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第7話

「種明かし、しなくていいのか?」

「え? なんのです?」


愛機となった水色のエイブラムス主力戦車を返却した後、鉄筋コンクリート造の司令部へジャックと歩いていたラヴィーは藪から棒に彼から尋ねられる。


演習で発動した戦術のことだ。察しの悪い彼女は指をほっぺに当てて考える素振りをしながら訊き返す。


「地雷原を突破した方法だ」

「あー、あれですか」

「生身で解体したって言っても信じないと思うが」

「そのために工具と、プラスチック爆弾を用意したんです。ただ本来の目的とは逸れてしまったのは反省点です。砲撃のタイミングが僅かに早くて冷や汗ものでしたが」


淡々と、しかし誇らしげにラヴィーは話した。


時は遡りブリーフィング中に戻る。青のマーカー線が一直線に示した場所は、作戦エリア西側だった。


地形図を参考にしてはいたが、極力平坦で宅地が密集する一帯に突っ込むのは自殺行為でもあった。待ち伏せにあったら確実に一両は犠牲に合うからだ。


「東側には見晴らしのいい高台があります。M1A1エイブラムスの光学照準なら、演習場のほぼ半分を射程に収めることが出来ます」


今度は赤でサークルを描き、東側全域を覆った。


「地雷原の敷設数に限界はないんだろう? 目標エリアで籠るに限るんじゃないのか?」

「確かにそれも有効的ですが、空爆で一帯を火の海にされたら、退路がなくなりますし、何より進めなくなるだけの地雷を敷設する時間もないでしょう。高台に戦車を置いて固定砲代わりに定点させ、接敵したら増援を寄越す方がよっぽど効率も良く、労力も掛かりませんし」

「だが、どうやって地雷原を突破するんだ? 突破用のローラーかマインプラウを装着すると長くなって取り回しが悪い」


ローラー式か農業などで用いられるプラウ式の地雷処理装置がエイブラムスのオプションにはあるが、市街地戦で小回りを犠牲にするのは邪推。


「偵察車両を担当するシルフ7にはドローンを一機、持っていていただきます。地雷原は相手とこちらの機動を制約しますが、上手く使えば相手の意表突けるかもしれません」

「なんだぁ? 地雷にでも突っ込む気かお前。死ぬぞ」

「カーリングさんの言う通りです」

「地雷で吹っ飛ばされたら死ぬんだぞ。戦死だ戦死」

「でも地雷を爆発物と人間の手で処理するのは、ある種セオリーですよね?」


不敵な微笑みが彼女の顔を包み込んだのはこの部屋にいた誰もが覚えている。


「姉御、何を考えてるんすか」

「砲撃とプラスチック爆弾で地雷原を爆破。ただしこれは陽動で二か所の爆発を同時に起こして敵を攪乱し、私達は穏便に解体して切り開いたルートから目標を目指します。先に解体作業を始め、砲撃の前に1キロ前進。砲撃開始までエンジンを切った状態で西側6キロ地点で待機し、砲撃開始後、敵の注意が逸れたのをドローンで偵察して、一気に幹線道路を駆け抜けます。以上が私の考えた作戦です」


一小隊の全員が唸る。その中でも取り分け深刻なまでに考え込んで顔を顰めていたのはブレザーだった。溜らず手を挙げて、思考にしまい込んでいた疑問をぶつける。


「だがその地雷を誰が処理する。爆弾解体の技術を持った人間なんて聞いたことないぞ」

「えーっと、解体する人のことについては心配ありません。ここにいますので」

「つまり、仔猫ちゃんがってことかい?」

「は、はい」


照れ笑いで答えたラヴィーに、一同は唖然として声を殺す。


ブレザーも一度固まってしまうが、何かを察したように小さくため息をついて、「そういうことね」と小言を吐いていた。


「なら、仔猫ちゃんに賭けてみようかな」


そして爽やかでどこか魅力的に彼は笑った。


「しゃぁね。実戦じゃないんだ」

「んんぁぁぁ! もうわかったよ。好きにやれ。俺は呑む」

「相変わらずだな」


不貞腐れたように呻きながらカーリングはスキットルを取った。


「異議がなければこの作戦を実行しますが、どうでしょう」

 採決を取る。反対が一つでもあればまた別の作戦を考えなければならない。しかし誰の手も挙がらなかった。


それは他に手が思いつかない、という意思表示ではなく、異例の抜擢をされたラヴィーの力量を計るような探りだった。


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