結局、泣く泣くルディの名義の口座に振込むことにして、その後、私の聖騎士の口座が作られれば、そこに入れてくれるらしい。
そして、私はルディとカーラとレイとでお昼を一緒に食べている。場所は王都の下町の食堂だが、個室をとって食べている。
理由は色々あるが、やはりカーラのことをレイが気遣って個室のある食堂を選んだのだろう。
「それでね。アンジュちゃんが私を助けてくれたってわけ」
「それはすごく共感できますね」
ルディとカーラが何故か二人で盛り上がっている。二人の共通点はというと、ルディは黒い髪に目であり、カーラは焦げ茶色の髪に目だ。そう、見た目で人から忌避される濃いめの色合いなのだ。
カーラと出会ったのは私が10歳のときで、カーラは16歳。成人して冒険者を始めようとしているカーラに私は出会ったのだ。
カーラが何故冒険者というものになろうと思ったのか。それは、カーラの色合いだと、どこも雇ってくれるところが無かったそうだ。
そして、冒険者になろうと思ったそうなのだが、ここでも色を理由にいじめられるということは起きていた。まぁ、そこで私がいじめていた奴らを、ぶちのめしてやったのだけど。
そのぶちのめしているところを、キルクスに来たばかりのレイに見られており、何故か私がレイに『独り立ちできるまで面倒を見てやるから安心しろ』と言われてしまったのだ。後から聞くと、レイ自身が己を恥だと思ったと言っていたのだけど、それを私に言うのも意味もわからなかった。
それって、私に言うこと?
まぁ、あれから二人が今まで一緒にいるということは、それなりの関係になったということなのだろう。
「それで、ある時、見た目のいい幼い子供が攫われるという事件が頻発してね。領主の姫君まで攫われてしまったから、
カーラが幼女誘拐事件の話をしだした。それは話さなくてもいいよ。
「領主は私兵を出して捜索したけれど見つからず、冒険者ギルドにも依頼を出すことになったのよ。領主の姫君を探しだせば、冒険者だろうが民であろうが報酬を出すとね。領主はプライドも何もかも投げ捨てて、娘を探し出そうとしたのよ」
「その依頼を見たアンジュは何を言ったと思う?『この領主、親として最高だね』だ」
レイ、そんなところまで覚えていなくてもいい。
「それで、『私が囮になって探してくる』と言ったんだ。俺としては10歳の子供が本気で自分を囮にして敵のアジトを木っ端微塵にしてくるなんて思わないじゃないか」
いや、私もマジで攫ってくるとは思わなかったよ。街で頭に花が咲いた感じに、ばかっぽい子供のふりをしていたら、上から麻袋を被せられ、連れ攫われて、どこぞの地下室にご案内されたのだ。
「そうなのよ。街中に爆音が響いたかと思えば、空き家となっていた貴族の邸宅が吹っ飛んでいたのよ。丁度、その空き家があやしいのではと数人の冒険者たちと行っていたことろだったの。
そして、貴族街の一角から煙が上がっているので行ってみたら、アンジュちゃんが攫われた子供達と一緒にいたのよ。あれには流石に驚いたわ」
まぁ。攫われた子供達がひとまとめになっていれば、後は安全を確保して脱出すればいい。手っ取り早く上の屋敷を爆炎で上の人ごとふっ飛ばして外に出ればいい。言わば、これはここにいるぞという狼煙だ。
ああ、上の人は逃さないように建物の廃材に挟まるように結界と風で誘導しておいたから捕まってはいるだろうが、その後どうなったかは知らない。
「アンジュ」
隣から目を合わせては行けない雰囲気を醸し出されてきた。
「るでぃ兄。お説教はいいよ。そのときに神父様から門限を破ったということで、明け方までグチグチと言われて、5日間も勉強をつきっきりという地獄を味わったから、その話はもういい」
もう、あれは地獄だった。あの胡散臭い笑顔の神父様と5日間も一緒だったなんて、それも経済論だなんて絶対に私達のような者に関係ない勉強までさせられた。
「あら?アンジュちゃんのお兄さんなの?」
私にこのような兄はいない。こんな情緒不安定な兄なんて。
「ああ、自己紹介が遅れてしまいましたね。私はアンジュの婚約者でシュレイン・ルディウス・レイグラーシアと申します」
胡散臭い笑顔の神父様を思い出させる笑顔と喋り方で名を名乗ったルディ。その名を聞いて目の前の二人は固まってしまった。
まさか王族がここにいるとは思わないよね。
「死神聖騎士!」
「虐殺の王弟!」
ん?なにそれ?なんか痛い二つ名が聞こえたきがする。しかし、おうてい?オウテイ?……王弟!
「あれ?るでぃ兄は国王陛下の弟ってこと?」
「そうですよ」
おお、ここに来て王族しかわからなかったけど、王弟だったことが発覚。しかも、有名らしい。
恐らくその怪しい二つ名がつく原因がこの10年にあったことで、色々こじれてしまったのだろう。
しかし、ここでは聞かったことにしておこう。私はルディの頭をよしよしと撫でておく。
「流石、アンジュちゃんだわ」
「噂は所詮噂ってことか」
レイ、その噂はどんなものか知らないけど、おおよそは合っているのだろう。
ルディのこじれ方が半端ないのだから。