ああ、胸糞悪い。
さっさと試験を終えた私は訓練場を後にする。私は第13部隊の詰め所がある北の森の中を歩いている。この腹の虫をどう収めるべきか。
何となくは予想はしていた。だが、それが真実だと突きつけられてしまった。
彼女は言った。『産み腹になるのは嫌』だと。そういうことだ。使えなくなった聖質持ちは聖女誕生計画に組み込まれるのだろう。
神父様が言っていた。聖騎士を辞めると貴族に娶られると、これは恐らく優しい言い回しだったと思われる。
本来はそんな
森が少し開けた場所に出てきた。心を無にして太刀を抜き、身体強化と聖痕を併用して振るう。頭の中で映画やドラマでみた殺陣を思い出しながら、体を動かす。
しかし、イライラが収まることはない。
1部隊が150人というカラクリもそうだ。騎士として立ちたければ、己の力でその席を奪い取れということだ。今回いた従騎士の者達は恐らく従騎士として残れるか、それとも騎士団を去るかという選択肢を迫られていたのだろう。だから、従騎士たちから感じる殺気というものは、見習いの者たちとは違った。彼らに今後の未来というものは無いに等しいものだった。
ヒューとアストが言っていたルディのお陰で、
ああ、一人で刀を振るっていても、全く集中できない。
「【結界】【分身】」
周りに強固な結界を張り、私をもう一人作る。いわゆる分身の術だ。私は私に向かって太刀を振るう。受け止められ往なされる。そのまま、私に向かって蹴りを入れるが、避けられてしまう。背後から太刀が襲って来たものを体を捻り、避け、下から袈裟斬りにする。避けられ、攻撃し、往なされ、攻撃される。
段々と頭の中がクリアになってきた。
そう、目の前の相手に集中すればいい。数刻は打ち合っただろうか。日が陰り始め、分身と距離を取って、太刀を収める。
そして、私の分身を消し、結界も消した。
ふーっと長く息を吐きだす。
その時ドスッと横からの衝撃が!
「アンジュ!結界を解くように言っていたのが聞こえなかったのか!」
ルディが結界の外に居たのは気がついていたけど、流石に声までは届かないかな。だから、そんなにぎゅうぎゅうに締めないでほしい。
「声が聞こえたら、結界の意味ある?」
しかし、会議というものは終わったのだろうか。いや、日が陰り始めているので終わってはいるだろうね。
「さっきのもう一人のアンジュはなんだったんだ?」
「え?普通に分身」
「人は普通には分身をしない」
まぁ。そうだね。あっちこっちで同じ人がいたら気味が悪いよね。
「正確には影の分身ってかんじかなぁ?で、るでぃ兄は何か用でもあった?」
「試験が終わって大分経つのにアンジュが戻って来なかったら探しに行くのは普通だ」
え?そういうもの?っていうか会議に行っていたのでは?
「ヒューゲルボルカとかアストヴィエントに問い詰めても、一番に戻っていったとしかわからなかったんだ。やはり、くだらない会議になんて出ずにアンジュに付いていけばよかった」
いや、会議には出ようよ。くっ。内臓が出そうだ。
はぁ。ルディがここまで悪化した原因もわかった。私の掛けた
「別に子供じゃないから大丈夫だし、会議はちゃんと出た方がいいと思う」
「大丈夫じゃない。アンジュにまで手を伸ばしてきたら、俺は今度は絶対に許さない。絶対に。リュミエール神父が仲裁に入ってこようが今度は許さない」
ん?神父様が?あれ?なんか記憶の隅に引っかかるものが……。
『アンジュ。貴女の作品を私に売ってくださいませんか?』
『神父様。このような子供から物をむしり取ろうと言うのですか?』
『いえいえ。売って欲しいと言っているのですよ』
あれか!小遣い稼ぎで作っていた刺繍のハンカチにイニシャルを刺繍させられ、渡した記憶がある。今思えばあれはルディのイニシャルだった。
「ねぇ。るでぃ兄。よくわからない刺繍のイニシャルが入ったハンカチって持っている?」
「よくわからない?刺繍?」
「えーと蛇みたいなモノが刺繍されたもの」
「ああ、これか」
そう言って、ルディは懐から昇龍の図柄のハンカチを取り出した。回収!
「アンジュ!」
「回収!これは回収!問題がありすぎるから回収!」
この図柄が刺繍されたものが問題があるとわかって、回収され破棄をされたが、ただ一つだけ何処にあるか行方がわからなかったのだ。神父様に言われてイニシャルを入れた一枚の行方が。
「アンジュ!それはリュミエール神父がアンジュの形見……あ?」
「これを持っていると攻撃力が上昇してしまうから、神父様から禁止って言われたものだから回収!」
「それは魔術具ってことか?別に俺が持つぐらいはいいと思うが?」
え?いいの?いいのか?私が首をかしげていると、ハンカチを奪いとられ隠されてしまった。いや、攻撃力が倍化するハンカチは危険過ぎる!