目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第3話 俺の存在しない合体技について触れられたんだけど、どうすれば良いと思う?


 正義のヒーローは、選ばれたものだけがなれる世界。

 ……では、選ばれなかったものはどうなるのか? 


 ただ気にせず、これまでと同様一般人として一生を過ごすのか? 

 それとも、特別な何かになりたいと足掻き、ヴィランの道を選ぶのか? 


 ……実は、ヴィランになる事自体は割と簡単だ。

【ダーク・ガジェット】。聖なる光の力とは異なる、悪の組織が使うデバイスの事だ。

 一般人が持つだけで簡単に強大な力が手に入るという。


 ──そして何より特徴的なのが、“使う存在を選ばない”点だ。


 一般人が持つだけで、と言ったが、本当に誰かれ構わず、“手に入れるだけ”で良いのだ。

 それだけで、特別な力が手に入る。

 ヒーローみたいに選ばれた存在じゃ無くても、普通に生きてるだけじゃ手に入らない、特別な力を。


 ……ヒーローの数に対して、ヴィランの数が遥かに多いのはこれが理由だ。


 みんな、この誘惑に耐えられないんだ。

 普通の存在から抜け出して、特別な何かになれる事を。


 ──ヒーローは、特別な何かになりたい存在を救ってくれるわけじゃない。


 ──ではヴィランは? 神に愛されていない存在すら、受け入れるヴィランは、ある意味救いの主では無いのか? 


 ……そう考える人も少なく無い。


 ヒーローは、彼らに対して言う資格があるのか? 

 ただ“選ばれただけ”の存在に、“選ばれなかった”者の気持ちが、わかるのか──



『みんな〜!! 【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”の“簡単、よく分かるヒーロー対策”の時間がはーじまーるよー!!』


 :始まるよー! 

 :待ってました!! 

 :わー!! 


 で、そんな“選ばれなかった”者の代表の中に、“選ばれた”存在であるブルーが、悪の女幹部として配信してるんだけどどうすれば良いと思う? 



 ☆★☆



「ヒーローとヴィランの二足わらじって……正義と悪だぞ? 両立出来ないだろうが普通はよお……」


 どんな二股だよ、股裂けるだろうが。ガバガバか。

 ある意味普通の浮気よりとんでもないビッチと化しているブルーに対して、自分の中の純情な心が削れていくのが感じられた。

 ……あ、やべえちょっとおっさんっぽい例えだったかも、反省。



『さあ、第78回。恒例の、ヒーローの弱点コーナーに移るわよー』



 相変わらず、おんなじ放送をし続ける画面の中のブルー。

 この間は俺の弱点を中心に放送されたが、最近は別の戦隊にも目を向けるようになっていた。


『今日のヒーロー対策はこれ!! 【クロス戦隊】! 個人というより、戦隊全体として紹介していくわよー!』


【クロス戦隊】、そこそこ有名な戦隊だな。

 俺達よりちょっと階級が下の戦隊だが、最近破竹の活躍中の奴らだ。


『メンバーは、一号、二号、三号、四号、五号……個人の特徴が無さすぎるのが酷すぎるわね。コピペかしら?』


 :区別が付かねえ

 :どれが一号? 

 :ほら、ヘルメットの横に番号が振ってある

 :分かりづら!? 

 :せめて胸元に番号書けよ!? 見えねえよ!? 


 うん、まあ分かりづらいな……

 真正面から見ると、全員同じ格好と色にしか見えないから、個人の判別が全然付かない。

 こう見ると、ウチの【ジャスティス戦隊】ってまだ色で判別出来たからマシだったんだな……と、こんな形で実感するとは思わなかった。


『でもね。この戦隊の特徴は、何と言っても“合体技”がある事!! 炎と電気を組み合わせたり、武器同士を合体させて巨大な剣に変化したりと、合体相手によって様々なバリエーションがある事! これは面白いわね!』


 そう言って、ブルーはワイプ映像で【クロス戦隊】の戦闘場面の映像を流し始めていた。

 おお、確かにこれは凄い。

 一号と四号が大量の水を発射して、かつ電気を流したりと、割とガチな戦法を取ってて感心──いや、二号と三号かこれ? いや、やっぱり分かり辛え!? 


