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第2話 俺の洒落にならない弱点がバラされたんだけど、どうすれば良いと思う?

 正義のヒーローは、完全に“才能”の世界だ。

 何でも、神様の遣いから施される【ライト・ガジェット】の力。

 これに適合出来るかがヒーローになれる資格と言える。

 俺が普段使っている炎や剣とかも、この【ライト・ガジェット】由来の力だ。


 ……逆に言えば、これに適合出来なければその人は“一生ヒーローになる資格は無い”と言えてしまう。


 だから世界中にいるヒーロー達は、それだけで選ばれた存在と言えるだろう。

 ……俺が言っても説得力は無いかもしれないけど、ヒーローになれなくても恥じる事じゃない。

 強さに関係無く、ただ神様に愛された。それだけの違いだ。



『みんな〜!! 【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”の“簡単、よく分かるヒーロー対策”の時間がはーじまーるよー!!』


 :わー!! 

 :待ってました!! 

 :始まるよー! 


 で、その選ばれた存在の筈のブルーが、悪の女幹部として配信してるんだけどどうすれば良いと思う? 



 ☆★☆


「……いや、マジで何でブルー戦隊やれてんの? 悪の女幹部なんでしょ? 何で【ライト・ガジェット】に適合してるんだよ?」


 【ライト・ガジェット】の選定基準に、俺はガバガバじゃねえかと内心ツッコミを入れる。

 ただでさえヒーローになれなくて絶望する奴らが少なくないのに、何でよりによって悪の女幹部に適合素質与えてんの? 


 ……よくよく考えると、ヒーローに一度なったもの達の中で、勤務態度や思想が問題で受け取った【ライト・ガジェット】を没収された奴らは聞いた事はあるが、“適合素質自体を途中で失った、なんて話は聞いた事が無かった”。

 つまり、バレなければヒーローと悪の女幹部は両立することが出来ると。へー。


 ……もっとしっかり常時判別機能つけろバーカ!! 


『さあ、第74回。恒例の、ヒーローの弱点コーナーに移るわよー』


 そしてそんなツッコミを知ったこっちゃねえとばかりに、ヒーローと悪の組織を両立しているブルーが、また配信でヒーロー側の弱点を公開しようとしている。

 と言っても、見た感じ弱点っつってもダサイとか単純に弱いとか、言うほど弱点か? ってところばっかりな紹介だから、そこまで気にしなくて良い内容だったけど。


 だから俺も念のために見続けてはいるが、内心それほど警戒しなくて良いやくらいの精神で落ち着いている。


『っと、コーナーに移る前に、先に視聴者からのコメント……というか苦情があったんだけど』


 ん? 


『前々回の時、【ジャスティス戦隊】の“レッド”について紹介したじゃない?』


 :そうだね

 :あれ言うほど弱点か? 

 :確かに紹介してた



『そう。あの配信後、“もっとちゃんとした弱点無いの? ”って苦情が結構来ちゃってたのよ』


 :でしょうね

 :でしょうね

 :だろうね


 だろうな! 


 いや、実際俺も初見なんだよアレ、と思ったもん。

 何だよダサいって結論だけって。あれただ単に格好バカにして終わっただけじゃねーか。


『えー、でもダサいって割と人気に直結するわよ。単純にヒーローの人気に直結して、ヒーローのグッズの売り上げや、スポンサーの獲得し易さ、それによる戦隊運営資金の調達の困難さ。わりと“戦隊自体のサポート体制や強化要素に直結”するわよ』


 :そうなの? 

 :そう考えると、ダサいってわりと致命的な気がしてきた。

 :ティアー様頭いいー! 


 思ったより、ガチでダサいって事を問題視している事にビックリした。

 あっれ、意外と考えてんだなこいつ。結構まじで取り上げた弱点だったりする? 


 ……つーか、悪の組織の幹部が、ヒーロー側の運営体制に対して物申してる時点でおかしいと思った方がいいのだろうか? 


『わた、ん、んんっ! ……【ジャスティス戦隊】の“ブルー”ちゃんも、戦隊の長官にスーツデザイン変更希望出した事あるらしいんだけど。「その個性の無い、統一感が良いんじゃないか」って聞く耳持たれ無かったらしいわ。可哀想よね』


 :可哀想

 :敵側に同情するなんて思っていなかった。

 :あいつらずっとダサいままなのか、ある意味可哀想。

 :俺はザマアだぜ。俺たちの組織壊滅させたバチが当たったんだな

 :↑それあんまり関係無くね? 


