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✾春雨の桜饅頭

希望は絶望に。


花は雫に。



ならばもう、願うのはやめようと春雨が降る中心は夜の底へと沈んでゆく。



月のない夜をずっと歩いているようだった。



灯りのない道を行く宛もなく歩いていくのは、心ともない。夢にも届かず曖昧なバイト生活を送る日々は私の心を殺していった――そう誰でもない、自分が選んでこうなったのだから、全部悪いのは自分だ。



雨で散ってしまった花の終焉を見つめ。



「あーあ。どうしてこうなんだろう」


「心がお腹、空いてるからじゃない」




思わず振り返る。そこにいたのは、春に咲く桜のように鮮やかな髪色の少年だった。



「これあげる」


「……桜饅頭」


「駅前の和菓子屋さんに季節関係なく売ってるんだけど、これすっごい美味しいから。――心がお腹空いてたら食べてみて? じゃあまたね」


それは春の夢だろうか。


後にも先にもその少年ともう一度出会う事はなかったけど。


あの日以来、もう心のお腹が空くことはない。





春雨の降る日は君を思い出す。


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