王という立場である以上、綺麗事では済まされないことは理解できる。
いざとなれば人を切り捨てなければならないこともあるだろう。人を陥れることもあるだろう。だが、私はあの人物が異常だと感じた。
私は幽霊というか、怨霊というかそういうものを初めて目にしたのだ。
今まで見たことがなかったのに、あの場だけ見えたという事は、それほど異常だったのではないのだろうか。
そして、神父様は見えていたはずだ。なぜなら、普通では見えない血の海から出てきて恨み言を言っているモノを足蹴にしてグリグリしていたのを私は見てしまった。
神父様の目の前にいた王様は私をジロジロ見ていたから、神父様の行動には注視していなかった。
そう、神父様の足元に首だけが転がっていた初老の顔をしたモノが言っていた。
『なぜ、貴方が王に立たなかったのだ。貴方様が王となれば、この様な愚民に簒奪されなかったというのに、なぜだ!ぐぼっ(ここで頭を踏まれ血の池に戻っていった)』
と、言っていた。かなりこれは問題発言を聞いてしまったと、その時は内心焦っていた。
神父様はこの国の王として立てる立場であったと。それは豚貴族も言うことを聞くだろう。
そして、一番の問題発言は愚民という言葉だ。あの白銀の王様は王家の血など一滴も入っていないということだ。だから、
何がどうなって、アレが王になったのかはわからないが、裏で色々していることは、周りにいるモノたちの言葉から推測できた。この国は腐っている根源をみてしまった気がする。
「はぁ。アンジュ、あれは見なかったことにしなさい。わかりましたね」
「はーい」
取り敢えず、おざなりに返事をしておく。今現在、私に害があるわけではないので、それでいい。私にとって目の前の神父様を怒らせる方が怖いからだ。
「そう言えば、アンジュにお祝いを渡すのを忘れていましたね」
お祝い?神父様から私にお祝い?なに?すごく、恐ろしい感じがしてしまうのは私の気の所為だろうか。
じりじりと私は後退していく。
「流石、アンジュですね。1階級飛ばして
再び胡散臭い笑顔になった神父様が私を褒めているようだが、私としては全く褒められている気がしない。
「まぁ、本当は10年前に推薦枠で聖騎士団に入団できる実力はありましたから、驚くほどではないですよね」
「は?」
なんだか嫌な言葉が聞こえたような気がする。推薦枠ってなに?それに10年前はまだ聖痕は発現していなかったはずだ。
「おや、アンジュは知らなかったのですか?大型の魔物を倒せる実力があれば、各教会で推薦できるのですよ。聖痕がなくても聖術を使いこなせれば容易いことですからね」
知らないよ!そんな話、初耳だ。いや、この悪魔神父ならワザと私の耳に入らないようにしていた可能性もある。
私が逃げ出そうとしていたことに対して、感づいていただろうから。
私はその間もじりじりと後退していった。何を渡す気か知らないが、神父様がわざわざお祝いだなんて怪しすぎて、受け取る気にもならない。文句は言ったのでこのまま逃げ去ろう。
「シュレイン。アンジュを捕獲しなさい」
「はっ!」
え゛?
私の背後から動く気配が感じられ、素早く逃げ出そうとすれば、体が固まったかのように動かない。背後に視線だけ向ければ、私の影を踏んだルディの足が見えた。
『影縫い』をしてやられた!!これでは逃げられないじゃない!
「シュレイン、面白い魔術を使っていますね」
そう言いながら神父様は近づいて来て私の左手を取った。
「アンジュが教えてくれました」
ルディ。真面目に答えなくていいから、影縫いを解いてほしい。ルディの言葉に神父様は私をみてニコリと笑う。思わず肌が粟立った。
「相変わらず、アンジュは魔術を創るのが得意ですね」
神父様は私の左手の小指に金色の細い指輪をはめた。金色の細い指輪だけれど、中央に小さな青い石があり、同じ石だと思われる青色で複雑に紋様を描いていた。これ、普通の指輪じゃない?
「アンジュ。困った事があれば、この指輪を見せれば大抵解決しますよ」
怪しい。怪しすぎる。指輪が解決するってなに?!
「この指輪が爆発したりします?」
「しませんよ」
(ぐふっ)
「光線出します?」
「出しませんよ」
(ぶふっ)
「
「アンジュが持っているものと同じものを渡しても意味がないですよね」
私がつけているミレーの呪いの指輪を見ただけで、どういうものかわかるなんて、相変わらず神父様は恐ろしい。
(うぐっ)
うるさいファル。笑うなら普通に笑えばいい。