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第19話 人買いの貴族(過去)

 訓練場から出ないように空を駆け上がって行く。ふと、冷たい風が頬を撫ぜた。立ち止まり顔を上げる。


 眼下に広がる光景は私が知っている光景とは似ても似つかなかった。街は高い壁に囲まれ、ひしめくように家々が立ち並び、過去の記憶とは全く異なる風景。


 ああ、本当に異世界なんだな。今更ながら再認識した。


 私はここで一体何をしているのだろう。


 きっとこの世界も広いのだろう。いつか教会を出てくことが出来れば、世界を旅をするのもいいかもしれない。小説の主人公のように。


 冷たい風が再び頬を撫ぜる。このまま駆けて行こうか?いや、子供の私が生きていけるほど生易しい事ではないだろう。子供の私ができることは限られている。今はこの世界で生きていく知識を身につけるべきだろう。


 そう心に決めたとき


「捕まえた!」


 は?背後から捕獲された!!この上空で?


 首だけで後ろを見上げると、何故か泣きそうな顔をしたルディがいた。


「行くな。置いて行くな」


 え?何の事?3歳児の私が迷子になると思っているのだろうか。流石に教会の敷地内では迷子にはならないよ?


「るでぃ兄に捕まってしまったね。どうやってここまできたの?」


 ルディの言っている意味がわからないので、それは無視をして、ここにどうやって来たのか聞いてみた。


「アンジュのマネをして『スクード』を足場にした」


 えー!!見ただけでマネをされた!

 そして、私は捕獲されてしまい。地面に降り立った。そのときに聞こえた声は気の所為だと思う。きっと、気の所為だ。


『逃げないよう何か手をうたないと駄目だな』


 と。何が!!


 そのあと3日間ルディの部屋に閉じ込められ、勉強をさせられた。私にとっては神父様に勉強を見てもらうのが、ルディに代わっただけだった。くー!これ絶対に3歳児の勉強内容じゃないよね!


 目の前のルディはにこにことご機嫌だった。訓練のお休みをもらったからって、私の勉強を見なくてもいいのに!!



 そして、私が教会に来て1年がたった夏。再び、人買いの貴族がやってきてた。シスターからの話では、10歳以上の子供で聖質を聖術にまで使いこなせるようになった子供を引き取りに来るらしい。

 何故かとシスターに聞くと苦笑いを浮かべ答えてはくれなかった。もしかして、人買いの貴族はロリコンなのか!それは犯罪だ!


 人買いの貴族が来る日は10歳以下の子供は自分たちの部屋から出られず、シスターの監視下に置かれる。

 だけど、廊下が騒がしくなってきた。シスター達をまとめるシスター・マリアの声が聞こえる。『こちらは幼子の部屋になりますので、お戻りください』と、貴族の人を引き止めようとしているのだろう。しかし、強く出られないため、強制的に誘導することはできないようだ。


 私達がいる部屋の扉が勢いよく開かれた。


「おい、いるじゃないか」


 私を指差しながら、目が痛くなるようなギラギラした服をきたでっぷりとテカっている豚が言った。いや、豚ではなく人だけど。


「この子はまだ幼いので引き渡しには応じられません」


 シスター・マリアが私を隠すように貴族と私の間に立つが、貴族のぶた……男性に押しのけられ、私の前からのけられてしまう。本当はシスターも強いのに貴族の人にはその力を振るうことは許されないのだろう。


「おい、お前だ。一緒に来い」


 私を捉えようと手を伸ばしてくる。私に手を触れた瞬間反撃してやろうと、構えていると、いきなり後ろに引っ張られた。そして、貴族の男性に剣が私の後ろから突き出されていた。


「プルエルトの者か。コレは私のだ。わかったら去れ!」


「ヒッ!黒の……」


 貴族の男性は恐れおののき、逃げるように部屋を出ていった。これがルディの受けてきた視線か。


「るでぃ兄。ありがとう。でも、おサボりは神父様に怒られるよ?」


 買われていくのは、ここに売られてきた子供だけだ。貴族や商人の子供は午前中は訓練が課せられていたはずだ。


「今は貴族の相手をしているから、自主訓練をするよう言われている。大丈夫だ」


 いや、あの神父様なら離れていてもサボったことがわかっていそうな気がする。本当にあの神父様は得体がしれない。


「アンジュは連れて行く」


 ルディはシスター・マリアと部屋に居たシスターに声を掛けて、窓から私を抱えて出ていった。ここ2階なんですけど!



_________________


アンジュが勉強をサボって散歩に出ていった時の閑話



「シスター・マリア〜!私もう立ち直れません!」


 書類に目を通していたマリアの部屋に駆け込んできた者が入る。


「どうしたのですか?シスター・グレイシア」


「アンジュちゃんに問題の間違いを指摘された私って3歳以下ですかー?」


 そう言ってシスター・グレイシアは今回アンジュに出した課題の一つをシスター・マリアに見せた。


 『モーリ君はリンゴを30個、ミカンを20個持っています。

 アメリちゃんにリンゴ2個ミカンを1個。

 ハリー君にリンゴ15個ミカンを5個。

 ミルちゃんにリンゴを8個ミカンを12個。

 ロア君にリンゴを10個ミカン3個を渡しました。

 モーリ君にはリンゴとミカンは何個残りましたか?』



アンジュの答え


 モーリには詐欺罪もしくは窃盗罪の疑いがかかっています。モーリを憲兵に突き出すことをおすすめします。




「あらあら、酷い間違いね。シスター・グレイシア。アンジュの答えに間違いはないですよ」


「だってー!アンジュちゃんって簡単な問題だと直ぐに解いちゃうじゃないですかー。頑張って問題を作ったら、数の授業なのに憲兵って!私、アンジュちゃんの授業やっていけません!!」


「仕方がないわね。私がちょっと行って見てくるわ……あら?でもそこで歩いているのってアンジュじゃないかしら?」


「アンジュちゃん!!私が渡したあの課題がもう終わってしまったのー!!」


 シスター・グレイシアの叫び声がリュミエール神父の耳に入り、アンジュの確保に繋がったのだった。



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