秒で増えてるわ!! 4秒の間に全方位から襲い掛かれば“レッド・エッジ”しか放ってこないのは変わらないわ!!」


「そ、そうか!!」

「流石ティアー様!!」

「よっしゃ、片手“レッド・フレイム”使わせた後、一斉に襲い掛かるぞ!!」


 私の指示に、同僚達のみんなが正気を取り戻してレッドに向き直したのが見えた。

 そう、まだまだこっちが有利なのは変わらない……!! 


「へー、流石【カオス・ワールド】の幹部、ティアー様だ。冷静な指示、感服するぜ」

「白々しい褒め言葉ね……!! でもこれで、あなたの新フォームとやらは無意味になったも同然よ!!」

「そうだな。“レッド・エッジ”も“レッド・フレイム”もこれで改めて封じられた形だな」

「そう、大人しくボコられて……」


「……けどさー。お前ら、“最近の俺の戦い見てないの?”」

「……え?」

「ほらー、あるだろ俺の“新技”」

「何言って……っ!?」


 ……ある、確かにある。

 けど、あれは二人以上いないと使えない……いや、まさか!? 



「“レッド・ギフトぉッ!!”」


 そうレッドは叫んで、“自身の剣”に対して技を発動していた。

 その後、レッドの剣は赤い光を放ち始めた!! 


「と、止めてえっ!?」

「「「お、おおおおおっ?!」」」


「もう遅えっ!! 新技、“レッド・サークルエッジィッ!!!”」


 その掛け声とともに、“レッド・エッジ”の炎の衝撃波が“全方位”に放たれる!! 


「「「ぎゃああああああっ!?」」」 「「「があああああああっ!?」」」 「「「ぐわああああああっ!?」」」


「クックク、あーっはぁーはっはっはあッ!!!」


 囲んでいた同僚が、全員斬り飛ばされる。

 その中心にいるレッドは、まるでヒーローとは思えないような高笑いを上げていた。


「き、聞いていない!!」

「こんな強かったのかよレッド!?」

「あ、悪夢だ……これは悪い夢だ」

「ど、どうしろってんだよ!?」

「あ、諦めんな!? まだ負けてねえ!!」


 同僚達に動揺が走りながらも、なんとかみんな精神を堪えて立ち上がっていた。

 そう、敵は一人。レッドただ一人。


 ……なのに、何故? “この絶望感は?”


 ……絶望? 私は自身が思考したその言葉に、逆に驚愕した。

 だって、それは私達がレッドに与えようと……


「おいおい、何をそんなに驚くことがあるんだよ、テメエら。ほら、よく言うだろう? 戦隊モノとか、ゲームとかでよくある言葉が」


 そう言いながら、レッドは大きく両手を開いて正解を言い放った。



「いわゆる──“第二形態”ってやつを」



 ……それ、ボス側がやる奴では? 

 そうみんな思ったが、誰も口に出せなかった。


 割れたヘルメットから覗く鋭い眼光が、そんな反論を許さないくらい威圧感を放っていたのだ。


 あれ……? 私、レッドを“悪堕ち”させたかったのに……これじゃあまるで……


「さて、と……確かなーんか聞こえたよなあ。『レッド一人ならラックショー!』とか、なんとか……」


「ッヒっ?!」

「お、お前謝れ! 謝ってこい!?」

「お、俺じゃない! 俺は言ってない!!」

「だ、誰だ言ったのそんなこと!?」

「いやあー!? 帰りたーい!!」


「そんなことを思ってるお前達に、教えてあげないとなあ。──そんな“傲り”粉々に砕いてやるって」


 そう言って、レッドは威圧感を伴いながら構える。


 狩られる側が、いつの間にか狩る側に。

 ヴィラン側が、いつの間にか挑む側で。


 ヒーローが、何故かボスとなって。



「さあ、こいよ挑戦者チャレンジャー。相手してやるよ」



 その割れたヘルメットから見える目は、ある意味“悪人”と言っても間違いではないような鋭さな気がした。


 そんな場違いなことを私は感じていたのだった──



 ────────────────────


 ★佐藤聖夜さとうせいや


 23歳

 175cm

 黒髪

 中立・善

 男


 主人公

【ジャスティス戦隊】のレッド。


 今回の“章ボス”です(主人公)。


 自分が弱いことなんて、とっくに(配信で)教えられてきた。

 そのため、特訓はしっかりして来た男。

 隠していた切り札を大盤振る舞い出来そうで、ワクワク状態。



 ★天野涙あまのるい


 22歳

 168cm

 青髪

 混沌・善

 女


【ジャスティス戦隊】のブルー。

 兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。


 想定外だったけど、レッドを倒す事には変わらないと決意。

 悪の女幹部として、調子に乗っているレッドをボコボコにするつもりで挑んだ。


 ……調子に乗っていたのは自分達だった。

 自分が知らない間に、気になる相手がボスっぽいことをし始めてめっちゃ動揺してる。

 何それ知らない、本当に知らない!? 


 悪堕ちする前になんで悪堕ちっぽい事してるの!? 



 ★空本神矢そらもとかみや


 28歳

 167cm

 くすんだ金髪

 秩序・善

 女


【ジャスティス戦隊】の長官。

 白衣でぼさぼさ髪をしている。


 ブルー曰く、バカ。

 レッドに出撃許可を出した張本人。


 そしてブルーのいつもスーツのデザインの改良案を却下する張本人。

 そして戦隊のみんなの技名をダサいのを名付ける張本人でもある。


【ジャスティス戦隊】のルールとして、新技を開発したならまず長官に報告して、名付けてもらうルールがある。


 そのため、レッドの新技の名前も長官が全て名付けた。


 ──すなわち、レッド以外に今のレッドの実力を唯一把握している人物でもある。


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