 ブルー、割と本気で戦隊の事考えてくれてたんだな……単純にスーツのデザインが嫌だっただけかもしれないけど。

 あっれ、ちょっと涙が出てきたぞ? 俺たちのこと、真面目に助けようとしてくれてありがとう……悪の組織の女幹部だけど。……いや、何でやねん。

 何で味方より悪の組織の方が、俺たちの組織運営に対して改善させようとしてくれてんの? 

 いや、一応ブルーも戦隊所属してるけどさあっ!! 


 :けど、もっと別の弱点も欲しい

 :もう少し、直接的な弱点ないの? 

 :戦闘中に不意をつける要素とか欲しい


『えー? みんなわがままねえ、もう』


 もっと弱点は無いのか、そう問い詰めてくるコメント達に対して、しょうがない子達ね、と言いたいように、ため息をついて姿勢を整えるブルー。

 んー、と画面の中で考え始めているが、いつもの感じだとそれほど致命的なものは出ないだろうと楽観視していると……


『んー。けど私が今知ってる弱点って、レッドの“レッド・フレイム”って、“発動準備に2秒間完全に動けなくなる事”くらいで、そんなに大した事じゃ……』


 くっっっそ大した事ある弱点出てきたああぁ────────っ!!??? 

 え、俺の必殺技そんなに分かりやすい弱点あったの!? 

 やっべえ!? 今まで成功した事しかなかったから自覚ねえ!? 

 いや、確かにそこそこ余裕がある時にしか使ってなかったけど!! 


『だからまあ、適当に“レッド・フレイム”を誘発させる囮要員を前に出して、遠くからスナイパーとかで狙撃すればモロに入ると思うけど、……言うほど弱点とは言えないわね』


 :いや弱点だろ

 :対応策自体既に完成していて草w

 :さすティア!! 


 これまでで、一番の情報漏洩を大した事ないように流してんだけどコイツ。

 え、マジでこれからどうしよう。もう“レッド・フレイム”使えねーじゃねーか! 


『でもこれ、やっても成功しないわよ?』


 :何で? 

 :え、割と成功率高そうだけど? 

 :特に不安点見当たらなくない? 



『だって、レッドが準備している間、“ブルーちゃんがカバー入ってる”んだもの』


 ──っ!! 


『レッドのチャージ中に、飛んでくる攻撃はブルーちゃんの“ツイン・バレット”で撃ち落とされてるし。あるいは相手チーム全員“ブルー・スパイラル”で一か所に固めていて、攻撃出来ないように足止めしてるから殆ど意味ないのよ』


 :なるへそ

 :厄介だな、ブルー

 :女に守ってもらうなんて、情けないぜレッド! 


 ブルー……今まで俺の事、そんなふうに守ってくれてたんだな……

 俺、全然自覚無かったよ……ごめん! リーダー失格だ! 

 ありがとうブルー! 俺お前のことを凄く信頼してる!! 


 ……いや、悪の女幹部に信頼置いてちゃダメじゃね? 俺は正気に戻った。


 だってこれ、ブルーの気分次第で俺に攻撃入るってことだよな? 

 それに……


 :じゃあ、“ブルーさん先に対処しちゃえば良いだけ”じゃね? 

 :そうだね、ブルー足止めで良いよな? 

 :それで攻撃入るな


 だろうな!! 


『チッチッチ! ブルーちゃんを舐めちゃいけないわ! 彼女、ある意味レッド以上に周りを見ているもの! 縁の下の力持ち、そう簡単に突破できるとは思わないことね!!』


 ブルーめっちゃ自画自賛してるんだけど。

 でも正直今まで庇って貰ってた自覚の無い俺だと、俺以上に周りを見てるって言葉を否定出来ねえや……


『って、あ〜。そろそろ時間だ。それじゃあ、今日はこの辺で。じゃ〜ね〜!』


 :じゃーねー

 :じゃーねー

 :じゃーねえええええ!! 


 あ、配信終わった。

 ……結局俺のガチ弱点がこれで公開されてしまった。


 さて、どうしよう……ブルーは多分あの感じだと、これからも守ってくれそうではあるが。

 けど、だからと言ってブルーに依存しっぱなしって言うのもどうかと思うし。

 その内取り逃がしがないとは絶対言い切れないし、どうしたもんかな……


 うーん……と、俺は本気で悩んで。

 とりあえず、一つの案を思いついた。


 携帯電話を取り出し、ある人物に掛ける。

 プルプルプル、ガチャ。


「あ、イエロー? ちょっと相談いいか?」



 ☆★☆



「“ピンク・アロー”!!」

『ぐわあああっ!!』


 最年少のピンクが放った、矢の雨が敵の下っ端に襲い掛かる。

 これで大勢の敵に隙が出来た! 


「いくぞ! “レッド・フレイム”!!」


 俺は両手をかざして、高温の炎をチャージする。

 そしてその為に、まる2秒間大きな隙を晒す事になる。


 ──遠くから、スナイプ攻撃が俺に向かって飛んでくる! 


