私の言葉にファルはニヤリと笑う。そして、目を通してた書類をテーブルに置き、私の方に視線を向けた。
「いや、これはアンジュの所為だ。今までは、普通に業務をしていたからな」
なんだって!!普通?普通って何?隣に座っているルディは鼻歌まじりで、果物の皮を剥いている。
白い隊服を着ている上官が濃い灰色の隊服を着た新人の為に果物を剥いているだなんて、これは流石におかしい。
「私じゃなくって、神父様の所為だよね」
「まぁ、そうなんだが」
「アンジュ。あーん」
ファルの言葉を遮って、ルディがフォークに刺さった、赤い果実を差し出してきた。それを受け取ろうと手を伸ばせば、遠ざけられてしまった。
「あーん」
私、幼女じゃなくって、16歳なんだけど?自分で食べられるし。
私に食べさせようとするルディをジト目でみる。
「アンジュ。シュレインに付き合ってやってくれ、この10年色々押し殺してきたんだ」
横目で苦笑い浮かべるファルを見る。色々ねぇ。まぁ、一番苦労したのはファルだろう。
今度神父様に会ったら思いっきり文句を言ってやろう。やっぱり最悪の悪手だったじゃないか、と。手は出さないよ。神父様に敵わないことはこの身に刻み込まれているからね。
はぁとため息を吐いて、口を開ければ、みずみずしい果実が口の中を占領する。
「美味しいか?」
ルディの言葉に素直に頷く。空っぽの胃には丁度いい。
こぶし大のトゥールを一つ食べて、お腹が満たされた。もう一つ食べるかと聞かれたが、それには首を横に振る。
「それで、私の処遇はどのような感じ?」
私は元々聞きたかった質問をする。いつまでも私はルディの部屋に居座るべきではない。
そして、何故か私はルディの膝の上に座らされている。それも横向きで、捕獲されている。そこまで、しなくてもどこにも行かないよ。
「アンジュは俺の部隊に配属になる」
ルディがそう答えてくれるが、それはもう予想範囲内だ。その俺の部隊というモノと私の生活する場の話だ。
「新人に説明をするように詳しく教えてよね」
「アンジュ。新人はそんなに偉そうじゃない」
ファルがニヤニヤしながら言うが、この状況で新人らしくしろと言うのか!
そう言うなら言い直そう。
私はいつもどおりの無表情になり、ファルを見る。
「ファル様。私はどこの部隊に配属され、どこの宿舎に行けばいいのか教えていただけませんか?」
「こぇーよ。普通にしろ普通に」
「これがいつもの私ですが、何か?」
私が無表情に抑揚なく質問する姿に、ファルは嫌な顔をしながら、普通にしろというが、この10年間の私の姿はこのような感じだ。
「アンジュは笑っている方が可愛い」
ルディがそう言って私の頬を撫ぜるが、可愛いとか論外だ。
「それ、ウザいのが寄ってくるから、可愛くなくていい」
「あ゛?!どういことだ?」
あー……。また、ブラックルディが降臨した。今度は何が気に入らなかったのだろう。
「人買い貴族もそうだし、小銭稼ぎで仕事していたところもそうだったし、平民で容姿がいいとか最悪。容姿がいいからって攫われた事もあったし、可愛くなくていい……よ··」
あ、何か言ってはいけない事を口にしてしまったようだ。思わずルディから距離を取ろうとするけど、がっしりと捕獲されているので、動けない。
「それはどこのどいつだ?」
うっ!視線だけで人を殺せそうな目を向けないで欲しい。
「アンジュを攫ったというヤツはどこのどいつだ!」
えー。そんなの知らないよ。建物ごと破壊して教会に戻ったし、神父様なら知っているかなぁ?
「知らない。はぁ、るでぃ兄が心配するほど私は弱くないよ?大抵のことは自分で何とかできる。ただ、絡まれるのがウザいだけ」
本当にウザい。髪を引っ張られるのは勿論のこと、教会に来た早々に髪を切られたことから始まり、外から鍵がかかる部屋に閉じ込められるとか、何処かへ連れ去ろうとされたりだとか、突然ピラピラした服を押し付けられ、やるから着ろという変態とか、もう、色々あった。
大体はやり返したけどね。目には目をっていうやつだ。ピラピラした服を持ってきた変態にはお前が着ろと投げ返してやった。
「私の終わった話はいいから、これからの事を説明してよね!」
「わかった」
そう言ってルディは私の骨が折れていない右手を包むように握った。
「アンジュ。結婚をしよう」
……
にこやかに言うルディに思いっきり、頭突きをかます。この状況でなぜ結婚という言葉が出てくるんだ!
そこ!ソファをバシバシ叩いて笑い転げるな!
「私は真面目な話をしている」
「俺も真面目な話をしている」
どこが!!