目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第5話 ヒーローとしての活動が続けば良いと思っていたんだけど、どうすれば良いと思う?


 ヒーローは正義。

 ヴィランは悪。


 この二つは、相入れないもの。

 当然の真理である。


 正義とは、無辜の一般人を守るもの。

 悪とは、その一般人に被害をもたらすもの。


 これが世間一般的な正義と悪の定義だと思う。

 誰に確認しても、大まかには違うとは言われないと思う。


 ──けれど、こうも思う。


 正義とは、“みんなを優先”したもの。

 悪とは、“個人を優先”したもの。


 こう捉えることも出来るのでは無いか? 

 その湧いて出た考えも否定出来ない。


 ……そして、これを前提に思い出して欲しい。


 ヒーローとは、“選ばれた存在”だと。……つまり、“個人”が選ばれたものだ。

 そしてヴィランは、“選ばれなかった”存在。……つまり、選ばれなかった“みんな”でもある。


 正義が、みんなで。

 悪が、個人で。


 ……ヒーローが、個人で。

 ……ヴィランが、みんなで。


 ──矛盾してしまっていると思ってしまうのは、自分がただおかしいだけなのだろうか──? 



『みんな〜!! 【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”の“簡単、よく分かるヒーロー対策”の時間がはーじまーるよー!!』


 :待ってました!! 

 :わー!! 

 :始まるよー! 


 で、“個人”かつ“みんな”もいるだろとばかりに、両方の立ち位置であるブルーが、悪の女幹部として配信してるんだけどどうすれば良いと思う? 


 ☆★☆


「いっつも楽しそうだなあコイツ……ある意味、人生満喫してそうだなあ」


 俺はいつもの様に、楽しそうに配信しているブルーを見て、そうぼやく。

 俺の胃のなかはグチャグチャだというのに……あ、そっか。俺の胃という無辜の一般人に被害与えているからこいつはヴィランなのか、納得。


『って、あ〜。そろそろ時間だ。それじゃあ、今日はこの辺で。じゃ〜ね〜!』


 :じゃーねー

 :じゃーねえええー

 :じゃーねえええええ!! 


 あ、配信終わった。

 ブルーが悪の女幹部である理由の真理に気付いてしまっている間に、いつもの様に放送が終わっていた。


 ……さて、どうしようか。


 うーん、今回は俺自身の筋力UPするか……


 そうして俺は、いつもの様に、放送から得た知識でヴィランへの対策を立てるのだった……



 ☆★☆



「いや〜。今日もお疲れ様〜、悪いね今日は集まって貰っちゃって〜」

「別に構わないですよ。あなたは俺たちの長官なんですし」

「そう言ってくれるとありがたいよ〜、グリーン」

「“レッドです”」


 いつもと同じ様に、悪の組織の一つを壊滅させ終わった後。

 今日は珍しく【ジャスティス戦隊】の本部から呼び出しがあって、そこに全員集まっていた。


 目の前にいるのは、俺たちの司令官とも言える存在。

 空本神矢そらもとかみやがいた。

 白衣のぶかぶかな服を着ていて、いつも髪もボサボサでだらしない女性だが、組織の長官としてかなり優秀らしい。

 他の組織間との会議では、特に問題を起こすことなくスムーズに会議を進められているだとか。

 いざというときは、俺たちの戦隊の指揮もすることから、司令官としての役割も持つ。


「そうなのかい? いやー、ごめんねー? 私からすると見分けがつかなくってさー」

「今変身スーツ着てるんですけど。思いっきり赤い服着てるんですけど」

「ほら〜。認識阻害って優秀じゃな〜い?」

「それ個人の判別阻害ってだけで、“レッド”っていう赤要素は問題無いですよねぇ!?」


 ただし、この人の弱点として“致命的に個人を間違う”という問題がある。

 戦隊のみんなを見間違うのは当たり前。今も「怒られちゃったよブルー〜」と言いながら、「“ピンクだよ?”」と反論を受けている。

 いや、そっちに至ってはサイズ違いすぎるだろ。どうやって個人を判別しているんだこの人。

 あ、違う。判別出来て無いんだった。


「ん、どうやってこれで組織間の会議問題無く出来てるんだろう……?」

「ふっふっふ。それはひとえに、私が超優秀だからだよ、イエロー」

「すみません、イエローこっちっス」


 性別すら、か……

 いや認識阻害適応中とはいえ、体型で少しは判別出来ねえのか……? 


