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第10話 突然の夜

 契約先では会議室に通されたが雰囲気は思いの外穏やかだった。秋良が詫びの言葉を伝え深く謝罪をして顔を上げた瞬間、女性保険担当者は言葉を失い頬を赤らめた。


「こ、今度からは気を付けて下さいね」

「はい、申し訳ございませんでした」

「お名前は、えーと伊東あき?」

「伊東秋良です」

「秋良さんね、覚えておきます。これからも宜しくお願いします」

「はい、申し訳ございませんでした」


 翔吾はエレベーターホールで必死に笑いを堪えた。


「あの、あのおばさん秋良の顔見て真っ赤になってたな」

「いつもの事よ」

「なに、宝塚かよ」

「似たようなものよ」


「おまえと付き合った男は大変だったろうな」

「ーーーー」

「なに、急に黙んなよ」



ぽーーーん



 エレベーターの扉が開き中に乗り込むと箱の中は静けさに包まれ2人だけの時間が流れた。


「3階だっけ」

「私、誰とも付き合った事がないの」


 行き先ボタンを押そうとした翔吾の指先が止まった。


「私、誰とも付き合った事がないの」

「あーーー、そうなのか」

「私が好きになった男の子は伊藤翔吾くんだけなの」

「あーーー」


心の声一同(あーーーじゃねーよっ!)


「翔吾が好きなの」


 翔吾の指は開閉ボタンの<閉>を押したまま秋良を壁に押し付けた。重なり合う唇、生まれて初めての口付けに秋良は戸惑ったが翔吾の舌の動きを精一杯受け止めた。息継ぎも忘れ熱気がこもった。視線が絡み合う。


「おまえんち行って良い?」

「ーーーー」

「良いんだな」


 秋良はパンプスに視線を落とすと小さく頷いた。


「薬屋、寄って良い?」

「薬?」

「あれが要るだろ」

「あれ?」

「ゴムだよゴム、全部言わせんなよ」

「そっ、そんな」

「そんなもこんなも有るか、もう俺のもんにしてぇんだよ」


 秋良は翔吾の突然の提案に驚いたが「さすが翔吾さま」と俺様気質に呆れてしまった。そして薬屋に入って行く翔吾を見送った秋良は凍り付いた石像の様に直立不動で紙袋を手に店から出て来るのを待った。


「コンビニ寄ろうぜ」

「まっ、また買うの!」

「ーーーー」

「違うの?」

「おまえ何回するつもりなんだよ」

「ーーー!」

「弁当だよ、弁当」

「あ、お弁当」


 その後2人は薬屋の紙袋とコンビニエンスストアのビニール袋を手に、言葉数少なくバスに揺られて秋良の部屋の扉を開けた。





「おまえ、髪、短いから乾くの早いな」

「うん」

「もっとなんか喋れよ」

「うん」


 秋良がシャワーを浴び終えると翔吾がドライヤーを片手に待ち構えていた。「濡れたままだと髪の毛が痛む」など細かい事を言い出し終いには「そこに座れ、俺が乾かす」と秋良を床に座らせた。


「気持ち良い」

「だろ、さすが俺」


 ヘアサロンのスタッフに比べれば随分と手荒だが髪を透かす翔吾の指先が秋良の緊張を綻ばせた。ところが「俺がもっと気持ち良くさせる」と言い出すものだから秋良の身体は石像の様にこわばった。


「大丈夫だって、そんなにビビんなよ」

「そんな事言っても」

「大丈夫、俺も初めてだし」

「ーーーーーはぁ!?」


 この翔吾さまは太々しく、遠慮なく、相手を見下し、偉そう、致命的な欠点はので付き合った女性は3人ほど居たがそのどれもがキス止まりで先に進まず喧嘩別れを繰り返したと言った。


「俺さま童貞だったのね」

「変な言い方すんな」

「意外すぎて会社で言いふらしちゃいそう」

「大丈夫だ、今夜で卒業だ」

「ーーーーなんかやだ」

「お互いみさおを守って来たと思えば感無量じゃん」

「操って、演歌じゃないんだから」


 翔吾はドライヤーのスイッチを切ると部屋のシーリングライトの明かりを消した。


「途中で嫌になったら言え」

「嫌って言っても続けて」


 秋良の指先が翔吾の太腿に触れ、翔吾は秋良のTシャツをゆっくりと捲り上げた。2人は互いにTシャツを脱がし合いベッドに腰掛けると口付けを交わした。


「秋良、ここ?」

「多分合ってる」

「触ったらーー痛い?」

「分かんない」


 翔吾が人差し指を少しづつ中に減り込ませると指を外に押し出そうと内壁が動き始めた。然し乍ら秋良は成人映画の女優の様に「あん」とも「ああ」とも言わないし、成人漫画の表現にあった擬音は無く


(これで挿れたらやっぱり痛いんだろうな)


 翔吾は両膝の裏を抱え上げた。


「あっ、ちょっ」

「なにも言わないんだろ、黙っとけよ」


 翔吾は深呼吸をすると秋良の股座またぐらに顔を埋めた。初めて嗅ぐ匂いがした。鼻先でを割る頃には翔吾自身は熱く硬く形を変えていた。


(面白れぇなこんなんなってんのか)


 そこで舌先で下から上に舐め上げると突起の様な部分がある事に気付いた。


(これがか)


