「陛下、歓談中失礼します」
ルディがソファに座っている人物に話しかけたと思われるが、へいか?もしかして、アレが国王陛下?なんか思ってたんとちゃう(エセ関西風)
個人的な王様という印象は、高いところで偉そうにふんぞり返っているおっさんのイメージだ。
いや、ルディの兄ということはアレでも王様ってことか。
「ああ、お前か」
ルディが声を掛けた瞬間、白銀の王様は一瞬にして不機嫌な顔になり、ルディに見下すような視線を向ける。
「それで、そのみすぼらしい娘がお前が結婚相手に望んだ者か··」
そう言って白銀の王様はジロジロと私を観察をしだす。すっごく不愉快な視線だ。みすぼらしいのは認めるけど、こんな王様でこの国いいわけ?
「ふん。色は王家に迎えるにはよいから、認めるが、それだけだ。青き血が入っておらぬ者を王宮に入れることは認めぬ。まぁ。日を掲げる者なら余の妃の一人にでも迎えてやったがな。期待外れだったな。もう良い去れ」
白銀の王様は用はもうないと言わんばかりに、追い出すように手を振った。
何が期待外れだ!私の方が期待外れだ!!
「この度のご助力、感謝を申し上げます」
ルディは白銀の王様に頭を下げて、感謝の言葉を述べて踵を返し、私の背中を押して部屋から出ようする。その時、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「では、私も御前を失礼させていただきます」
やっぱり、そうだったのか。
白銀の王様の眼の前に座っていた人物が立ち上がり、頭を下げてからこちらに振り返った。金髪の悪魔神父がニコニコとした笑顔を向けてきたのだった。
「神父様。文句言っていいですか?」
ルディに今回の昇格者の個人の控室に案内された。ただ、私は神父様に山程言いたい事があったので、腕をつかんでそのまま連れて来たのだ。この部屋は10帖程だろうか。シンプルに壁際に長椅子が並べてあるだけの部屋だった。
「文句ですか?一つだけなら聞いてあげますよ?」
1つ?!1つだけなんて全然足りない。せめて3つは言いたい!私は神父様の目の前に3本の指を立てる。
「最低3つです!」
私は神父様に詰め寄っているが、ルディとファルは私と神父様と少し離れたところで姿勢を正して控えている。教会で皆が神父様の前で取る態度と同じだ。
「まだ、儀式が始まるまで時間がありますから、3つを手短にならいいですよ」
時間があるなら手短でなくてもいいはず!だけど、聞いてもらえるうちに言っておかないと、時間切れですと言われそうだ。
私は一つ指を折る。
「私のお金に制限をかけるなんてやりすぎだと思います!上限が100万
「それですか。アンジュ、イレイザーを怖がらせては駄目ですよ」
何故に私が逆に怒られている?そもそも、イレイって誰?私が何を怖がらせたと?
「誰かわかっていないようですが、イレイザーからアンジュの伝言は聞いていますよ。離れているアンジュの声が真後ろから聞こえることがあって怖すぎるって相談を前から受けているのです」
ああ、イレイって私を常闇に放り投げたヤツの名前か。
「それで、2つ目はなんですか?」
いや、私のお金に関しての釈明を聞いていない。神父様をにらみつける。
「お金に関してはアンジュなら理解できているでしょう?私が説明する必要ないですよね」
ちっ!ええ、わかってますよ。私は2本目の指を折る。
「やっぱり、私が言ったとおり悪手でしたよね。おかげで私に自由がないのですが?」
何が悪手だったかの主語は言わない。だけど、神父様なら言わなくても理解できるはずだ。
「それはアンジュが中途半端なことをしたからですよね?」
何故に、また私が悪いことになっているのか。そもそも、神父様が私を殺そうとしたのが、元々の発端だよね。
不可解な表情をしていると、神父様が私の耳元で囁いた。
「-あれはシュレインとアンジュが合流したところで助けが入る予定だったのですよ。そして、魔物に攻撃されたところで、黒焦げの死体と入れ替える予定だったのですが、まさかアンジュが単独で魔物を討伐してしまうなんて中途半端なことをしてしまったので、予定が狂ってしまいました-」
いや、それならそうと説明してよ。私はあの時すごく必死だったのだけど!!
「説明しなかった神父様が悪い。私は悪くない!」
「駄目ですよ。己の非は認めないと」
くぅー!!私は絶対に悪くない!
「それで3つ目はなんですか?そろそろ定刻に近づいて来ましたから簡潔にお願いしますね」
時間はまだそんなに経ってないはず!なのに簡潔に?簡潔にだって?!それなら……
「あの白い人、最悪だよね!」
言い足りないけど、まぁいいや。もう言いたいことは終わったと、私は一歩神父様から距離を取る。しかし、神父様はその分の距離を一歩詰めてきた。私は更に後ろに下がる。
「何が最悪なのですかね。アンジュ?」
再び距離を詰められる。私は答えずまた一歩下がる。
「アンジュ。答えなさい」
胡散臭い笑顔を浮かべていない神父様が私の目の前にいた。どうやら、私が答えないことに、笑顔を浮かべるのをやめたようだ。この神父様を目の前にするのは何年ぶりだろうか。朝まで説教された記憶が蘇ってきた。
頭を横に振り、私のトラウマをふるい落とす。
「神父様も見えてましたよね?」
左目では見えなかったけど、私の右目はしっかりとその姿を捉えていたのだ。白銀の王様の足元には血の池が広がっていた。もちろんこれは現実ではない。
その血の海に沈み込んでいるモノ。王の周りにいるモノ。呪いの言葉でも吐き捨てるかのように、恨みつらみを言い続けている人の形をしたモノたちがいたのだ。内容を聞いてしまった身としては、アレを王に掲げるのはどうかと思ってしまったのだった。