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第27話 私の自由は?

「アンジュの言っているの面倒な事は、これで、殆ど解決する。だから、結婚をしよう」


 は?いや、全く意味がわからない。

 私が不可解な顔をしていると、ヒーヒー言いながら笑っていたファルが体を起こして、一枚の紙を差し出した。


「あー、こんなに笑ったのは久しぶりだ。シュレインに頭突きって、ブフッ!アンジュこれを見ろ」


 見せられた紙は上質で周りには金色に縁取られた、あの夜に見せられた用紙と同じだった。しかし、見せられた紙には何も書かれてはいなかった。


「誓約書だ。聖質を持つ者が婚姻する場合に用いられる。それは貴族の愛人や妾でも適応される。なぜだかわかるか?」


 ああ、何となく分かってきた。聖質を持つ者は聖質を持つ子供を作りやすい。だから、誓約で縛るのだ。お前の居場所はここだと。ああ、だから貴族ってヤツはいけ好かない。


「そんな目で睨むな。まぁ、あれだ。言い方は悪いが、これは自分の所有ブツだから手を出すなと、いうやつだ」


 平民なんて所詮そんなものだ。人権なんてありやしない。人買いの貴族も私達が言うことを聞くのが当たり前だという態度だった。


「ファルークス、言い方が悪すぎる。俺のアンジュに手を出したら殺してくれと懇願しようが死ねない苦しみをあじあわせてやるということだ」


「シュレインも大概だ。それにアンジュ、リュミエール神父から伝言だ」


 神父様から伝言?嫌な予感がする。


「『どれほど自由を求めようが、それは無理な話ですよ。聖騎士団を退役したとしても、強制的に貴族と婚姻させられますよ』だってさ」


「何それ!!退役後の私の自由は?聖騎士になることは誓約があるから仕方がないと思っていたけど、使い物にならないなら、放逐されると思っていたのに!!貴族と婚姻!!」


 終わった。私の人生終わった。聖騎士団を抜けられれば、さっさとこの国を出て旅に出ようと思っていたのに!


「なんだ?アンジュはまた俺を置いて行くつもりだったのか?」


 は!思わず心の声が出てしまっていた。私に殺気を向けないで欲しい。それに私は一度もルディを置いて行ったことはない。いつも振り回されていたのは私の方だ。


「私の行ける行動範囲は決められていたから、るでぃ兄を置いて行ったことはない!」


 どれだけ殺気を向けられようが、ここはきちんと否定しておかないといけない。


「ねぇ、この広い世界を見てみたいって思っていることが駄目なの?色んなところに行ってみたいって思うことが、そんなに駄目なの?はぁ、やっぱり教会に連れて来られる前に逃げ出しとけばよかった」


 殆ど私に向き合わなかった親だった。

 だけど、今日は祭りだからと、外に連れ出すわけではないのにキレイな服を着せてくれたこともあった。飾り気がないのも寂しいからと言って髪飾りを作ってくれた。

 あんな両親でも私に思うことがあったのだろう。だから、私が家族の生活を潤すお金に代わるのであれば、それもいいかと思っていたのに、とんだ落とし穴があったものだ。


「駄目じゃない。駄目じゃないから逃げるとか言わないでくれ」


 ルディは私を抱きしめながらいうが、力が入りすぎだ!またしても内臓が口からは出そうなほど締めてくる。これは絶対に逃さないという現れか?


「るでぃ兄。苦しい」


「逃げないっていうなら」


「逃げない!」


 私が痛みのあまりに叫ぶとやっと緩んだ。この情緒不安定というか、私の言葉に左右されるというか、本当にルディは大丈夫なのだろうか。


「私言ったよね。誓約があるから勝手な行動はできないって」


「確かに言っていたが、何の誓約だ?」


 ルディは私の言った言葉を覚えてはいたようだ。やはり、貴族の子には誓約は用いないのか。そうだよね。彼らも貴族としてその血に囚われているから、わざわざ誓約で縛る必要もないということか。


「私が教会に買われたときに、結ばれた誓約。聖痕が発現すれば聖騎士団に入らなければならないと。そして、神父様は私の活躍を願っているということは、ある程度の功績を残さなければならないのだと思う」


「「は?」」


 二人から疑問の声が漏れ出ていた。恐らくそんな誓約が存在しているなんて、知らなかったのだろう。私も知らなかったのだから、非難することではない。


「いや、聖痕が発現すれば、聖騎士になるのは当たり前だろ?」


 そう、彼らからすれば当たり前のことなのだろう。聖騎士となるのは一種のステータスになると思われる。なぜなら、聖質を持っていても、必ずしも聖痕が出現するとは限らないのだから。

 けれど、貴族でない者たちにとっては、聖騎士というものはそれ程魅力的ではない。


 商人の子が教会に預けられるのはもちろん、自分たちの販売ルートを確実に確保するためだ。大量の商品を各地で売りさばくのはどうしても魔物の脅威というものにさらされてしまう。そこで、大金を払うことで、魔物討伐に必要なノウハウを教会で学ぶのだ。


 平民である私達は貴族というものにいい感情を持っていない。そもそもだ、あの人買いの貴族たちの印象が悪すぎる。人を見下し、人を物のように見る気味が悪い目が嫌いだ。

 そして、子供達の間で見せつけられる非条理な格差。食事は以前説明したとおり、あからさまな差別を受け、貴族の派閥は子供達の間でも存在し、付き従う平民はいいように扱われる。

 そんなモノを見さられた、見せつけられた子供達は、これが聖騎士となっても繰り返されるのかと思うと騎士になる未来は絶望でしかなかった。



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