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第17話 私って天使じゃない?(過去)

 私はルディの膝の上に座らされ、果物やらお菓子やらを口に突っ込まれている。しかし、これ以上は入らない。手で口を覆い首を振る。


「これ以上はお腹に入らない。それに、るでぃ兄にこれ以上貰う理由はないよ?」


「もう、お腹いっぱいなのか?そんなに食べていないぞ?」


 いや、体の大きさが違うのだから、食べる量も違うに決まっている。


「それに俺がアンジュにあげたいからだ」


 えー?昨日会ったばかりなのに、私はそこまでルディと仲良しになったつもりはないのだけど?

 もしかしてこれはあれか!野良猫に餌を与える感じなのだろうか。


 しかし、私はルディに何もお返しをする物がない。私個人の物は何もない。お金もない。これは困った。


 困ったなと思いつつルディを見上げる。可愛いと言ったら怒られそうだけど、子供と大人の間のかわいい少年。この3ヶ月、よく見かけた。

 この世界では以前の世界と異なり多種多様な髪の色がある。その中でも彼の黒色の髪は目立っていた。いや、私が何となく懐かしいと目で追ってしまっていただけだ。


 毎日のように日が暮れても訓練場に一人でいたし、4、5人の少年達に追いかけられていることもあった。そして、集団リンチのように暴力を振るわれていることもあった。そのときに言われていた言葉が私の耳に今でも残ってる。


『魔物が人に化けているなんて、俺たちが討伐してやろう』


 と。酷い言葉だ。

 しかし、ルディは言われ慣れているかのように、何も感情を表には出さず、少年達の暴力に抵抗していた。


 大人達は子供達のいざこざには傍観の姿勢を貫く。しかし、今回の少女たちのように何かの基準に引っかかれば制裁を加えられるということなのだろう。死を与えられるという結末をだ。


 ルディが一人でいるところを多く見かけた。恐らく一人で行動をする事が当たり前なのだろう。それは他人に傷づけられ過ぎた自己防衛。


 私はルディに手を伸ばす。


「るでぃ兄、ありがとう。アンジュはお礼にるでぃ兄をいい子いい子してあげる」


 ルディのサラサラとした黒髪を撫でてあげた。普通なら両親の庇護下にあるべき歳の少年だ。本当なら両親が褒めてあげるべきなのだ。『すごいね。頑張ってるね』と。


 誰も褒めてくれないのなら、私が褒めてあげよう。それで、少しでも心の傷がいえるのであれば。


「アンジュ。ありがとう」


 いや、そんなに強く抱きつかれたら頭なでられないのだけど?ルディは何かに耐えるように私の体をギュギュと絞めてきた。くっ!苦しい。



 それから、私はルディを褒めるようにした。……·してしまった。途中でやめればよかったのに、続けてしまったのだ。その結果、私がとてつもなく困った状態に陥ってしまった。




 おかしいと思い始めたのはそれから3ヶ月後のことだった。


「るでぃ兄。私、お菓子はもういらないから」


 膝の上に私を抱え、焼き菓子を差し出しているルディに勇気を出して言った。


 その私の言葉にまるで雷にでも打たれたかのようにルディは動かなくなってしまった。これはどうしたものかと、向かい側に座っているファルを見れば、ニヤニヤとした顔を私に向けている。

 え?これは何が起こったのだろう。


 少し待ってみると、ルディが私の両肩を掴んで揺さぶってきた。


「何がダメなんだ?このクメールが嫌いだったのか?店ごと潰せばいのか!」


 ちょっと待て!なぜ、私がお菓子をいらないと言えば店を潰すことになる!


「違うよ」


「じゃ、何がダメなんだ?お茶が気に入らないのか?」


「違うって!」


「何がダメなんだ!」


 はぁ。なんで3歳児の機嫌を13歳の少年がとっているのか。


「私って自分で言うのもなんだけど、天使じゃない?」


「ブッ!」

「そうだな」


 ファルが口を押さえながら、お腹を抱えている。笑うなら笑えばいい!これは本当のことだ!


 その頃の私は以前と異なり子供らしくぷっくりとした体格になり、髪も顎の下で揃えられ、鏡を見れば鏡の中に銀の天使がいると自分で自分の姿に驚くほど、可愛らしい外見となった。あ、中身は変わらないよ。


「それで昨日、人買いの貴族が来てたの。普通なら幼い子供がいる方には来ないのだけど、いきなり部屋に入ってきて、私を気持ち悪い目で見て、これがいいって言われた……no」


 私は思わずルディの顔を見てのけぞるが、そもそも抱えられているので、距離を取ることがでいない。


「その人買いやろうの目をくり抜けばいいのか?」


 笑っている。笑っているが、視線だけで人を射殺しそうなほど残忍さを帯びた笑いだ。


「いや、くり抜くのはダメだよ。どこの誰とか知らないし、直ぐに神父様が部屋から追い出してくれたから、問題なかったし」


「じゃ、息の根を止めてくるか」


 そう言って立ち上がるルディを私は必死で止めることになった。



 その翌日の朝。私は与えられた10人部屋に寝ていたはずなのに、起きればルディの部屋で寝ていた。それは流石に神父様にルディは怒られていた。


「寝ている間に攫われたらどうするんだ!」


 と誘拐犯であるルディの言い分だったが、神父様に罰だと言って、何やら課題を与えられていた。

 この行動は流石におかしいと私は思い始めていた。




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