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第65話 ミレーに殺されそうな人って誰?

 ゼクトは虫の息だったけど、生きていた。すぐさま、ザイルが飛んでいった左腕を回収して、ゼクトを担いでこの場を去っていく。ザイルもゼクトのおもりをしないといけないなんて大変だよね。


「やっぱり、相手にもならなかったな」


 第1部隊長の男性が私に近づいてきた。相手は私の事を知っているみたいだけど、私には全く記憶にない。


「最後のあの魔術は何だ?普通の『風渦ヴァンヴィーテ』じゃなかったようだが?」


 そう、普通は旋風つむじかぜを作る魔術だ。それは私はそれを強めに作用させ、ゼクトを中心に真空状態を作り出したのだ。ただ、この世界は科学より魔術が発展した世界だ。空気云々の説明が面倒くさい。だから私は第1部隊長に向かって言う。


「秘密です」


「秘密か、それは仕方がないな。それにしても、副隊長がどうしてもって言うからゼクトデュナミスを第1部隊に迎えたが、エヴォリュシオン家の坊っちゃんの箔付けをしたかったみたいだな。あの程度じゃその辺に吐き捨てるほどいるからな。

 将校オフィシエに剣を抜いた規律違反はこちらで処分をする。それでいいよな」


 最後の言葉はルディに向かって言ったようだ。ルディは一言『ああ』と答えただけですます。


 ルディの返答を聞いた第1部隊長は満足したように頷き、背を向けて去っていった。しかし、将校オフィシエに剣を抜いたら規律違反になるの?そんなこと聞いていなかったけど?


「るでぃ兄。将校オフィシエに剣を抜いたら規律違反になるって聞いていないけど?」


「それは昔、騎士シュヴァリエ将校オフィシエの地位が欲しくて、決闘をするという行為が横行したらしい。だから、決められた昇格試験以外で騎士シュヴァリエ将校オフィシエに私闘を申し込む行為が禁止された」


 おお、確かに実力主義であれば、私闘を申し込んで、将校オフィシエ成ることも可能だろう。だけど、騎士シュヴァリエ将校オフィシエの数はかなりの差がある。毎日のように私闘を申し込まれれば、職務に影響がでてくるだろう。


 しかし、今回の事は第1部隊長が私闘を促した感じもしたけど?これも私闘に入るのだろうか。いや、『不服なら』と言っていたのでゼクトの意志でという解釈になるのか?今回は曖昧なような気がする。


「戻ろうか」


 ルディはそう言って私の手を再び繋いできた。はぁ。私はもう部屋に戻って寝たい。今日は色々ありすぎた。



 しかし、私は自分の部屋に戻ることができず、第13部隊の詰め所に連れて来られた。そうだよね。仕事だものね。何もすることはないけれど。


 詰め所に行けば昇進パーティーだと言って、豪勢な昼食がダイニングテーブルに並んでおり、珍しく6人全員がダイニングで昼食をとって、昼間からお酒を飲んで騒がしい昼食を終えた。

 開店休業中と言っていい第13部隊だけど、昼間からお酒を飲んでも良かったのだろうか。と、目の前の惨状を見て思ってしまった。



「いつかあの傲慢王子を地獄に叩き落としてみせますわ」


 と、お酒を煽りながら放電しているミレー。


「きゃははは!!お酒を全部毒の水に変えてあげますぅー」


 グラスのお酒を笑いながら毒酒に変えているヴィオ。


「やめてよー。僕のだよー」


 泣きながらヴィオに縋っているシャール。シャール。君はまだ未成年だから果汁水を飲んでいたはずでは?

 ティオは早々に床に転がっている。


 この状態で放置していいのだろうか。


「後でティオが起きたら片付けるから、このままでいい」


 ファルがこの惨状をニヤニヤしながら見て言った。これはいつもどおりの風景なのか。


 私はリビング兼プレイルームに連れて来られ、食後のお茶を飲みながら考えていた。因みに私はお酒は飲んでいません。職務中にお酒を飲むなんて、職務怠慢だからね。……何も仕事は無いけれど。


 考えていた事は先程の事だ。ミレーが『傲慢王子』と言っていたが、この国の国王陛下……あの白銀の王には子供はいなかった筈だ。では、王族の誰かのことだろうか。……国を滅ぼそうとするほどの恨みを抱えるほど『傲慢王子』はミレーに何をしたのだろう。


 ファルなら知っているだろうか。暇があると書類の山に目を通しているファルに尋ねる。


「ファル様。ミレーが言っていた『傲慢王子』っていう、ミレーに殺されそうな人って誰?」


「あ?ロイドヴァルフォード王子の事だ」


 ファルが書類から目を離さずに教えてくれるが、誰かさっぱりわからない。誰だよロイドって。


「ロイド王子が全くもってわからないのだけど?この国の王様に子供はいないはずだし?」


「エスタニア帝国の第2王子だ」


 これにはルディが答えてくれた。

 エスタニア帝国。確かこの国の北側にある大国の名だ。と、いうことはミレーは帝国に対し千年落ち続ける稲妻の呪いを作り出そうとしているのか。


 因みに私は一人掛けのソファにいるものの、ルディの膝の上に座らされている。この定位置はもう変わらないのだろうか。


「ふーん。その第2王子は何をしてミレーを怒らせたの?」


「それは、男爵令嬢を正妃に迎えたいために、公爵令嬢のミレーフィリア嬢を在りもしない罪をきせて、身分剥奪の上に国外追放したからな」


 おお!またしても王道な小説のネタになりそうな話だ。それはミレーも怒るよね。しかし、そんなでっち上げた罪なんて直ぐにばれそうなものだけど?


「ミレーの家族はそのことに対して抗議しなかったの?」


「していたらここには居ないだろう?」


 ああ、これが以前ミレーが言っていた言葉に繋がるのか。


『私、アンジュさんの話を聞いて思いましたの、家族ってそうあるべきですわって』


 ミレーの家族はミレーを守ってくれなかったことから出た言葉だったのだ。



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