「だから、せめて服のデザインを変えてっていつも私が言ってるのに……」

「いやー……さっすが認識阻害。こうしていつも会ってる私でも、君達のことがわからなくなるとは。これじゃあ、デザイン変えても意味ないよー」

「あんたのはそれ以前の気がするけど、じゃあ……」


 そう言って、俺はベルトのボタンをタッチする。

 するとバシュっと音がして、ヒーロースーツとヘルメットが自動的に収納され、一つのデバイスにコンパクトにまとまった。

 この形態が、変身前の【ライト・ガジェット】の持ち運び用の状態だった。


「これなら認識阻害もないですよね、長官」

「おー。これなら見分けが付くよー。ありがとね、さー、さもー? さもう……? さー、しー、スー、セー、そー……ありがとね、イエロー」

「うん佐藤聖夜さとうせいやですね。そしてレッドですねえ!!」


 こいつ、認識阻害以前に個人の名前覚えてねーじゃねーか!! 

 しかも結局ヒーロー名で言おうとして、それすら対象間違えてるし!! 

 クッソ駄目駄目じゃねーか!? 


「ところで長官、私達何のために呼ばれたっスか」

「あー、そうだった〜。ほら、もうすぐ“契約の更新”があるでしょ」

「あ〜」


 “契約の更新”。数年に一度、戦隊のヒーロー達の再編成の時期がある。

 欠員が出た戦隊に補充したり、逆にヒーローを続投するかどうか判断する。

 つまり、今のヒーロー達に続ける意思があるか確認する時期が近づいていたというわけだ。


「というわけで、君達はこのままヒーロー続けてくれるって意思でいいかな〜?」


「俺は問題ないです」

「私も問題ないわ」

「私ももちろんっス!」

「ん。続投」

「私もまだ頑張るー!」


「よしよーし、みんなやる気満々で助かるよ〜」


 俺たちは全員、肯定の意思を示した。

 ……若干内心、いや一人大問題があるだろ、とか思ったが、ここでは出さないことにした。


「ところで、メンバーはこのままで良いとして〜。リーダーの変更とか希望ある〜?」

「ん。レッド継続」

「まあ、そうよね」

「私も異論ないっス。けど、いつかはやってみたいなーって……」

「レッドのお兄ちゃんが良いー!」


「おおー、レッド大人気だねえ。このこの〜」

「ブルーなんだけど」


 満場一致で俺に票が集まっていた。

 グリーンに至っては、真っ先に食い気味にその提案をしていた。

 うん、嬉しいけど、ちょっとくすぐったい気持ちがあるな、これは……


「それじゃあ、みんなの意思確認は完了したということで、次のシーズンもよろしくね〜」

『はーい!』


 そうして、俺たちはその場で解散した。

 こうして次のシーズンもまた、今の戦隊のままで戦っていくことが決まったのだ。


 これでまた、俺のヒーロー活動も変わらない、いつもの様に続いていく────



 ☆★☆



『──【ジャスティス戦隊】に、宣戦布告をするわ』


 ──変わらないはずだった日常は、その一声を元に崩れ去る音がした。


「…………っ」


『○月×日。つまり、来週の日曜日。その日に合わせて、私達、【カオス・ワールド】のコバルト・ティアー率いる部隊が、【ジャスティス戦隊】に挑戦状を叩き込む。まだ送ってはいないけど、断る時間を与えないためにギリギリのタイミングで送りつける予定よ』


 :とうとう来た!? 

 :待ってましたー!! 

 :ティアー様と【ジャスティス戦隊】が衝突!? 

 :俺も参加するぞー!! 