『メンバー毎に固有の能力があるから、合体相手によって合体技の性能が異なるのが特徴ね。状況や相手によって使う技を選択しているらしいわ』


 :これは面白い。

 :最近破竹の勢いなのも分かる。

 :これそのウチ上位の存在に行けるんじゃ無いか? 

 :でも格好あれだぞ? ジャスティス戦隊より酷いぞ

 :否定はしない


 コメント欄でも、意外と【クロス戦隊】の強さについて感心しているようだった。

 けれど、格好はあれだと言っても、逆に言えば個人が識別しづらいというメリットがあると言える。

 合体相手によって使う技のバリエーションが変わるなら、その個人を識別しづらくする事で、次に使う技を判別しづらくしているのだろう。

 中々考えられて……


『ちなみに、この戦隊のこの格好って、予算不足が原因らしいわ。最低限の装備しか当初支給されなかったらしいわね』


 ただの予算不足かい。

 しかもブルー曰く、せっかく合体技で有名になってきて支援がアップしても、そこの長官に「格好なんて顔隠れてプライベート守れたらどうでも良いっしょ〜」って、デザインの変更が却下されたとか。


 どこの戦隊も、みんな長官にデザイン振り回されてるんかい。


『さて、それじゃあ弱点の紹介に入りましょうか。弱点はシンプルに、“一人じゃ合体技を出せない”事。各個撃破するように分断しちゃえば、近くにいないと合体技は出されないわね。合体技特化で、個人技があまり鍛えられていないからそれで倒せちゃえば済む話よ』


 :だよねー

 :納得の弱点

 :まあシンプルな対処法

 :分かりやすい


 まあ、だろうな。話を聞いていれば、簡単に思いつく弱点だった。

 個人技の性能で言えば、俺達【ジャスティス戦隊】の方が遥かに上だろう。

 “合体技”を使われたら少し向こうの方が上になるかもしれない、という塩梅だ。


 なので、合体技を使われるのを封じるというのは分かるのだが……


 :でもそれってつまんなくね? 

 :合体中の相手に攻撃するのは邪道

 :派手なのが見たーい!! 

 :つまんない戦いするのは嫌だ。


『だよねー。気持ちは分かるわ。やっぱり合体はロマンよね! 見届けるのが礼儀!』


 こいつら、悪の組織だよな? 

 わざわざ相手の技待って受ける必要ある? 

 この間俺を二連狙撃してきた奴らの方がよっぽどガチだったぞ? 


 ……いや、よくよく考えれば、このリスナー達もヴィランメインかと言っても、元は“一般人”か。

 “特別な何かになりたい人達”にしてみれば、特別な技を見てみたいという気持ちはあるのだろう。


 ……。


 ……まあ、正義の戦隊の攻撃を素直に受けてくれるってんなら、ほっとくか。



『それはそれとして。もし本気で対策考えているなら、“三号”を狙うのがオススメよ。他のメンバーは2、3個の合体技の種類に対して、三号が6、7個の合体技を持ってて一番組み合わせが豊富だから、彼を封じちゃえば大分相手の戦術削れるわよ』


 ブルーがスッゲーガチな情報を流してきた。

 これこそ、この配信で求められてる情報じゃ無いの? ってばかりに。


 やっべ、ガチの意義ある情報じゃねーか。

 メンバーの個人の把握はし辛いけど、よりによって一号じゃ無くて三号が一番重要とか普通わかるわけねーだろ。

 それこそマニアレベルといった値千金の情報。コメント欄もおお〜、と感心したものが多く流れていた。


 そう言えば、こういうとこブルーって意外と鋭いんだよなあと思い返す。

 俺の必殺技の弱点をいつの間にか知って、さりげなくカバーに入っていたり。

 伊達に悪の女幹部をやってるだけある、という訳か……


 ……ふむ? 

 もし、“俺が【クロス戦隊】と戦う事になったらどう戦う?”

 そんなことをふと思いついて、脳内シミュレートしてみる。


 まず三号を倒すのは最優先事項として、“レッド・エッジ”で唯一遠距離攻撃出来るから、それをメインに当てに行って……

 “レッド・フレイム”は今は改良中だけど、完成すればそれを使って……



『そうそう。そう言えば、【ジャスティス戦隊】のレッドとブルーも、“合体技”を考案中らしいわよ?』


 :マジで!? 

