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第12話 黒髪の少年(過去)

 この世界では時々、そういう者達が生まれるらしい。家族とは全く違う色を持って生まれる子供が。


【神の子】


 そのように呼ばれる子供。神の子と呼ばれる子供たちは必ずと言っていいほど『聖質』を持って生まれてくる。その容姿は神に祝福されていると言っていいほど整っている。


 そして、私のような貧しい家の子供は3歳になると教会に売られるのだ。3歳というのは、そういう決まりがあるらしい。

 3年間育てた恩賞として多額の金が両親に払われるというものだ。だから、私は籠の鳥のように育てられた。

 いい意味ではない。ある一定の距離をとられ、最低限の食事を与えられるという生活だ。子供だからわからないと両親と兄弟たちは思っていたかもしれないが、前世の記憶がある私からすれば、これは育児放棄に近い状態だった。


 そして、3歳になれば直ぐに教会に売られてしまった。教会に来るまでは、本当に買ってくれるのかと不安気だった両親も帰りには大金を手にして、ご機嫌で帰っていく姿を私は見つめていたが、これと言って何も感情は浮かばなかった。



 数日間、買われた教会で過ごしていて、ここは異常だということは直ぐにわかった。いや、私にある記憶が平和な国の常識しかもっていないので、この世界では普通なのかもしれない。


 子供を差別化し、楽をして生活できる者と常に腹をすかせて生きることもままならない者を存在させ、幼い頃から武器を持たし教育をする。どこぞの暗殺集団かと最初は疑ってしまった。


 迷子のふりをして逃げ出そうとしたが、いつの間には眠ってしまい私のベッドに戻っていたことが何度かあった。何処かに見張りがいるのだろうと調べてみれば、今の私に許された行動範囲というものも見えてきた。

 教会の中とその周りの施設と教会の裏にある森の中腹あたりまでだと。教会の表側から外に出ようとすると、神父様やシスターに止められてしまったので、街の方には行けないことだとも理解した。


 3ヶ月教会というところで暮らしてきて、大体のことを把握した頃に出会ったのが、ルディ兄だった。本当の名は覚えていないが、3歳の私が覚えて言える名が『ルディ兄』だけだったという事なんだけど。


 その日も3歳児には盛り込みすぎだろうという教育を終え、夕闇の中、空腹を紛らわすための食べ物を探しに教会の裏の森を歩いていると、何かに足を取られ、盛大にコケてしまった。いや、足がつまずき倒れ込む前に、誰かが私を支えた。

 よく見ると、地面に横たわっている人物が支えてくれたみたい。


「ありがとうございます」


「ちっ!」


 お礼を言ったのに舌打ちをされてしまった。

 しかし、日が暮れてしまった時間にこんな森の中で寝ているなんて、風邪を引いてしまうんじゃないのかな?


「お兄さん、ここで寝ていると風邪を引いちゃうから、早く戻った方がいいよ」


 そう言って、森の奥に行こうとすれば、腕を捕まれ引き止められてしまった。何か用があるのだろうかと、首をかしげ振り返ると少年は立ち上がって私を見下ろしていた。


「そっちは教会じゃない」


 ああ、私が森の奥の方に行こうとしているのを方向音痴と思って引き止めたのか。


「知ってる。でも、お腹が空いたから食べられるものを探しにいくの」


「ん?夕食はこれからだろ?」


 そうか、この少年は金持ちの家の子供だったのか。まぁ、知らないのは当たり前か、女子棟でもお金を払ってここに来ている者と売られてきた子供の住む場所は分けられているのだから。


「普通はそうかも知らないけれど、私のように売られてきた子供の食事は一日に一回だからお腹が空くの」


「売られてきた?何だそれは」


 本当に何も知らないのだろう。知らないのなら別に構わない。少年には関係のない話。


 私は少年の手を振り払い、森の奥に足を進めようとしたけど、後ろから捕獲された。


 足がぷらーんとさせながら後ろを睨みつける。所詮3歳児に12,3歳と思われる少年に抵抗するすべはない。


「売られるってなんだ?」


 はぁ。面倒くさい。お腹が空きすぎてイライラしてくる。


「それにこの髪は何だ?お前が切ったのか?」


 あ゛?!私の髪がどんな感じでも関係ないじゃないか!


「お兄さんには関係のないことだよね」


 私がそう言うと、少年の雰囲気がガラリと変わる。先程までは私を森の奥に行かせまいと面倒くさいながらも引き止めていた感じだったが、私を見下すように高圧的な態度になった。


「関係ないだぁ?ふらふらしているチビが居たら宿舎に連れ戻すっていう決まりがあるんだ。お前、見たことないから最近入ってきたばかりだろ?さっさと戻れ!」


「私はお腹が空いてるって言っているよね!それから私を知らないって、私は3ヶ月前からいるけど?私はお兄さんを知っているよ?遅くまで訓練場に居ることも、髪の色で虐められていることも」


 そう、この少年を私は毎日のように目にしていた。日が暮れてからも訓練を続けている姿を見ていたし、大人の目につかないところで、殴られたり蹴られたりしている姿も見ていた。それも黒い髪の色を穢れをまとっていると言われ集団で暴力を受けていた。


 穢れそれは世界の膿であり、毒と言われているものだ。



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