 :待ってろ、レッドー!! 


 ……とうとう来ちゃったか、この日が。

 俺はこの配信を聞きながら、薄ら覚悟していた事を改めて実感していた。


 :けどティアー様、なんでその日? 

 :日曜日で予定が無いから都合がいいけど、何か理由あります? 


『理由はあるわね。ウチの組織で、【ジャスティス戦隊】に挑みたい希望を持つメンバーで、大半の人が都合が良かったからよ。予定が合わなかった人はごめんなさい』


 :なるほど

 :ティアー様優しいー

 :これで多くの人が【ジャスティス戦隊】に挑めるね


 いや、メンバーの予定が主な理由かい。

 そこは組織がメインで強制的に決めるんじゃないの? 俺はメンバーの都合に優しい悪の組織に疑問を持っていた。



『──後は、そうね。この日だと、【ジャスティス戦隊】の“ブルーが居ない日”だからよ』


「────っ!!」


 :え? ブルー居ないの? 

 :欠席? 風邪? 

 :戦隊一人欠けてるじゃねーか! 

 :5人が4人に! 

 :それは大チャンス! 


『ええ。“裏の情報”でブルーちゃんはその日が有給申請してるのが確認出来たわ。その日に合わせてギリギリに挑戦状を送りつけて、ブルーちゃんを呼び戻す隙を与えずに叩く。これが計画よ』


 :いや、ヒーロー有給申請あるんかい

 :ホワイトだな。ヒーローだけに

 :【カオス・ワールド】も有給あった筈だよ? 

 :悪の組織なのにホワイト!? 

 :所で、日曜日なのに有給? 

 :寧ろ日曜日が1番本番だろうがヒーロー業

 :悪の組織も大体そうだけどね

 :俺、この組織入って良かったと本当に思ってる。


 ……やっぱり、そっか。

 ブルーは……いや、コバルト・ティアーはそっちの立場に着くんだな。


 俺は、ティアーの選択をはっきり理解した。

 ブルーがその日有給取ったから襲撃するのでは無く、襲撃するからブルーが有給を取ったのだ。


【ジャスティス戦隊】に、コバルト・ティアーとして敵対するために。


 :でもティアー様、本当に襲撃していいんですか? 

 :確かレッド、悪堕ちさせたいとか言ってませんでしたっけ? 

 :じゃあレッド倒しちゃったら不味くね? 


 コメント欄が、本当にいいのか、という確認で溢れかえる。

 それらに対して、ティアーは静かに目を瞑って、ええ、と肯定した。


『レッドを悪堕ちさせたい。それは今でも変わらないわ。けどね、じゃあ具体的にどうやったら悪堕ちさせることが出来るのか、みんな考えたことある?』


 :悪堕ちさせる方法? 

 :【ライト・ガジェット】の適性を奪う

 :性格を嫌な奴に変える

 :ボコボコにする

 :【カオス・ワールド】の募集中のアルバイトを勧める

 :【ジャスティス戦隊】より福利厚生がいい待遇で雇う

 :色仕掛けで堕とす


 具体的な悪堕ち方法について、様々な意見が出てきて──おい、アルバイトってなんだアルバイトって。

 あるの? アルバイト? 

 福利厚生ってなんだ、会社かおい? 


『ふむふむ。色々あるわね。でも私が選んだのは、そのうちの中で、“ボコボコにする”が近いわね』


 :やったぜ

 :くそー

 :ティア様、それ選んじゃうんですか? 


『正確にはね……』




『──“絶望”。力が足りなくて、悪の組織に敵わない現実を見せつけて、心を折る作戦よ』




 ──。

 絶望、シンプルながら、悪堕ちとしては納得出来る理由の一つだ。


『正義のままでは、私たちに勝てない。そう思い知らせて、力への渇望を深めさせ、【ダーク・ガジェット】を使わせる様に仕向ける。それが私の目的よ』


 :なるほど、わかりました! 

 :その目標なら納得

 :そう上手くいくんでしょうか? 

 :俺はレッドをボッコボコに出来るならなんでもいいぜ! 


