一階の一番奥まで連れてこられた。扉を開けた先には、大きな空間があり、いくつものテーブルと椅子が並べられ、壁際には料理が所狭しと並んでいた。どうやら、ビュッフェスタイルのようだ。
私はロゼに付いていき、同じようにして食べ物を取り分けていく。しかし、私の頭の中は先程のロゼの言葉が占めていた。
教育が普通じゃない。確かに途中からおかしいとは思っていた。聖騎士に経済学は必要ないと。
4人掛けのテーブルに陣取り、食事を取りながらロゼが話し出す。
「年下のアンジュが出来てしまうから、私達も頑張るじゃない?すると、また新たな課題が出るでしょ?アンジュはさっさと課題を終わらせて、仕事に行ってきますって出ていってしまうでしょ?そうすると、私達はクソ虫扱いされないために頑張るでしょ?の繰り返しよね」
え?私が悪かったという話?
「実技でもそうよね。アンジュ対他の9人でけちょんけちょんにされるでしょ?すると私達もこのクソがって頑張るでしょ?でも手足も出ずに地面に転がされるでしょ?クソ虫扱いされないために、アンジュの一挙手一投足を観察しだすでしょ?それが良かったのよね。きっと。」
なんだが、私がとても悪い子供に聞こえてしまうのは気の所為だろうか。いや、教会の教育方針を知らない私が、日々の小銭稼ぎの時間を作るために、速攻で午前中の課題を終わらせる行動が皆に迷惑をかけていたのだろう。これは完璧に私の所為だ。
「ロゼ姉。ごめんなさい。小銭稼ぎの時間を作る為に皆に迷惑をかけていたなんて、今まで知らなかった」
私はロゼ姉に頭を下げた。はぁ。無知は恐ろしい。なるべく、この世界で生きていくために情報を集めてはいたものの、それの殆どはこの国を出ていくための知識と情報だった。全ては無駄だったけれど。
「いいのよ。アンジュには感謝しているから。あの部屋にいた者達で5人は生きて聖騎士になっているからね」
5人。毎年10人の顔ぶれは変わる。その内16歳になるまでに死んだ者、貴族に買われた者、最後の試練から戻って来なかった者。以外が5人しかいなかったという意味だ。
「そうだ。勤務時間までまだ時間があるから、ちょっと今から付き合ってよ。今ならアンジュに一撃ぐらい入れられると思うの」
「いいよ」
ん?そう言えば、
「
「ああ、昨日
「え?誓いの儀式までして見送り?」
「それはそうでしょ?
ゼクトはプライドの塊と言っていい感じだったから、今頃荒れているだろう。あの状態から回復していればの話だけど。
そして、私は宿舎の地下に連れて来られた。この宿舎って地下があったのか。地下の廊下には4つの扉がある。
「
「そうよ。
なんか。凄く嫌味が含まれている。以前何かあったのだろうか。4つの内一つの扉にロゼが入っていく。
「基本的に空いていれば、使っていいわよ。でも、夕方以降に使いたければ、予約していたほうがいいわ。その時間は使いたい人が多くなるから」
基本的な業務時間は朝から夕方までだから、夕方以降に使いたい人は必然的に増えるのだろう。
部屋の中は石造りのただの何もない空間だ。広さはテニスコートぐらいだろうか。そこの中央にロゼが立つ。
「復元の結界の発動。時間は半刻」
ロゼがそう言うと、ロゼを中心に結界が広がっていく。いや、部屋の中心から広がっているのだ。
復元の結界。それは騎士養成学園の時に使用していた結界だ。結界の中であったことはなかったことにできる結界。怪我をしようが、腕がもげようが、結界を解けば全てが元通りになる復元の結界。
この部屋は復元の結界を時間指定して使う事ができる仕様のようだ。
ロゼは腰の剣を抜いたが、構えは取らない。どのような攻撃がきても、対応できるようにだろう。
私はというと、実は私の太刀は部屋に置いて来てしまったので、私の両手は空いている。だけど、それはそれで構わない。ロゼも剣はどうしたとは聞かない。別に私には必要ないと知っているからだ。
ロゼが残像を残して動いた。すぐさま私は右に体をひねると、背後から剣が私の横を通っていく。そのまま横に薙ぎ迫ってくる剣を拳で撫ぜるように軌道を変える。
すると、背後の気配は遠ざかったため、一歩後ろに下がれば、正面上部から剣が振りおろされ、地面にカツンとぶつかる。その剣を右足で蹴ろうとするが、再び距離を取られた。
「降参」
あれ?もういいの?
時間にしてみれば1分も満たない。
「はぁ。かなり本気で攻撃したのに、かすりもしない。全然勝てる気がしないわ」
「ロゼ姉。もう諦めるの?魔術とか全然使ってないけど?」
ロゼはため息を吐いて肩をすくめる。
「はぁ。だって私が魔術を使うとアンジュの規格外の魔術攻撃を受ける羽目になるでしょ?今から常闇の見回りに行くのに心まで折れたくないわ」
私が魔術を使うと心が折れる?そこまでの事はないと思う……思う?いや、言われてみればあったかもしれない。