 :そんなそぶりなかったぞ!? 

 :あいつ等、そんなこと考えてたのか


 初耳なんだけど。

 もう一度言う、初耳なんだけど。


 え、ガチで知らない。ブルー何言っちゃってるのねえ? 

 作戦? 俺を追い詰める作戦なの? 


『ブルーちゃん、あの戦隊の中で結構やり手だからね。きっと強力な“合体技”を開発する筈よ! フフフ、ロマンあるわね! レッドとブルーの共同技、どうなるのか楽しみね!!』


 あ、違うこれ。多分ブルー、【クロス戦隊】を見て合体技やって見たくなっただけだ。俺には分かる。

 だってブルーめっちゃワクワクした目をしてるんだもの。

 ただ俺と一緒にやってみたくなっただけだ、アレ。



『って、あ〜。そろそろ時間だ。それじゃあ、今日はこの辺で。じゃ〜ね〜!』


 :じゃーねー

 :じゃーねえええええ!! 

 :じゃーねー


 あ、配信終わった。

 ……さて、どうしようか。


 俺は凄く悩んだ。合体技……正直、欲しく無いと言えば嘘になる。

 やってみたいのも事実だが……初めてやるような事を、何の練習も無く使うのはかなり心配だ。

 けどブルーかなりやる気だし……しょうがない。


 俺は携帯電話を取り出し、ある人物に掛ける。

 プルプルプル、ガチャ。


「あ、グリーンさん? ちょっと相談いいですか?」


 ☆★☆



「“イエロー・サンダー!!”」

『ぎゃああああっ!!』


 イエローの放った電撃で、近くにいた敵の下っ端達を感電させる。

 これで付近の敵を大勢戦闘不能に出来た! 


「“ブルー・スパイラル”!!」

「よし! “レッド・フレイム”!!」


『うぎゃああああああっ!!?』


 そして俺は、いつものようにブルーとのコンビネーションで必殺技を確実に当てていく。

 うん、やっぱりこのコンボ使いやすいな。とても便利。


「く、くそう!! 砲撃よーうい!!」

「んな!?」


 すると、遠くにいた雑魚敵達が、いつの間にか巨大な砲台を用意していた。

 あいつら、いつの間に!? 

 見ると、砲台の中がチャージが溜まっていってるようで、放たれたら間違いなく危ない!! 


「やばいわよ!? さっさと片付けないと!」

「私のピンクアローで、周りの兵士を倒せば止まるかな!?」

「ん、俺のグリーン・スナイプでも……」


「いや、それじゃあ遅え!!」


 見てて分かる。あの装置、既に発射準備に入っており周りの敵を排除してももう止まらないと。

 範囲外に逃げるのも手だが、どれだけ被害が出るか分からない。

 可能なら、“砲台ごと全てを壊せれば一番良い”。


 ──しょうがない!! 


「グリーンさん! 例のあれ、お願いします!!」

「ん、了解」


「へ? 例のあれ?」


 何それ聞いてない、と言わんばかりのブルーの声は一旦無視して、ロングバレルを構え始めたグリーンの背後に回って、彼の銃に手を当てる。


「新技! “レッド・ギフト”!!」

「ん!」


「え? 本当に知らない、何それねえ?」


 ブルーの戸惑うような声は一旦無視! 

 俺は炎の力を、グリーンの銃身に装填する!! 

 力を分け与えられた銃身は、赤く輝き始める!! 


「「合体奥義!! “レッドグリーン・バスター!!”」」


 ドシュウウウウウウウッ!!! 


 その掛け声とともに、強大な力を持った弾丸が敵に向かって放たれる。

 着弾位置は、例の砲台のある場所。

 砲台自体に着弾し、そして──



 ドゴオオオオオオオオおおんッ!!! 