『ちなみに、本命はレッドだけど、他の子たちも悪堕ち出来そうならやってもらいたいわね。悪堕ちする人は多ければ多いほど都合がいいわ。だから、今回の作戦はかなり重要度高いの』


 :なるほど、まとめて悪堕ちさせる作戦

 :全員倒せばいいんですね、ティアー様! 


『あ。だから悪堕ちさせたいから、命までは奪っちゃだめよ!! それは絶対駄目!! 命奪っちゃったら悪堕ちも何も無いもの。でも無力感を感じさせて、絶望させる様に圧倒的力の差を見せつけるなら問題ないわ。難しい注文だけど、頼めるかしら?』


 :まっかせてください、ティアー様!! 

 :俺たちならラックショーですって! 

 :覚悟しろ、【ジャスティス戦隊!】


 ──そうかよ。


 俺は頭の奥が、冷えていくのを感じた。

 ティアー。お前が何故俺を悪堕ちさせたいのかはよく分からねえ。でも俺一人を狙っているだけなら、俺自身が抵抗するだけでいいと思って放っておいた。


 ……でもな。それは、駄目だろ。

 イエロー、グリーン、ピンク。他の仲間たちにまで、堕ちてもらうためにボッコボコにするなんて聞かされたら、黙ってはおけねえよ。



『──時間ね。それじゃあ、今日はこの辺で。じゃあね』


 :じゃあね

 :じゃあね

 :えと、その……じゃーねえええええ!! 