 翔吾はようやく辿り着いた性感帯を執拗に攻めた。すると秋良の身体が熱く色付き初め「ん」や「うん」と呻き声が漏れ、やがて腰を捻りだした。


(ーーーあ)


 指先に粘り気のある液体が絡まり内壁が上下にすぼんだ。


「動かすぞ」

「うん」


 指先を先に進めるともう一段深い場所があった。これまで翔吾は入口に触れていただけで中には届いていなかった。


(こ、怖っ、こんな奥まであるのかよ)


 秋良の身体は翔吾の指をその付け根まで咥え込んだ。中は湿り気を帯びて滴り秋良は顔を手のひらで覆って恥ずかしさに顔を赤らめた。ゆっくりと壊れものを扱う様に指を前後させてみたが秋良は微動だにしなかった。


「お、俺もう限界」

「ーーーーーえ」


 翔吾はコンドームの封を切ると手早く空気を抜いて根本まで被せた。いつか来るこの日に備え、装着手順は鍛錬に鍛錬を重ねて来た。


 翔吾は秋良のを割り先端を入り口に当てがった。秋良の身体は逃げようともがいたが翔吾はそれを引き留め腰に力を入れた。秋良は頑なに拒否したが翔吾は容赦無く指先で広げて中に押し込んだ。


「ーーーたっ!」

「我慢しろよ」


 秋良の入り口は痛みに耐えようとしたが軋む下半身が自然に声を挙げた。その痛みに涙が滲んだ。


(こっ、こんな痛いとか、信じられない!)


 生まれて初めての行為が始まってしまった事に秋良は眉間に皺を寄せ憎らしく翔吾を見上げた。すると翔吾も辛そうな面持ちで眉間に皺を寄せている。


(あ、そうだ)


 その時秋良は処女を相手にする男性は快感よりも窮屈な不快感を伴うと雑誌で読んだ事を思い出した。しかも翔吾は童貞、不慣れな行為で戸惑う事ばかりだろう。それに言葉遣いは荒いが前戯は優しかった。


「翔吾、好き」


 秋良は翔吾の首に縋り付き思わずそんな言葉を耳元で囁いた。すると翔吾は3回腰を前後させ急にその動きを止めた。


「あ、あ」

「あ?なにが、あ?」

「で」

「で」

「出ちゃった」


 翔吾は挿入後、数回前後しただけで至っていた。秋良は痛みから解放された安堵となにやら気の毒な気持ちでその肩をポンポンと叩き健闘を労った。


「もう1回頑張ってみる?」

「今日はもう良い、立ち直れねぇ」

「どんまい」

「それ言うなよ」


 秋良が向きを変えると翔吾が素っ頓狂な声を挙げた。


「あっ、秋良!」

「なに」

「血が、血が出てる!」

「なにを今更、痛かったんだからね!」

「ごめん」

「あ、謝った!」


 翔吾が自分から謝罪の言葉を口にした。翔吾はなにかに負けた様な面持ちをしたが秋良は最高に気分が良かった。


 翌日は互いに身体の具合が優れず其々の家で休んだが、日曜の朝、翔吾は意気揚々と秋良の部屋を訪れた。


「おはよう、なに、こんな早くからの?」

「人をけだものみたいに言うなよ、出掛けようぜ」

「えええ、面倒臭い」

「なに言ってるんだよ!下々の者どもに彼女を自慢したいんだよ!」

「はぁ、面倒」


 翔吾はこの前の10,000円札は如何したかと尋ね、貯金箱に入っていると答えると「洋服買おうぜ」と言い出した。


心の声A(スカートかワンピース!)

心の声B(ここはプレゼントしなさいよ)

心の声C(お金無いもん)


 秋良は渋々貯金箱から10,000円札を取り出すとそれを翔吾に渡した。


(理解不能だわ、なんで貰ったものを返さなきゃならないの)


 翔吾は秋良をバスに押し込むと腰に手を回して吊り革に掴まった。


「ちょ、ちょっとなにするのよ!恥ずかしいじゃない!」

「あいつが見てる」

「はぁ!?」

「あの窓際の男が秋良を見てる、秋良は俺のもんだ」

「あの子、小学生だと思うけど」


 その日はこの調子で翔吾は秋良に必要以上に纏わり付いた。


(なに、この変わり様、俺さまは何処よ)


 二言目には「秋良」振り向けば「秋良」秋良がパウダールームに立ち寄れば出入り口で待ち構え、他の客に怪訝な顔で見られた。


「これにするわ」

「なんか制服みたいじゃねぇか」

「ふわふわのスカートよ、これで文句ないでしょう」


 気疲れした秋良はファッションフロアで早々に開襟のシンプルなワンピースを選んで10,000円札を店員に手渡した。お釣りは数百円だった。


「ピンクにすれば良かっただろ」

「まさか!ワンピースなんて中学生以来よ、恥ずかしい!」

「紺色」

「紺色でも十分よ!」

「明日、会社に着て来いよ」

「え」

「いや!着て来るな!」

「どっちなのよ」


心の声一同「秋良のは俺だけのもの!」


 結果、10,000円もしたワンピースは室内だけでの着用が許された。


「なんなのよもう」


 そして翔吾はワンピースの胸のボタンをひとつふたつと外し手を中に滑り込ませた。指先がブラジャーの隙間からやや硬くなった突起に触れた。


「秋良、良い?」

「良いもなにもやる満々じゃない」


 翔吾は枕元にコンドームを2個準備した。

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