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第57話 従騎士か騎士……え?違う?

 私の目の前には白い真新しい隊服と礼装用の隊服と戦闘用のチェーンメイルにサーコートにマントがあった。私の頭の中はハテナでいっぱいだ。これはなんだろうと。


「ぐふっ。アンジュ良かったな。2階級特進だ」


 え?意味がわからないのだけど?普通なら従騎士か騎士シュヴァリエになるはずでは?


「え?3階級じゃないんっすか?」


「ティオ。従騎士は階級に含まれないよ。勉強不足だね」


「アンジュちゃんに簡単に抜かされてしまったわ。これから上官になるのね」


「す、すごいです」


 いや、何故に私が将校オフィシエに成ることになっているのか。これは流石におかしすぎる。


「これは間違いだ。こんなのあり得ない。私はまだ騎士シュヴァリエになってない!」


「アンジュ。間違いではないですよ。これからはお揃いですね」


 ルディは胡散臭い笑顔でお揃いだなんて言っているが、説明をしろ!説明を!


「説明!こんなのおかしい!」


 私はルディに訴える。ただ、今の私はというとルディの膝の上で捕獲されている。これもおかしいと何度も言っているが改善しない。


「ふっ。アンジュ、何もおかしくはない。ぶふっ。将校オフィシエ57人から推薦されたのだ。上層部も認めなければならない」


 笑い過ぎてお腹が痛いと言い出したファルが説明してくれたけど。何?!57人ってなに?

 将校オフィシエは100人だと聞いたから半数以上じゃないか!何が起こったんだ!


「私、将校オフィシエから推薦される理由なんてないよ」


「ありますよ。その将校オフィシエはすべてキルクス出身者ですからね」


 将校オフィシエの半分以上がキルクス出身者で占められているなんて、流石悪魔神父。


「え?でも将校オフィシエの枠って空いていたの?」


「……」

「……」


 何故か二人して無言に。……あれか!ルディの所為か。まだ、将校オフィシエ枠が空いていたということか。


「はぁ。でもキルクス出身だからって、推薦される理由にはならないよね」


「ああ、理由の一つは先日の昇格試験だ。昇格試験は会議室と将校オフィシエが使用できる食堂に映像で流されていたんだ」


「は?」


 ファルがニヤニヤしながら、教えてくれた。


「それはそうだろう?見習いを何処の部隊に配属されるかを決めなければならないだろう?どの部隊がどの者を引き取るという話し合いの会議でもあったんだ」


 ああ、だからルディはくだらない会議と言ったのか。第13部隊に新たに配属される者はいないのだから。


「まぁ、俺は食堂の方で見ていたんだけどな。アンジュ。あの時、容赦無かっただろう?」


 そう言ってファルは自分の首に向けて右手の親指を横一線に引いた。


「無表情のままトドメをさした。これが評価の一つだ。感情というものに左右されず剣を振るうことができるかということだ。あのときは食堂にざわめきが起こったが、半分ぐらいは当たり前だという感じだったな」


 その半分がキルクス出身者ということか。当たり前、きっとそう思えるのは悪魔神父の教育の所為だろう。


「それぐらいなら、他のキルクス出身者でも同じだよね」


「まぁ、そうだな。あとはアンジュだからという理由だな」


 どんな理由だ!それこそ意味がわからない!


「アンジュは可愛いですからね」


 ルディ!それこそ理由にならない!可愛いは正義だが、将校オフィシエになる理由には値しない。


「アンジュ」


 ファルが真面目な顔をして私の名を呼んだ。


「キルクス出身者全員が推薦をしたんだ。この理由がアンジュにわからないはずはないだろう?」


 ファルの視線は私とルディを見ている。まぁ、何となく予想はしていた。私はルディにとって諸刃の剣ということ。


 恐らくそのキルクス出身者たちのほとんどがルディとファルの同期の者たちなのだろう。

 キルクスでの最後の演習で聖痕を発現させ暴走させたルディ。上層部の殆どを入れ替わるきっかけを作ることになった事件をおこしたのもルディだ。

 そして、2つの事件の発端となったのが私だったということ。


 ルディに私をつけておけば、取り敢えずいいだろうという判断か。



「はぁ。予想はついていたけど、もっとまともな理由が良かった」


 私はがくりと肩を落とす。私の実力を認められたわけじゃなく。ルディの精神安定剤が理由だったのか。



_____________


将校オフィシエ専用食堂 side


 時は少し遡り、アンジュが試験を受けていた最中



「あら?最初からアンジュちゃんが行くのね」


「相手の子との実力差ありすぎ、一撃だろ?こんなの」


「なんか場外までぶっ飛ばされた事を思い出してしまった」


「やめろよ。あの後3日間、死ぬ思いしたことまで思い出すだろ」


「あれでよく、俺生きていたよな」


「生き残れたわね」


「ああ、これが生きているってことだと思ったもんなぁ」


 食堂の一部が通夜のようにどんよりとした雰囲気に包まれた瞬間、ざわめきが起こる。


「やっぱ、一撃だな」


「でも、本人は相手が弱すぎて戸惑っているよな」


「思わず剣を引いたって感じよね」


『『『オォ––––––––!!』』』


 食堂に歓声が響き渡った。


「まぁ、わかりきっていた結果だ」


「ぶっちゃけ、今でも勝てるとは思えねぇよな」


「あのときなぜ場外に飛ばされたのか今でもわからないものね」


「俺さぁ。聞いちゃったんだよね。3年前にドラゴンが街道に巣を作ってしまったっていう討伐依頼のときにさぁ。ドラゴンのことを『飛べないドラゴンはただのトカゲだ』と言いながら縊り殺していたのを」


「トカゲかぁ」

「トカゲなのねぇ」

「ぶっ!トカゲ!!」


 アンジュにとってはドラゴンなどトカゲに等しいのだと、この話を聞いた者達は思ったのだ。

 もう、将校オフィシエでいいのではないのかと。



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