 配信が、終わった。

 ……さて。行動に、移るか。


 俺はこれまでといつものように、電話を掛ける。

 大事な仲間たち。……ブルー以外の仲間、3人に。


 プルプルプル、ガチャ。


「イエロー。ちょっといいか? 今度の日曜日なんだけど……」


 プルプルプル、ガチャ。


「あ、グリーンさん? ピンクも一緒にいます? 二人に、今度の日曜日なんですけど……」


 ……黙って挑戦受けてもらえると思うなよブルー。……いや、コバルト・ティアー。



 ☆★☆



 ──日曜日



「──来たわね」


「……ああ」


「あれがレッド……」

「初めて相対する」

「緊張するな……」

「一人だけ……?」

「なんか、雰囲気が怖い……」


 俺は、事前に示された決戦場に、“一人”でやってきた。

 目の前には、【カオス・ワールド】のコバルト・ティアー。

 そして、その部下と思わしき下っ端達が大量に並んでいた。


「──初めまして、というべきかしら。私はコバルト・ティアー。【カオス・ワールド】の幹部の一人。そして後ろのみんなは、私の頼れる仲間達よ」


「そーだそーだ!」

「俺たち、ティアー様の仲間!!」

「覚悟しろ、レッド!!」


「……ああ。知ってる」


「あら? 随分有名なのね、私。そんなに目立った覚えは無かった筈だけど」


 ……どの口が言う。

 そう言いたくなったが、今は黙っておいた。


 ……それより、コバルト・ティアーの様子だ。


「(ここまで、“一切動揺する様子”がないだと……?)」


 ここまで直接相対したにもかかわらず、ティアーに一切の動揺も何も無かった。

 自身がブルーだと、言っているようなものの筈なのに。

 それにしては、その件に関して一切触れないのはおかしい。


「(……これ、やっぱり“認識阻害が俺にだけ働いてなかった”と考える方が正しそうか……)」


 ……実は、今もこの相対している映像は、本部に流れている。

 しかし、本部から何も慌てるような声も、動揺する声も無い。

 ただ敵幹部が現れた、その事実でしか捉えていないらしい。


 ──敵側にブルーがいるとは思ってもいないと言う事。

 つまり、“俺を除いて認識阻害がちゃんと働いている”と言う事だと思われる。


「(そりゃあ、ブルー堂々と配信するよ。ちゃんと認識阻害働いていると思ってるんだから)」


 なんで俺にだけ、ブルーのことが分かったのかは分からない。

 ……けど今は、それを気にするべき場合じゃない。

 むしろそのおかげで、対策が立てられてお得だと、それだけ考えよう。



「……で、質問なのだけど。“他のメンバー”はどうしたのかしら?」

「……さあな」


 やっぱり、それを質問してきたか。

 そりゃあそうだよな。決戦挑みに来たのに、リーダー1人だけなんておかしいもんな。

 別に人質とって、一人だけ来いなんて指示してないのに。


「やっぱり一人だけ?」

「見捨てられたのか?」

「何かの作戦?」

「かまわねえ、チャンスだろうが!」


「……下手な誤魔化しは辞めなさい。──なるほど、隠れて狙撃か不意打ち、あたりかしら。正義のヒーロー様が、随分セコい手を使うのね」


 ティアーがこっちを見下すように、そう指摘する。

 そうだな。その通りだよな。


「……ああ。否定はしないさ。──けどよ、“だからどうした”」

「──っ」

「戦場だぞ。戦いだぞ? 正義は何がなんでも、勝たなくちゃいけないんだよ。卑怯、不意打ち当たり前。たとえどんな手を使ったとしても、俺たちは、必ず勝たなきゃいけないんだよ。ヒーローってものは。──たとえ、その先に守った奴らから後ろ指刺されるとしても」

「……ふうん?」


 ティアーは、俺の言葉に感心したように声を漏らす。

 そして薄く笑って、こっちに話しかけてきた。


「私、卑怯な手段は好きじゃないタイプなのよね。この間も、似たようなことした同業他社がいたし、それも嫌いよ。……けど、それはただ考えずに楽な方法として使う奴らだから。卑怯な事を自覚して、それしかないと覚悟を持ってその手段をプライドを捨てて選んだのなら。──私好きよ、そういうの」


「……そうかよ。ありがとう、と言っておこうか」


 そう言って、俺は剣を構える。

 話すことはもう無いと、態度を持って答えて。


「──ええ。油断無しで行くわ。覚悟なさい」

「ああ。全力でこいよ。悪の組織の野郎ども」


 そうして、俺たちは相対する──



 ……そんな空気の中、俺の懐の端末から、長官から連絡が入った。





『そうだ、頑張れレッド君!! 例え今日、“君だけしか出動してない”としても、君一人で勝つんだ〜!!』


「──は? 一人?」

「……作戦だよ」


『君以外、“全員有給取ってこの場にいない”としても、君がいれば100人力さ!! 全力で頑張ってきた前〜!!』


「──実情全部バラしてんじゃねえぞクソ上司いいいいいいイィぃぃぃイィ────ッッッッッ!!!!!」



 ……俺は、切れた。

 空気を読まない、クソ上司に対して。


「……えー、と。その……」


「え、何? 有給?」

「え、本当に一人しかいないの?」

「作戦でなく、マジで?」


 俺の叫びに対して、相手側がものっっっすごく動揺したような空気を出し始めていた。

 オズオズと、ティアーが声を掛けてくる。


「あの、その、有給って……」

「……言葉通りの意味だよ」


 仕方ないから、俺はもう正直に言う。言うことにした。


「俺を除いて。ブルー、イエロー、グリーン、ピンク。全員今日有給取ってんだよ、畜生」


「……は?」


「「「はああああああっ?!!」」」


 相手の下っ端達が、それはもう驚いたような声を上げていた。

 コバルト・ティアーもあんぐりと口を開けている。


「……え、いや、ちょ……?」


「ブルーは“知らねえ”。イエローはスイーツバイキング食べ放題。グリーンとピンクは遊園地に遊びにいった。これで満足か? 知りたいこと」


「は? いや、その。……ええぇ〜〜……っ?」


 そう、“俺が電話を掛けた時点で、全員予定が埋まっていた”

 もう一度言う。“全員予定が埋まっていた”


「せめて、休んでいることだけはバレないようにして、不意打ち警戒させながら戦いたかったんだが……ばれたなら仕方ねえな、うん」

「いや、ちょ……」


 俺の態度に、何か言いたそうに所在なさげに腕を上げ下げしたりしていた。

 何? 何か言いたいことあるの? 