「っふ!! “ブルー・ツイン・バレット!!”」


 離れたところにいたブルーが、相手の狙撃を水の銃で撃ち落としてくれた! 

 これで2秒間のチャージは無事に終わる……ように思えていた。


「っ!? そんな、嘘!?」


 “更に別のところからの狙撃が無ければ”。

 敵は2段階の狙撃で、確実にレッドの俺を倒す算段をつけていたようだ。


「レッドぉ!!」


 遠くのブルーの悲痛の声が聞こえてくる。

 そしてそんな事は関係無いと、致命的な弾丸が俺にヒットする──



「“イエロー・ウィップ!!”」


 ──前に、イエローの電気を纏った鞭が攻撃を撃ち落としてくれた。

 遠くで何っ!? と敵の狙撃の人員が驚いていたような気がした。


「チャージ完了! 喰らえええ!!」

『ぎゃああああああっ!!?』


 チャージした高温の炎を、両手から放射する。

 目の前の大量の敵を全員焼き尽くしていく。


「っふ! “グリーン・スナイプ!!”」

「「があっ!?」」


 遠距離から狙撃した人員達は、グリーンが逆に狙撃仕返してくれた事で無事倒せた。

 これで今回の戦いは終わった。


「ふうっ……」


「お疲れっス! レッド先輩ー!」

「私、疲れたー!」

「ん、頑張った」


 イエロー、ピンク、グリーンがいつものように声を掛けてくる。

 特にイエロー、彼女にはお礼を言わないとな。


「ありがとなイエロー。完璧なフォローだったよ」

「えへへー。先輩からの頼みがあったからッスよ〜」


「……ね、ねえ。イエロー、ちょっといい?」


 俺がイエローにお礼を言っていると、ブルーがオズオズと声を掛けにきた。

 ヘルメット越しでよく分からないが、その表情はピクピクしているように、見えた。


「さっき、レッドを庇ったのって……」

「ああ、アレっすか? いやー、事前にレッド先輩に頼まれてたんスよ。チャージしている間、カバー頼むって。だから直ぐにカバーには入れたんッス。私も先輩完璧だと思ってたッスけど、頼られるのは嬉しいっスねー!」

「へ、へえー。そう……レッドに頼まれたんだ……レッドに、私より先、に……」


 ブルーはイエローの言葉を聞くたびに、所在なさげに腕を上げ下げしたりしていた。

 大分動揺しているようだ。


「っあ! 私これから友達と用事があるので、これで失礼するっスー! デザート食べ放題ー!」

「ああ、お疲れー」

「お、お疲れ様ー」


 そう言って、イエローはさっさと走り去って行ってしまった。

 グリーンとピンクも、既に帰ったらしい。


 この場にいるのは、俺とうろたえているブルーのみ。


「…………」

「…………あ。じゃあ、私も、帰るから……」

「ブルー」

「っ!」



「──ありがとな。いつも俺を庇ってくれていて」


「────っ!!」



「しょ、しょーがないわねえ!! うん、もっと私に頼りなさい!!」

「うん、頼りにしてるよ」

「〜〜っ!! ええ、それじゃあ、また明日!!」

「ああ、また明日」


 そうして、俺は元気になったブルーとその場を別れたのだった。


 ──それはそれとして、割と急ぎ目に必殺技の改良をしようと固く誓っていた。



 ☆★☆



 ──そして、その夜。


『みんな〜!! 【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”の“簡単、よく分かるヒーロー対策”の時間がはーじまーるよー!!』


 やっぱりまた配信が始まっていた。

 今日のあの後で。でも何処か、いつもより元気そうなブルーが映っていた。


 ……うん。


 やっぱりブルーが、悪の女幹部として配信してるんだけど、どうすれば良いと思う? 





 ★佐藤聖夜さとうせいや

 23歳

 175cm

 黒髪

 中立・善


 主人公

【ジャスティス戦隊】のレッド。


 配信の件は、暫く自分の中で黙っていようと様子見中。

 最近自分の必殺技の改良について悩んでいる




 ★天野涙あまのるい

 22歳

 168cm

 青髪

 混沌・善


 【ジャスティス戦隊】のブルー。

 兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。


 最近気になる男がいるらしい。

 今日の配信はなんだか調子が良さそうだった。



 ★空雲雷子そらくもらいこ

 21歳

 167cm

 黄髪

 秩序・善


 【ジャスティス戦隊】のイエロー。

 レッドの後輩。


 レッドを尊敬しており、いつかレッドにリーダーを自分に継承してもらう事が夢。

 スイーツバイキングに目がない



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