目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第25話 俺を置いて逝ったのが悪い

 雨の音がする。シトシトと雨が降っているみたい。その音に目が覚め目を開けると……目の前の状況に思わず眉間にシワが寄ってしまった。


 何故にルディが私のベッドで寝ているんだ!いや、ルディの部屋とファルが言っていたから、ルディのベッドに間違いはない。だけど、一緒に寝る必要はないよね。私はあの時のような幼女ではない。


 仕方がない。ここが何処かわからないけど、私が移動すればいいか。

 痛みが収まり、問題がある箇所は折れていた左腕だけのようなので、体を起こしベッドから出ようとすれば、ガシリと腰を捕獲されてしまった。


「どこに行くつもりだ」


 起きてたのか。しかし、どこにと問われても困る。


「その前にここがどこかわからないのだけど?」


「聖騎士団の上官用の宿舎だ」


 と、言うことは入ったばかりの私が入る宿舎があるはず。あ!そうだ。今のうちに言っておかないと。


「るでぃ兄。私の怪我治してくれてありがとう」


 思わず癖でルディのサラサラした黒髪を撫でてしまった。しかし、かなり私の体は傷ついていたのに、残っているのが折れている腕だけってすごいな。きっと、魔術か聖痕の力で治してくれたのだろう。


 ぐふっ!腹が締まっている。腹が締まっているよ!力の加減をしろ!


「アンジュが死んでいなくてよかった」


 あ。うん。それは全部、悪魔神父の仕業だからね。文句は神父様に言って欲しい。


「それで、るでぃ兄」


「なんだ?」


「私が入る新人用の宿舎はどこ?」


 痛い痛い痛い!内臓がはみ出る!


「アンジュはふらふら何処かに行くつもりなのか?」


「ふ。ふらふら?あの、るでぃ兄。内蔵が出そうなんだけど?」


 私はルディの肩をバシバシ叩く。口から内臓が出るって!


「また、俺を置いて行ってしまうのか」


 いや、私はずっと教会にいたし!どこにも行ってないよ!


「教会を出ていったのは、るでぃ兄の方だからね!私はずっと教会にいたよ!だから、なんで宿舎の場所を聞いただけで、こうなるのかなぁ?」


「アンジュが俺を置いて逝ったのが悪い」


 はぁ。だから、悪手だと言ったのに、これ絶対に悪化しているよね。数日経てば元に戻るかなぁ。


「『乾いた心を慈雨の如く潤したもう』」


 この世界では使われない言葉で呪を唱える。渇望する心に癒やしを与える言葉ことのはだ。


 私は魔術をこの世界の言葉と異界の言葉とで使い分けている。なぜなら、この世界の言葉で唱える魔術は他の人と変わりがないのだけど、異界の言葉だとその威力が数倍にも膨れ上がるのだ。

 だから、普段はこの世界の言葉の呪を使うようにしている。


「アンジュの魔力は優しいな」


 ふぅー。やっとお腹が解放された。普通な感じに戻ったので、距離を取るべく身体強化プラス重力の聖痕を使って、部屋の入口まで移動する。床に足がついた瞬間、顔の横に風が走った。

 いや、ルディの拳がドアを突き破っていた。


「何処に行くつもりだ?」


 怖いよ。目がイッているよ。この10年間どうしていたんだ?本当に……。はぁ。


「どこにも行かないよ。誓約があるから、そんな勝手な行動はしないよ。ファル様。このるでぃ兄どうにかならない?」


 ルディの扉をぶち破った腕をとって、引っこ抜きながら、扉の向こうにある気配に呼びかける。


「どうにもならん」


 扉の向こうから呆れた声が聞こえてきた。はぁ。もう、完璧に病んでるよね。絶対に神父様の所為だよね。

 もう、ため息が止まらない。


 まともなファルから今の私の立場を確認したいのだけど、どうしたものか……。ああ、そうか。


「るでぃ兄。アンジュ。トゥールがたべたいなぁ」


 そう言って、へらりと笑う。

 するとどうだろう。ルディは『わかった。トゥールベルだな』と言って部屋を出ていった。

 ようはルディを追い出せばいいということだ。


 その間に体に浄化の魔術を使い、ベッドの足元にあった隊服を手に取る。穴が所々空いているので、これには修復の魔術を使い元の状態にもどす。その隊服を素早く着て、右手で手ぐしで髪を整えて、折れた左腕を固定して扉の外に出る。


 すると、ルディが籠に盛られた果物を持って戻って来るのと同時だった。何処まで取りに行ったかは知らないけど、早すぎだ!


「アンジュ。元気になったんだな」


 私にそう声を掛けたファルはというと、ソファに長い脚を組んで座っており、何らや書類の山に目を通していた。

 ん?ここは執務室?いや、ルディは宿舎と言っていたので、執務室ではないはず。


 私はルディが近づいて来る前に、ファルの前の席に座る。


「お陰様で」


「アンジュ。トゥールベルをいくつ食べる?」


 隣に腰を降ろしていたルディが聞いてきたので、一つと答える。そして、目の前のファルに尋ねる。


「ファル様。よく今までやってこれましたね」


 あ、聞きたい事を間違ってしまった。思わずイライラの方が勝って口に出してしまった。



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?