目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第23話 銀髪の護符(過去)

 私はそれを最後にルディを見ることがなかった。


 どうやら、ルディは聖痕を発現したらしい。私は聖痕の暴発に巻き込まれたということらしい。

 全ては悪魔神父からの言葉なので、どこまでが本当なのかはわからない。


「そういうことなので、アンジュはシュレインの聖痕の暴走に巻き込まれて死んだということになっています」


 この悪魔神父め!一番トラウマになることをしやがった。神父様は言いたいことだけ言って去っていった。

 今の私は医務室でベッドの住人となっている。まさか、死にかける原因が魔物ではなく、ルディだったなんて。


 私がため息を付いていると、疲れた顔のファルが入ってきた。


「大丈夫か?」


「私は死人なので」


 嫌味を言ってしまった。ファルに言っても仕方がないのに。


「はぁ。もう、シュレインが手に負えないんだ。このままアンジュを連れ去ったら駄目か?」


 死人の私にそのような事を言われても困る。


「ですから、私は死人です。文句は神父様に言ってください」


「いや、それは言った。リュミエール神父の言い分もわかる。わかるんだが、やっとあのシュレインが人らしくなったと思った矢先にこれだ」


 人らしく?じゃ、今までなんだったのだろう。


「ファル様。私でわかったと思いますが、るでぃ兄をきちんと見てくれる人がいれば、るでぃ兄は立ち上がれますよ」


 しかし、このままトラウマを抱えるというのは可哀想だ。


「ファル様。ナイフってお持ちですか?」


「ああ」


 ファルは懐から果物ナイフほどの大きさの刃物を取り出した。ファルの手を借りて起き上がらせてもらい。胸の下までになった髪をみつあみにして紐で縛る。そして、首元でざくりと切り落とした。


「なっ!」


 私の髪は再び短くなった。そして、みつあみにした髪に呪を掛ける。


「『養花天ようかてん甘雨かんう』」


 春の雨が桜の花を咲かすようにルディの心を成長させ、いつかは立ち上がれますように


「これをるでぃ兄に渡して、一人で立てるようになって必要なくなれば、燃やして捨ててね」


 受け取ったファルは銀髪のみつあみを凝視する。それもなにか信じられないものを見るような感じだ。


「いつも思うが、アンジュの魔術は不思議だな」


「そう?疲れたから、もう寝る」


 私は倒れ込むようにベッドに沈み込む。適当に髪を切ったから首元がチクチクするな。


「髪。切らせて悪かったな」


「いいよ。どうせそろそろ切ろうと思っていたから」


 ファルは私の短くなった髪を一撫ぜして医務室を出ていった。それから、ファルも教会を訪れることなく、会うことはなかった。









 なのに、私が全身が痛いのを我慢しているというのに、先程からうるさい!頭も痛くなってきた。


「いい加減に寝ろ!」

「寝ている間にいなくなったらどうするのです!」

「これで、動けるほうがおかしいだろう!」

「あのー。昼からの会議があるのですが」

「そんなもの出る必要性ありません!」

「それは俺が出るからあとにしろ!」


 人が痛みに耐えているところで騒ぐなんて、嫌がらせだ。


「騒ぐなら出ていけ!」


 目を開けて声がする方に視線を向けて、言い放つ。


「アンジュ!」

「起きたかアンジュ」


 黒い目と緑の目が私を見つめてきた。この二人が揃うと、成長したルディとファルということがわかる。


「アンジュ。アンジュ。アンジュ。よかった。生きてた」


 いや、生きているよ。死なないように重傷箇所は治したし。

 ルディは泣きそうな顔をして私の右手を握ってきた。


「アンジュ。シュレインに寝ろって言ってくれないか?この3日、アンジュの治療し続けて寝てないんだ」


 あ?3日?


「寝ろ」


「じゃ、一緒に寝よう」


 いや、自分の部屋に帰れ。


「自分の部屋に帰って寝てください」


 あー。痛い。まぶたが重い。再び眠りにつこうとした私の耳に衝撃的な言葉が降ってきた。


「アンジュ。ここシュレインの部屋だ」


 は?意味わからないし。


「じゃ、ファル様が私を医務室に連れて行ってください」


 目をつむったまま答えると地獄の底から響くような声が聞こえてきた。


「なぜ、そこでファルークスの名が出てくるんだ?」



 思わず目を開けると、苦笑いのファルと人を射殺しそうなほど残忍さを帯びた顔をしたルディがいた。

 くっ。これは10年経っても変わっていないってこと?何故に!


「アンジュ。俺は会議に出なければならないから、後はよろしくな」


 ファルは逃げるように部屋を出ていった。部下と思われる人を連れて。

 いや、会議は昼からって言っていたから直ぐに行かなくてもいいよね!

 この状態のルディを放置して行かないで!


「はぁ。じゃ、るでぃ兄が医務室に連れて行ってください」


「嫌だ」


 何故に!そもそも何故私をここに運んだ!

 しかし、眠い。痛いし、眠い。

 もう、考えるのが億劫だ。


「もう、私寝るから、るでぃ兄……·も··ね·」


 寝てよね。



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?