私は訓練場に連れて行かれた。自主訓練と言いつつも、各々が訓練しているわけではなく。数人が集まって、陣形のようなものを組み、相手となる者達に攻撃をしてた。思っていた以上に本格的な訓練だった。
ルディはというと、ファルと共に離れたところで腰を降ろし、訓練の様子を見てた。
「参加しなくていいの?」
いくつものグループに別れて訓練をしているというのに、ルディとファルは傍観者に徹していた。
「ああ、俺と組みたいってやつはいないからな」
あ、そういうこと。なんかごめん。ん?でもファルは?
私は無言でファルに視線を向けると。
「俺か?俺はシュレインの話し相手だ」
意味がわからなかった。ルディの話し相手?
「お前、プルエルトの奴に目をつけられたんだってな」
プルエ?あの貴族のことだろうか。
「プルエって豚貴族のこと?」
「ぐふっ!豚貴族!プルエルトをブタ!ぐふっ!ブタだな」
ファル。笑いたいのなら、普通に笑えばいいのに。で、そのプルエがどうしたのだろう?
「それが何か問題?」
「聖質を持つ者は聖質の血を残しやすいんだ。特にアンジュのような白い者は重宝される。200年前の聖女様の髪も白かったらしいからな」
「聖女様?」
「なんだ。まだ、習っていないのか?この世界を救ったという聖女様だ。天使の聖痕を持ち、人々を癒やし続けたという聖人だ」
は?人を癒やすだけで、世界が救えるの?それって、権力者にいいように使われただけじゃない?信仰を高めるため、人々の心の拠り所と言いつつ一定の方向を向かせるためのプロパガンダ。
「この200年聖女様が存在していないからな。聖女を作り出すために一番力をいれているのが、プルエルト公爵だ」
あの豚が公爵!!世も末だ。いや、富の象徴的体格と言い換えれば、いいのか。
しかし、作り出すといのはどういうことだ。聖質を持つ者は血を残しやすいということは……ぶるりと体が震える。まじのロリコンか!!犯罪だ!もう、捕らえて牢から出さないで欲しい。
「アンジュ。大丈夫だ」
未だに私を抱えているルディが私を強く抱きしめた。
「アンジュは俺の物だと言ったから、心配することは何もない」
全然大丈夫じゃない!私はルディのモノじゃないよ!それも公爵に面と向かって言ったらルディもただですまないでしょ!
「そうだ!アンジュ、結婚をしよう!」
すごくいい案が浮かんだと言わんばかりのルディをジト目でみる。私は3歳、いや4歳児だ。その私に結婚をしようと言ってくるこいつもロリコンだったのか。
「なんだ?その目」
「るでぃ兄もロリコンなのかと」
私の言葉にルディは私の頬を抓る。痛いし、伸びるし!
「貴族で10歳差は普通だ!」
だから、私は4歳児!それに私は平民だ!
「ぷっ!くくくく!シュレインのそんな姿が見られるなんてな」
ファル!笑ってないで、止めてよ!普通は貴族と平民が結婚できるはずないでしょ!愛人程度にしかなれないってぐらい、この世界の常識を知らなくても理解できる。
いや、所詮子供の戯言だ。彼らは16歳になるとココを去っていく。騎士団に入るのか、貴族として生きていくのはわからないけど、きっと再会したときには、互いのことなんて忘れているだろう。
しかし、再会できる可能性の方が低いと思う。なぜなら、私はここを出るときは、旅に出るつもりなのだから。
だから、軽い気持ちで答えてしまった。
「そうだね。私がここを出て再会したときに、るでぃ兄の心が変わらないのなら、お嫁さんにしてもらおうかな?」
私はへらりと笑う。子供の口約束だ。何の強制力も何もない言葉。そんな言葉にルディは嬉しそうに笑った。
「世界で一番幸せにしてやる」
それは、本当に好きなった人に言ってあげてね。私はそれには答えずに黒髪の少年の頭を優しく撫でてあげた。
きっと、彼らはこれから色んな出会いがあるだろう。そこで、その人たちと絆を繋いでいく。私がここを出るとすれば、彼らが去ってから10年後だ。10年もの年月が経てば貴族である彼らとの間に、平民である私が入る隙間などない。
ルディも恋の1つや2つぐらいするだろう。その人と幸せになって欲しい。私は心の底から願った。
そして、月日が流れ。年が変わればルディたちは教会を去っていくという時期になった。私は5歳になり、行動範囲は街の中と街の外の浅い森の中までなら行くことが許されるようになった。
そんなある日、神父様に呼ばれ懺悔室に入るように言われた。ここは防音対策がされており、内緒話をするにはうってつけだそうだ。
「アンジュ。君にお願いがあるのです」
私の方からは神父様の顔は見えないが、いつもどおりの胡散臭い笑顔で言っているだろうということは簡単に想像できる。
「内容によります」
ここで『はい』と頷いてはならない。こんな懺悔室に呼んでまで言ってくることだ。普通のことではないはず。
「アンジュ。死んでもらえませんか?」