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第55話 世界は腐っている

「ヒュー様、アスト様。お久しぶりです」


 そう、私にお菓子をよくくれていたルディとファルの同期の二人だ。


「やぁ、アンジュ久しぶりだね」

「宿舎じゃよくすれ違うけど、シュレインが怖すぎるんだよ」


 二人はよく似ているというか双子なのだ。金髪に金眼。髪型も容姿も同じ。ただ違うのは魔質が違う。


「ヒュー様。10年ぶりです」

「アスト様。宿舎で挨拶ができずに申し訳ありません。るでぃ兄ってなんとかなりません?」


「「やっぱり、アンジュは俺たちがわかるのだな」」


 おお、流石に双子。ステレオスピーカーかと思うほど、揃っている。


「わかりますよ。お二人は違いますから」


 ええ、魔質が。私はへらりと笑う。すると、二人揃って私の頭を撫ぜ出した。その行動に周りからどよめきが沸き起こる。


「それで、そのるでぃ兄って何があったのでしょうか?10年前より酷くなっているのですが?」


 この二人なら知っているはずだ。すると、二人は顔を見合わせる。


「それはね。それが原因かな?」


 ヒュー様が私の銀髪を指さした。銀髪?意味がわからないという顔をしていると、アスト様が続きを話す。


「リュミエール神父から箝口令が敷かれていたけれど、アンジュがシュレインの中では死んだことにされていたよね?」


 そうですね。悪魔神父の画策ですね。


「それで、遺髪としてシュレインにその銀髪を渡した」


 ああ、そう言えばそんな物をファル経由で渡した。それがなに?


「「それをシュレインから奪い取った者達がいたんだ」」


 おお、またしてのステレオスピーカーが!

 それにしても私の銀髪を奪い取った者達・・?確かあれってルディの精神を落ち着かせるように呪をかけていたはず。ということは、中途半端に精神が安定したところにお守り代わりに渡していた銀髪が奪い取られて悪化した?!


「「あれは今思い返しても酷い有様だった。自業自得だったが、その後、上層部の大半が入れ替わってね」」


 ああ、これがルディの二つ名の元となったことか。


「「お陰で、将校オフィシエの枠が一気に空いたから感謝だね。だから、アンジュも今回は思いっきりやって大丈夫だよ」」


 将校オフィシエの枠が空いたねぇ。


「ヒュー様、アスト様、ありがとうございます。思いっきりって、何をするのか何も聞いていないのですが?」


「「大丈夫、大丈夫、目の前の対戦相手を教会に居たときみたいに、力比べをすればいいだけ」」


 ああ、要は勝てばいいってこと。私はヒューとアストに頭を下げて元いた場所まで戻る。私の姿を幾人もの視線が追いかけていたが、そんなものは無視だ。


 そして、準備が整ったのか対戦相手同士の名が呼ばれ始めた。初めに従騎士エスクァイアのである者達のうち5人が呼ばれ、その次に見習いの5人が呼ばれた。どうやら、従騎士エスクァイア対見習いの構図のようだ。そして、最初の対戦相手の中に私の名前もあった。


 私は5番目に呼ばれたので、従騎士エスクァイアで5番目に呼ばれた対戦相手の前に立つ。栗色の髪に緑の瞳が印象的な女性の従騎士エスクァイアだった。

 その女性従騎士に私は睨まれている。ヒューとアストに話しかけたのが駄目だったのだろうか。まぁ、二人は見た目のいい双子だから、さぞかしモテるのだろう。

 しかし、久しぶりに会って挨拶をしない方が問題だ。


 女性従騎士が剣を抜いて構える。構えているが、スキがある。これはワザとなのだろうか?スキを敢えて作って、そこに攻撃をさせようという作戦か!そうか。そうか。しかし、その手には乗らん!


 私も太刀を抜き構える。私の太刀を見て女性従騎士の雰囲気が増々悪くなってきた。


「あんたなんかに負けないから!私には後がないのよ!」


 そう言って、女性従騎士が上段から剣を振り降ろしてきた。私は女性従騎士の力量を測るために、いつも教会の子達との力比べと同様に私も上段から太刀を振う。

 剣と太刀がぶつかり、いつもどおり更に力を加えようとしたとこで、がくんと太刀がそのまま下に向かっていく。


 は?


 太刀は剣を押したまま女性従騎士の肩に食い込んでいく。私は慌てて太刀を引くが、すでに肩に10セルメルほどの深さに、斬ってしまった後だった。


 弱い、弱すぎる。なにこれ?なんで彼女が聖騎士団に入れたの?これだったら、死んでいった皆の方が強かった。


 肩を押さえ地面に膝を付いて、荒々しく息をしている。そこで、膝なんてついてしまう時点で駄目だし、腕がもげようが足がもげようが、剣を振らなければ待ち受けるのは死のみだ。そう、教えられてきたというのに、これは何?


 私が不可解な者を見る視線を向けていると、女性従騎士が苦しそうに言葉をこぼしだした。


「こ……ころし……なさい··よ」


 はぁ?


「殺し…て……。う……ば……になる……のは……嫌!」


 ああ、そういうこと。本当に組織というものはクソだ。

 私は太刀を横一線に振った。栗色の髪が宙を舞い。緑の瞳は空を仰いている。生きることを諦めた体は力なく地面に倒れていった。


 太刀を振るい鞘に収め、私は緑の瞳が見ていた空を見上げる。なんて、この世界は腐っているんだ。



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