「えっと、その……え、延期した方がいいかしら?」




「“お願いしたら実際延期してくれるの?”」



「うえぁっ!?」




 俺の強めの口調で言った言葉に、ティアーは明らかに動揺していた。

 まさか真に受けられるとは、思っていなかったと言うように。


「え、ちょ、ちょっとタイム!! ……ね、ねえ実際延期出来そう、みんな?」


「いや、え? マジで延期するんすか?」

「でも今日が実際チャンスなのは変わりないですよね」

「でも可哀想じゃないアレ?」

「やる気が湧かないのは確か」

「俺、来週はもう予定入っちゃってるので無理っす」

「平日は私仕事ですし」

「来週は俺彼女とデートの予定が」

「なんだと生意気じゃねこいつ? 処する? 処する?」

「それよりレッドなんだけど!?」

「今日以外無理ー」


『『『……………………』』』



「……えーっと。……やっぱり、無理そう、って結論に……」


「あ、そう」


「そ、その。ごめんなさい……」


「何が?」



 俺の言葉に、「あ、あうう……」と何も言えないようなコバルト・ティアー。

 周りの部下達も、どうしよう、これ……と言った雰囲気だった。


「…………」


 微妙な空気の中、両手を構えてチャージ開始。


 ゼーロ、イーチ、ニー。


 チャージ完了。



「“レッド・フレイムぅッ!!”」


 ゴウッ!! 


「ええええええええっ?!!!」


「ぎゃあああ!? 撃ってきた!?」

「嘘でしょ、この空気の中攻撃する!?」

「堂々とチャージしてたぞコイツ!?」

「卑怯、クッソ卑怯!!!」

「可哀想と思ったのにー!!」


「じゃかあしいッ!!! 言った筈だ! 卑怯、不意打ち当たり前! どんな手を使ったとしても、勝ちに行くってなあ!!」


「それこんな意味!? 本当にこんな事に合ってる意味なのそれ!? やけになってるだけじゃないの、ねえ!?」


「うっせえ!! どうせこっちは人数差で負けてんだ! 何がなんでも勝ってやるよオラアああああ──っっッ!!!!!」


「いや、ちょっ?! か、かかれーッ!!」


『『『お、おおおおおぉぉぉぉッッッ??!!!』』』


 こうして、俺とコバルト・ティアー達の、正義と悪の決戦が始まった。

 そう、始まった。始まったんだって。本当だって。



 ────────────────────


 ★佐藤聖夜さとうせいや


 23歳

 175cm

 黒髪

 中立・善

 男


 主人公

【ジャスティス戦隊】のレッド。


 仲間に手を出されるのは許さないタイプ。


 そして、その仲間が有給取ってたとしても文句を言わないタイプ。

 何がなんでも勝ってやるつもり。



 ★天野涙あまのるい


 22歳

 168cm

 青髪

 混沌・善

 女


【ジャスティス戦隊】のブルー。

 兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。


 覚悟を持って、悪の組織側でレッドを倒すことを決意した。

 そのために、ブルーとして有給取った。

 彼を傷つけることになったとしても、自身の“夢”を叶えるために……


 なんか一人しかいないんだけど。

 え、これ想定外なんだけど!? 

 何やってるの他のみんな!? 



 ★空本神矢そらもとかみや


 28歳

 167cm

 くすんだ金髪

 秩序・善

 女


【ジャスティス戦隊】の長官。

 白衣でぼさぼさ髪をしている。


 人の名前を覚えるのが苦手、個人の識別もしょっちゅう間違えるうっかりもの。

 組織の長官としての腕は確か。

 自称、司令官としての力量も高いとの事。……本当だよ? 



 ★大地心だいちこころ

 10歳


 有給。遊園地楽しい。



大地鋼だいちはがね

 34歳


 有給。遊園地楽しい。けどレッドが心配。



 ★空雲雷子そらくもらいこ

 21歳


 有給。スイーツバイキングサイコーッス!! 


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?