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第61話 何を斬るつもり?

「これはレイグラーシアの指輪です。これを持つものは王族に認められた者という意味がありますからね。必要があれば使いなさい」


 もしかして、これは一種の権力の証というわけか。しかし、何故にこれを神父様が?

 いや、恐らくこれは王族の内情に関わってきそうなので聞かないほうが良さそうだ。

 あの白銀の王が存在している理由とか。


 ふと体が軽くなった。体の自由が戻った。私は速攻、指輪を外すべく右手で左手の小指から抜き取ろうとするが、取れない。ピッタリとハマっており、全く動かない。


「これも呪いの指輪なの!」


 思わず叫んでしまった。後ろではとうとう耐えきれなくなったファルが壁を叩きながらヒィーヒィー言っている。


「アンジュ。呪いの指輪ではないですよ。王族しか取り外しが不可能だというだけです」


 それが、呪いだと言っている。他に何かあるよね。これだけ精巧に作られて王族しか扱えない指輪ってだけじゃないよね。


「それで、神父様。この指輪の本来の使い方はなんですか?」


「秘密の通路の通行手形にもなりますね」


 いけしゃあしゃあと問題発言をしてくれた。それ、普通は知られたらいけない通路のことだよね。

 いや、いざとなればその通路を使えということか。しかし、私はどこに秘密の通路があるか知らないので宝の持ち腐れになるだろう。


「他に用途はないですか?」


「無いですよ」


「本当ですか?」


「……精霊石から精霊が生まれてくることがあると聞いたことがありますが、真偽の程はわかりませんね」


 精霊石!この青い真ん中の石がそうなのか?やはり普通の指輪じゃなかった。精霊とかいう不可解な物体が取り憑いた指輪だった。私の所持品に呪いのアイテムがまた増えてしまった。


 神父様は胡散臭い笑顔で、私の頭を一撫でして、もう用は終わったとばかりに部屋を出ていった。

 扉が閉じた事を確認してすぐさま、私は後ろを振り返り、ルディに左手を突き出して言う。


「コレ取って!」


 と、言ったものの、速攻左手を隠して重力の聖痕の力で背後の壁に張り付く。

 私の目の前には剣を……いや、私の作った刀を抜いたルディがいた。それも人を射殺しそうな表情をしたルディがだ。

 そもそも今日は普通の礼式用の剣を腰に佩くはずなのに、何故に本物を持っているんだ!


 ファルを伺い見ると、ニヤニヤと笑っている。自分は関係ないと言わんばかりだ。


 何がルディの機嫌を損ねている?やっぱり、神父様がはめた指輪が原因か。もしかして、抜いた刀で私の指ごと斬ろうとしてないよね。


「るでぃ兄。その刀で何を斬るつもり?」


 取り敢えず聞いてみる。


「アンジュ。左手の小指をだせ。直ぐに終わる」


 やっぱり!!それも、瞳孔が開いた目で私を見ないでほしい。すごく怖い。

 そもそも斬らなくてもいいよね。王族なら取り外しが可能なら、ルディでも外せるはず!


「さっき神父様が王族なら取り外しが可能って言っていたよね。私の小指を斬らなくても、るでぃ兄なら外せるよね」


 徐々に近づいてくるルディから、どう逃げるか思案しながら、斬る必要がないことを言ってみる。


「それはリュミエール神父の魔力が込められているから、俺では外せない」


 なんだって!嘘をつかれた!!

 王族なら取り外しが可能なはずではなかったの?

 目の前まで迫ってきたルディから逃げる為に今度は天井に重力の支点を置き、天井を足場にして、俺関係ないし、という感じのファルの背後に降り立ち、盾とした。


「ウォ!こっちに来るな!」


 逃げようとするファルの両肩を持ち、引き止める。


「俺を巻き込むな!」


 一人だけ安全圏にいるなんて許されないよね。ルディの目が私とファルを捉える。深淵を覗き込んでいるような目を向けられて、思わず息が引きつる。あの悪魔神父!お祝いと言いながらとんでもない爆弾を置いて行ってくれた。


「シュレイン。待て、落ち着くんだ」


 ファルがジリジリと後退しながらルディに話しかける。という事は背後にいる私もジリジリ後退している。


 先程、悪魔神父が出ていった扉の近くまで下がって来たので、あとは猛ダッシュで逃げればいい。

 私が扉に手をかけようとしたところで、その扉が勢いよく部屋の外側から開けられた。


「何をしているのかなぁ?案内の人が困っているよ?」

「そうそう、この部屋から漏れ出る威圧でガタガタ震えて可哀想」


 金髪金眼のそっくりな二人の男性が扉から入ってきた。


「ヒュー様!アスト様!」


 そう、双子の兄弟であるヒューとアストが入ってきた。助かった。もう、私は指を斬られるしかないかと思っていたが、戦力が増えたので逃げれそうだ。


「リュミエール神父に様子を見てくるように言われたけれど、これは……」


 ヒューが首を傾げながら、ルディと私を交互に見て、アストはウンウンと何か納得したように頷いている。

 そして、アストがファルを盾にしている私の更に背後に回ってきて両脇をつかんできた。そして、私はファルから引き剥がされてしまった。


「え゛?」


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