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第24話 傷付いた少女(シュレイン side)

シュレイン side


 痛々しい姿で眠った彼女の頬を撫ぜる。折れそうなほどやせ細った腕に目を落とす。

 16歳としては小柄だ。その姿に記憶の中のアンジュと重なるものは何もなかった。いや、出会った頃の姿と重なるか。





「隊長!アレって俺たちをぶっ飛ばしたヤツッスよ!」


 ティオが指し示したところには、あの月夜で聖痕の力を慣れたように使いこなしていた少女がいた。


「飛ばされたのは油断していたミレーとティオです」


 そう答えるが、頭に包帯を巻き、左腕は折れているのか吊るされている少女から目が離せない。何故か気になる。

 あのときは怪我などしていなかった。ということはここで怪我をしたことになるが、あのリュミエール神父の元にいて、こんな子供のお遊びのようなところで怪我なんてするはずは無い。


「なんで、あれだけ聖痕が使えて、ここにいるんッスかね?」


 それはティオの言うとおりだ。慣れたように聖痕の力を使っていた。慣れたように?

 くくくっ。あのリュミエール神父のところにいて、聖痕の出現を16歳になるまで隠し通していたということか。


「うわぁ。これは全く相手にならないッスね」


 少女は向かってくる者達を軽く避け、結界の外に追い出している。力の差は歴然だ。


「えげつない」


 魔術の施行中に妨害し、暴発させる。その行為は褒められたことではないが、実戦ではそんなことは言ってられない。敵は容赦なく向かってくるものだ。


「少し相手をしてきましょう」


 ティオにそう声を掛けて、少女の前に降り立った。見た目は13歳ほどに見える。灰色の髪は整えられず、伸びっぱなしという感じで目も隠れており、どこを見ているのかわからないが、こちらを警戒していることはわかる。


 力を示すようにといえば、何を言っているのか理解できないのか、目の前の少女は首を傾げている。聖痕の力を使うように言えば、ただの忠告と捉えられ去って行こうとする。


 それでは駄目だ。彼女は試されているのだ。ここで力を示さなければ、聖騎士になることは叶わない。


 やる気のない少女向かって剣を振り下ろす。やはり、身体強化はしているが、体が作られていないので、剣を往なすだけで精一杯のようだ。

 あのリュミエール神父の元にいて、これはどういうことだろう。十全に力を振るうことができない少女に何も指導をしてこなかったのだろうか。

 ふと、キラキラと輝く銀髪が脳裏にかすめる。そういえば、アンジュは戦闘教育をされずに冒険者見習いになる許可が下りたなと。もう、記憶でしか会えない幼子。


 剣を受けるのに精一杯だった少女は苛ついたように剣を投げつけてきた。ここで、武器を手放すのか?

 しかし、少女はすぐさまに氷で剣を作り出し、振るってきた。氷で剣を?面白い使い方をする。まるで……いや。何でも無い。


 少女の動きが突然変化した。俺の剣撃を弾き返すようになった。身体強化だけではない。なんだ?何かの聖痕の力か?

 面白い。聖痕の力と魔術を同時に使っているのか。


 俺の聖痕の力とフラムを合わせれば?

 ほう、黒い炎が出来上がった。面白い。面白い。

 ならヴァンならどうだ?


 ああ、こんな変わった魔術の使い方をするなんてアンジュみたいだ。


「るでぃ兄だ」


 え?この拙い呼び方は。

 目の前の少女に視線を向ける。灰色の髪の隙間から見えるのはピンクの瞳。はにかむように笑う笑顔は記憶の中の幼子と重なる。


ドクンと心臓が高鳴った。


 その少女が黒い刃に飛ばされていく。そして、ぐしゃりと地面に落ちていった。その姿が、その光景が記憶と重なる。

 これはなんだ?何が起こっている?


 心臓の音がうるさい。目の前が真っ赤に染まっていく。


「シュレイン。このままだと、本当にアンジュは死んでしまいますよ」


 背後からリュミエール神父の声が聞こえ、振り返る。


「あの少女はアンジュなのですか?」


「おや?気が付きませんでしたか?」


 リュミエール神父はにこにことした笑顔で答える。貴方がアンジュは俺の所為で死んだと言ったのではないか!と言いたかったが、すぐさまアンジュの元に駆けつける。


 あちらこちらが傷つき血を流している。意識がないアンジュを抱きかかえ、水の癒やしの聖痕を使う。遥か昔に聖女が持っていた天使の聖痕には劣るが、傷ぐらいなら癒やすことができる。


「ああ、アンジュはそのまま聖騎士団の方に連れて行ってもらっていいですよ。あと、目を離すとふらふらと居なくなるのは変わらないので、目を離さないようにしなさいね」


 そう言って、リュミエール神父は背を向けて去っていった。結局、今も昔もあの人の手のひらの上で踊らされていたということか。



_____________


ファルークスとティオの閑話


「副隊長、あの少女のこと聞いていいっすか?」


 赤髪のティオが隣で歩いている男に問いかける。


「何をだ?」


 金髪のファルークスはご機嫌なようで、ニヤニヤと笑っている。


「あの子、普通に隊長と怪我をしたまま、やり合っていたっすけど、普通に強くないっすか?」


「ん?それはそうだろう。5歳でケルベロスを3体倒しているからな」


「は?5歳?」


 ティオは唖然として足を止めた。


「いや、なんで今まで聖騎士団の方に来なかったんすか?もう、その時点で聖騎士団に来ても問題ないっすよね。最年少は10歳で入ってますよ?」


「ああ、それな。そのうち分かると思うが、シュレインが問題だったんだ」


「ん?隊長?いや、関係ないっすよね?」


 ティオの言葉にファルークスはニヤニヤと笑いを浮かべるだけだった。




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