『ぐっっっぎゃあああああああああああっ!!?』


 激しい轟音とともに、砲台もろとも敵を全員消しとばした。

 ……これで今回の戦いは終わった。


「……ふう」

「ん。お疲れ」

「ありがとうございます、グリーンさん」


「……は?」

「レッド、グリーンすごいすごーい!!」

「二人とも、スッゲー格好いいっスー!? いつの間にそんな技を!」


 俺の肩にポンっとグリーンが手を置いて来た。俺の事を労ってくれてるようだ。

 そんな俺たちに、ピンクとイエローが興奮した様子で声を掛けてくる。

 よっぽどさっきの合体奥義が印象に残ったようだ。


「ああ、最近思いついた必殺技でな。ちょっと試したくて、グリーンさんに事前に協力を頼んでたんだ」

「ん。話を受けた」

「いやー、初めてだから暴発する可能性もあったから不安に思ってたけど……成功してよかったぜ、安心したよ」

「ぐ。大成功」


 グリーンさんが親指をグッと立てて自慢げに振る舞っている。

 この人、俺より年上で同性の先輩なのに、意外とノリが良いんだよな……

 まあおかげで、合体技なんて言う失敗した時のリスクを考慮しても練習に付き合ってくれて、本当に助かった。


 下手したら、ギフトした武器が暴発、なんて事も考えられた。

 他のメンバーは女性陣や子供だし、初めてのことに付き合わせるのは不安だったんだよなあ。

 けどおかげで、合体技どころか合体奥義まで完成度を高められた。グリーンさんには感謝だな。


「ねえねえ! 私も合体奥義出来るかな!! グリーンとやってみたい!」

「私は、先輩とやってみたいっス! 電気と炎のコンビネーション技作ってみたいっス!」

「ん、同感」

「はいはい、また今度な。今日のところは、これで解散しようぜ」

「あ、そうっスね! 約束っスよ!」

「レッド、バイバーイ!」

「じゃ。また明日」


 そう言って、イエローは手を振って去っていった。

 ピンクもグリーンと一緒に帰って行ったのが見えた。


 この場にいるのは、俺とさっきから黙ってるブルーのみ。


「…………」

「…………あ。ブルー、お前も今度一緒に合体奥義やってみるか? 一度グリーンさんとやったからコツ掴んだし、安全に練習出来る──」


「……私が」

「うん?」



「──私が最初に、レッドと一緒にやりたかったのに……っ」


「へあ?」



 よくみると、ブルーのヘルメットの隙間から、涙のようなものが垂れていた……

 直後、ブルーは全力でその場から走り出す。


「──レッドのビッチ野郎うううううううううううぅぅッッッ!!!!!」


「ええええええぇえぇーっ??!!! いやグリーンさん男おおおおおおっ!!!」


 そうしてブルーは、とんでもない捨て台詞を残しながらその場を離れて行った──



 ☆★☆



 ──そして、その夜。


『み、みんなー……グスッ。【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”の“……グスッ簡単、よく分かるヒーロー対策”のじ、時間、グスッがはーじ、まーる、よー……グスッ、エグッ……』


 :ティアー様!? 

 :いったいどうしたんですかあ!? 

 :誰に泣かされたんですかティアー様!? 

 :泣かしたやつぶっ殺すー!! 


 やっぱりまた配信が始まっていた。今日のあの後で。

 そしてめっちゃ泣いているブルーが映っていた。

 コメント欄もめっちゃ大荒れ。


 ……うん。


 やっぱりブルーが、悪の女幹部として配信してるんだけど、どうすれば良いと思う? 






 ★佐藤聖夜さとうせいや


 23歳

 175cm

 黒髪

 中立・善

 男


 主人公

【ジャスティス戦隊】のレッド。


 下手なリスクは極力取らない主義。

 安全の為、年上の頼れる味方に最初に最初に頼み込んだ。

 新技、“レッド・ギフト”は割とすぐ誰でも組み合わせられるもよう。よりどりみどり。



 ★天野涙あまのるい


 22歳

 168cm

 青髪

 混沌・善

 女


【ジャスティス戦隊】のブルー。

 兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。


 めっちゃレッドと初合体技やるの楽しみにしていた。

 一緒に二人で練習する時間も含めて楽しみにしていた。


 いつの間にか同僚の男に先に奪われていた事に大ショック。



 ★大地鋼だいちはがね


 34歳

 184cm

 緑髪

 秩序・善

 男


【ジャスティス戦隊】のグリーン。


 最年長、レッド以外の男性。

 ピンクの保護者。

 レッドの大先輩に当たる人でもある。昔のレッドを含んだチームのリーダー経験もあった。


 口数は少ないが、割とノリは良い性格で話しやすい。

 今回の合体技の話を聞いて凄くワクワクしていた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?