「『反転の盾』!」
六角形の盾をサッカーボールのように私を中心に囲った。やばかった。もう少しで、よくわからない穴に落ちるところだった。
悪魔神父!頑張って生き延びるどころか、初めから殺す気満々だったじゃないか!
ヴゥゥゥゥゥゥ
という低い唸り声のような音が耳に入ってきた。後ろを振り向くと大きな牙とその牙を伝う粘液性の液体が見える。
巨大生物!!
私は盾を解除し、身体強化をして一気に駆け出した。
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南の森、最終訓練 side
「ヴァンウルフの討伐か。かったるいよな。シュレイン」
ファルークスは最終訓練と言いつつもありきたりなウルフ討伐に不服のようだ。
「ああ」
シュレインは心ここにあらずという感じでおざなりに返事をしている。
「これが丸一日だなんて、暇過ぎるよな」
「ああ」
「……あ、アンジュだ」
「何!」
「嘘だ。ちゃんと聞こえていたか。ちゃんと聞いていないとリュミエール神父に叱られるぞ」
「ファルークス!!」
シュレインはファルークスの胸ぐらを掴んで揺さぶるが、胸ぐらを掴まれているファルークスはニヤニヤと笑っている。ここ2年ちょっとでシュレインが人らしくなってきた事が嬉しいようだ。今までなら、ファルークスに突っかかるということは絶対にしなかった。
今は少年少女たちは待機状態で、補助として付き添いをしているシスター・マリアがヴァンウルフの居場所を探しているところだ。
そこに駆け込んで来る者がいた。
「リュミエール様」
金髪の大柄の人物がリュミエール神父の元に息を切らしながら、駆け込んできた。
「どうかしましたか?」
「常闇から大物が出現しました!撤退してください!」
常闇。世界の膿であり毒が吹き出している穴のことだ。そこから、魔物が這い出てくる。そう言われる場所だ。
「イレイザーはどうしました?一緒に行動していたのでは?」
「はぐれてしまいました。ポーターとして連れてきた銀髪の子供と共に」
銀髪。そんな髪の色を持つ子供といえば……一人しかいないだろう。その言葉を聞いたシュレインは駆け出していた。金髪の男が来た方角に向かって。
その姿をみたリュミエール神父は微笑み。金髪の男は可哀想な子供を見るような視線を送っていた。
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アンジュ side
ギャァァァー!!
死ぬ!これは絶対に死ぬ!
私は今、大型犬に追いかけられていた。ただの犬なら問題ない。後ろの犬には首が3つあるのだ。それも3
悪魔神父が地獄の門を開いたに違いない!それも3体も!どれだけ、番犬が必要なんだ!
くっそー!子供の体力には限界がある。反撃に出るしかないか。
私は足を滑らせながら身を反転し、3体いる地獄の番犬に向かって放つ。
「『
あたり一面に猛吹雪が吹き荒れる。これはただの足止めだ。視界奪い。生き物の体温を下げ、行動を抑制するためだけだ。地獄の門番に効くとは思ってはいない。
右端の地獄の門番に向かって行き、三つ首の後ろに飛んで回り込む。
「『
3つの刃を作り出し、3つ同時に首を切り落とす。
この世界の膿から生み出された強大な魔物は聖属性で倒さないと倒しきれない。これが、聖質を持つ子供が重宝される理由だ。
膿を生み出す穴を塞げばいい話なのだが、基本的に穴は塞ぐことはできないらしい。だが、シスターから教えられた感じでは、穴を塞ぐには何か条件がありそうだ。
隣の一体に視線を向ける。まだ、凍りついている。倒れ込む番犬の背を足がかりにし、隣の地獄の番犬にもくらわす。
「『
中央の地獄の番犬の首が落ちると同時に左端にいた、三首の獣が赤黒い炎に包まれた。
時間切れか。
唸り声をあげながら、私に向かって牙を向けて来る。体を捻り避けるが、そこに強靭な爪が襲ってきて、地面に叩きつけられる。
うぐっ!
獣の3つの口からは赤黒い炎が漏れ出ており、私を地面に繋ぎ止め、狙いを定めている。私を上から見下ろす6つの目。
「『
三つ首の獣に雷が貫く。所詮獣だ。私の口を封じなかったのが敗因だ。
この前足をのけてくれないかなぁ。そう思っていると、白目を向きながら三つ首の獣の頭が私の上に降ってきた。
あ、余計に動けなくなってしまった。困ったなぁ。
「アンジュ!!」
あ、助けが来た!この声はルディだ。声を出そうとして、あたりの空気がおかしいことに気がついた。
なんだろう?息苦しい?圧迫感?
私は今の私の状態をわかっていなかった。三つ首の一つの首が私の首元に喰らいついているかのようで、私は獣の重さに微動だにできない状態だった。
そこだけ切り取れば、私が魔物に喰われているような絵面だった。
辺りが闇に包まれた。昼間なのに暗い。何だかすごく悪寒がする。そして、地面を剥ぎ取るような衝撃。私はそれに巻き込まれるように宙に投げらされた。
その時、私の目に映ったルディは闇の使者と言っていいような全身に闇を纏い、その目は地獄でも映しているかのように深淵を覗き込んだ色をしてた。
私は力の暴力に贖うことができずに、ぐしゃりと地面に叩きつけられたことろで、意識を失った。