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第67話 今日は部屋から出るな

 朝の揺蕩うまどろみの中、鳥の鳴き声が耳に入ってくる。


『ウッキョー!ウッキョー!』


 この耳をつんざくような鳴き声で叩き起こされる日々に苛ついてきた。せめて雀の鳴き声とかキジバトまでなら許せるのに、これじゃ田舎のばあちゃんの家に泊まりに行ったときの春の名物、うぐいすの鳴き声の練習並みにうるさい。


 あの毎朝鳴いている鳥を絞め殺したい。


 そして、毎朝の朝の攻防もいい加減になんとかしてほしい。


「るでぃ兄。起きたいのだけど?」


 私が動けない力で抱きしめないでほしい。そして、力を強めないでほしい。


「ルディだ」


 起きているじゃないか。わざわざそこを訂正しなくてもいいのでは?


「起きたいのだけど?」


 もう一度要望を言ってみる。


「アンジュがキスしてくれたら?」

「それは却下で」


 言葉を被せるように否定する。昨日からおかしい。いや、おかしいのは以前からだ。しかし、それに拍車をかけておかしくなっているのは気の所為だろうか?


 トントントントンと扉をノックする音が私の思考を遮った。音のする方向はルディの部屋の方だ。


「シュレイン。部隊長と副部隊長の緊急招集がかかったから起きろ」


 ファルの声が聞こえて来た。ん?緊急招集?何かあったのだろうか。


「ファルークスが行けばいい。今日はアンジュとデートだ」


 いや、駄目だろう。


「シュレイン。俺呼ばれているんだ。デートは明日にしてくれ」


「つまらないことで召集されたのなら、怒るぞ」


「いや、俺に言われても困る。早く用意しろ」


 そう言ってファルの気配が遠ざかった。やっと私はルディの腕から解放されたので、起き上がる。今日はファルのおかげで最短で朝の攻防が終わった。まだ、うるさい鳥が鳴いている間にだ。そう、うるさい鳥は毎朝半刻程鳴き続けている。それはもう、絞め殺したくなるよね。


「アンジュ。今日は第13部隊の方にはいかなくていい」


「は?」


 ルディは何を言っているのか。今日は別に休みの日では無い。と、いうか。基本的に毎日仕事だ。仕事らしきことは何もしていないけどね。


「部屋から出なくていい」


「何故に?」


 私は起き上がったルディをジト目で見る。


「アンジュを一人にしておくと、フラフラとどこかに行くだろう?」


「行かないし。詰め所に行くだけなのに、なんでフラフラしなきゃいけないわけ?」


「昇格試験のあと、戻らなかったのにか?」


 いや、あれは憂さ晴らしの為に森の中をフラフラと行って……ふらふらしてた!!


「いや。あれはちょっと体を動かしたくて?」


「わかったら今日は部屋から出るな」


 ルディはそう言って私を引き寄せ、口づけをして寝室を出ていった。結局、キスしてる!


 はぁ。


 ため息しか出ない。自分の部屋の方に戻り、自分の殺風景な寝室に入ってクローゼットを開く。部屋から出なくてもいいと言われたけれど、手に取ったのは白い隊服だ。

 結局いろんな服が並んでいるけれど、今まで同じ服しか着ていなかった弊害か、決められた服が一番しっくりくるのだ。

 はるか昔の記憶にある私はおしゃれに気を使っていたようだが、今の私は着ることができれはいいという考え方だ。

 しかし、私また太ったような気がする。既製品で一番小さいサイズの隊服でもブカブカだったはずなのに、今はピッタリのサイズになって……いや、少々キツイ。最近骨がミシミシといって痛いことから、遅いながらも成長痛が来たようだ。やっぱり最近食べすぎだよね。いや、栄養不足が解消されただけど。



「はぁ」


 寝室を出て身なりを整えて、リビングの座り心地のよいソファに腰を下ろして、はっと気がつく。私、食堂の場所を知らない!使い方も知らない!これは由々しき事態だ。過保護も過保護すぎる。


 これは探検するしかない。ルディの部屋に繋がる扉に張り付く。そして、その向こうの気配を探るが、ルディもファルの気配もなさそうだ。良し!


 部屋から出る扉をそーと開け、中廊下を伺い見る。人の気配はなし。良し!


 中廊下に出て、扉に鍵を掛けて下に降りるため、階段に向かって歩く。この階は最上階の4階のため、宿舎を出るには階段を使うしかない。


 2階まで降りたところで、知った顔に出逢った。


「ロゼ姉!」


 3歳から8歳まで同じ部屋で過ごした2つ年上のロゼだ。3歳から10歳までは10人部屋に入れられるため、ロゼが10歳になるまで同じ部屋で過ごした仲だ。


 名前の由来のようなピンクの髪に私と同じピンク目。よく姉妹かと言われた程、美しい女性だ。


「あれ?アンジュ。今日は彼氏と一緒ではないの?」


「彼氏ではないけど、朝から召集された。で、食堂の場所と使い方を教えて欲しい」


「え?今までどうしていたわけ?」


「部屋食」


「……」


 ロゼ。無言で遠い目をしないで!そして、可哀想な子を見るような目で私を見て、肩をポンポンと叩かないで。


「私も今から食べに行くから、いいわよ」


「それにしてもロゼ姉も将校オフィシエなんだね」


「それはアンジュのおかげよ」


 他愛も無い話をしながら、ロゼの横を歩いていく。私のおかげ?首を傾げてしまう。


「ねぇ。キルクスの教育って部屋ごとに違うって知っていた?」


 部屋ごとに違う?あの10人部屋のことだろうか。私は首を横に振る。


「それも一番できのいい子に合わせた教育になるのは?」


 それにも私は首を横に振る。


「私達の部屋の教育って、普通じゃなかったのよ」


 は?



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