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第28話 結婚してくれないと言うのなら

「当たり前。ふっ。当たり前ねぇ。私からみれば聖騎士ってそこまで魅力的じゃないけど?」


 貴族である二人に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉にする。


「だって、常闇の穴が開いているかぎり、無尽蔵に魔物が湧き出てくるって言うでしょ?命張って魔物を討伐してもきりがないじゃない?はっきり言ってバカバカしいと言うのが本心」


「いや、でも誰かがしなければならない事だ」


 ファルは私にそう言うが、誰かがしなければならないっと言うなら、聖騎士になりたい者だけがなればいい。なりたくない者を巻き込むなと。


「アンジュは聖騎士になりたくない?そうなら、誓約の解呪をしてあげられるけど?」


 ルディが不安そうに言ってきた。

 え?誓約って解呪できるの?いや、しかしそれはそれで、あの神父様の高笑いが聞こえてきそうだ。『貴族が嫌いだと言いながら、貴族に頼るのですか?私は別にいいですよ?アンジュは逃げたかったのですからねぇ。よかったですね〜ハハハハハ』なんて言われそうだ。言われた日には思わず神父様の顔面を殴って、逆にしてやられている自分にも想像できてしまう。


「解呪はいい。そんな事をすれば、神父様の残念ですねと言いながら、全然残念そうにない笑顔に苛つきそうだから」


 私の言い分にルディは苦笑いを浮かべ、誓約の解呪がしたければいつでも言えばいいと言ってくれた。その言葉には素直に頷いておいた。


「アンジュ。色々聖騎士に対して思うことはあるだろうが、もし聖女様がいらっしゃるなら、聖騎士なんてものはお役御免だ」


 なんか、ファルが変なことを言い出した。聖女がいれば聖騎士なんて必要はない?それは聖女がめっちゃ強いってこと?

 何だか頭の中で筋肉ムキムキでメイスを振り回して、高笑いしながら魔物を駆逐している女性の絵が浮かんできた。


「アンジュ。聖女様が持っていた聖痕は何だったか覚えているか?」


「『天使の聖痕』」


 ええ、隠し持っていますよ。


「そう、『天使』。天の使徒の聖痕だ。あらゆるモノを癒やすことができると言われている。世界に開いた穴も聖痕の力によって塞ぐことができるんだ」


 何だって!!マジですか!そんなもの見つかってしまった日には強制連行され、馬車馬のように働かされる未来しかないじゃない?!


「大体、100年から200年周期で天使の聖痕をもつ聖女様が現れるんだが、未だに現れてはいない」


 ヤバい。これは本気で見つかったらヤバいものだ。何その周期的に現れるって、世界の補正的な何かなのか?


「そんなもの教会では習ってないけど?」


「この話は高位貴族しか知らないは話だ」


 ん?


「だから、プルエルト公爵を筆頭に聖女を作り出すことに躍起になっている。常闇の穴が大きくなりすぎると、異次元のモノが現れると言い伝えにもあるしな」


 異次元のモノって何?魔物とはまた別なモノなの?っていうか、あの豚公爵はロリコンじゃなかったのか。しかし、国の事を思ってか世界の事を思ってかは知らないけど、あんな豚……人買い貴族でも考えがあっての行動だったのか。


「いや、これって私が知っていい話じゃないよね」


 私は貴族でもないし、ましてや高位貴族でもない。ただの親に売られた子だ。いや、16歳で成人を迎えるので、ただの平民と言い直しておく。


「アンジュは俺と結婚するから大丈夫だ」


 ルディは決定事項の様に私がルディと結婚するように言うが、私は了承していない!


「何で私がるでぃ兄と結婚することが決まっているかのように言うかな?私に身分なんてものはないけど?」


 そう言うとルディは私の両腕を掴んで瞳孔が開いた目を向けてきた。めっちゃ腕が痛いし、怖いよ。


「アンジュ、言ったよな。俺の心が変わらなければ、お嫁さんになってくれると」


 言ったよ。確かに言った。でも、誰が4歳児の口約束を本気で捉える?

 こんなの『大きくなったらお父さんと結婚する』という子供の現実的ではないただの希望だ。そんな子供の言葉を大人は微笑ましいと受け流すものだろう?


「言ったけどさぁ。4歳児の言葉を本気に捉えないでくれる?」


「アンジュは俺をもてあそんだのか?」


 いや、そんな言葉は二股をして、ばれた彼女にでも言ってほしい。ファル!そこでお腹を抱えて笑わない!


「いや、違うし」


「じゃ、俺を騙したのか?」


 それは結婚詐欺にあったときに言ってほしい。ファル!こんなことでヒィヒィ言いながら笑わない!


「人の心なんて移ろいやすいもの。10年も経てば、人の気持ちなんて変わっていくでしょ?それも死んだことになった私の事なんて、忘れ去られるような存在じゃない?それ……」


 あ、またなんか言ってはいけない事でも言ったのだろうか。なんだか背景が歪んでいる?いや、空間の歪み?


「俺はそんなに薄情なやつだと思われていたのか?アンジュを忘れる事なんてこの10年なかったのに?」


 いやいや、執着のような思いは伝わっていたよ?だから、神父様がトラウマになるような事を企てたのだけど。


「アンジュが結婚してくれないと言うなら、アンジュを殺して俺も死のう」


 ヤみすぎだ!重い!重すぎる!本当にこの10年はまともだったのー?!



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