「怪我の具合みましょうか?」
青い髪の女性がニコリと微笑みながら言ってきた。怪我の具合なんて対して変わりはしない。昨日見てもらったばかりなんだから。
「いいえ。質問なのですが、剣術大会に出場していいですよね」
「その言い方は質問と言わないわ。それに片腕が使えないというのは厳しいわね。出場は諦めた方がいいわ」
片腕が使えなくても構わない。それに、駄目とは言われなかった。
「それは出られるということですね」
青い髪の女性は長い髪を指でくるくると絡めながら答えてくれた。
「うーん。普通は止めるのだけど、貴女にはいい機会でしょう?貴女の力を示してくれればいいと思うわ。」
いい機会?私には最後の機会に聞こえてしまった。この機会を逃せば、力を示さなければ誓約が施行されるということか。
力を示す?聖痕の力?それはここでは目立ち過ぎるんじゃないのか?この2週間の間、聖痕の話も力も耳にしていない。授業にもそのような言葉は出てこなかったってことは、この騎士養成学園に聖騎士になる予定の者はいないということだ。
そして、剣術大会の当日となった。大会の会場となる場所は学園所有の大きな闘技場だ。中央には綺麗に整備された地面があり、その周りには階段状の観客席がある。目測では東京ドームほどの大きさがあるのではないのだろうか。
そこで午前は16組に分かれバトルロイヤル方式で対戦し、午後はその勝者でトーナメント方式で対戦して、勝者を決めるというものだ。だから、バトルロイヤルを勝ち抜いた者は他の者より騎士団の上層部の目につきやすくなるため、午前は勝ち抜いてトーナメントで適当に負ければいいだろう。
バトルロイヤルの組は公平性をとるためにクジで決めると聞いたのだが、私の目の前では堂々とクジの交換が行われている。腐っている。
そこで聞こえてくる言葉は、誰々がいる組には入りたくないとか、数人と組んで戦うみたいな事を言っていいる。これはあれか?その人物の人間性でもみているのか?クジを引いたのに全くもって意味がない状態になっている。
そして、4番のカードがしきりに交換されている。恐らく4番に強い人でもいるのだろう。因みに私の手には6番のカードがある。午前の一回戦は1〜4組までが行われる。なので私は2回戦に戦うことになる。しかし、こんな茶番で何がわかるというのだろうか。
私の今の格好を見ても、鼻で笑ってしまう。胸当てとすね当てと腕当てと剣。それだけだ。騎士ともなると甲冑を着込んで戦うというのに、こんな軽い防具だけとは、推薦枠の大会にしてはお遊びと言われても仕方がないのではないのだろうか。
いや、お遊びなのかもしれない。きっと、推薦を受ける者はもう決まっているのだろう。
世の中というものは、所詮そんなものだ。馬鹿みたいに本気でこれで推薦をされると思っているのは、この場で組のカードを交換しまわっているガキどもだけだろう。
『1〜4組の者はカードを持って闘技場に出るように』
アナウンスが聞こえ、慌ただしく移動する者、クラスの控室に戻る者、その場に控えている者。各自が移動を始めた。
私は2回目に出るのでこのまま控えることにする。
はぁ。しかし、困った。どれぐらい力を抜けばいいのだろうか。
??? Side
「隊長。リュミエール様はなんで隊長にここに来いって言ったんッスかね」
赤髪の男がつまらなそうに眼下を見下ろしながら言う。
「さぁ。あの人の言っている意味がわからないのは、いつものことですから」
その斜め前には、眼下で繰り広げられている少年少女らの戦いに興味を示すことなく、本を開いて読んでいる白い隊服を身に着けた黒髪の男性が座っている。
「隊長も隊長ッス。ここに来ても意味がないのわかっていまッスよね。別に上からの命令じゃないんッスから時間をさいて来なくてもよかったんじゃないッスか?」
意味がない。そう彼が着ている隊服は白く聖騎士に所属していることが一目でわかる。ここは騎士養成学園なので、隊長と呼ばれた彼にとっては意味がないところだ。
「リュミエール神父を侮ると痛い目をみますよ。恐らく何か意味があるのでしょう」
意味があると言いつつも全く下ので行われていることに興味を示してはいない。
男の周りの他の騎士団の者達は、誰しも眼下に視線を向けているというのに。
その者達がざわざわと、ざわめきの声を上げる。普通なら午前では聞くことのない声に男は視線を読んでいた本から離し、眼下に視線を向けた。
「だ、隊長!アレって俺たちをぶっ飛ばしたヤツッスよ!」
男の後ろに控えていた灰色の隊服を着た赤髪の男がある一点指し示す。
「飛ばされたのは油断していたミレーとティオです」
そう言いながらも男は異質な者から視線を外してはいない。
異質。右手で剣を持ってはいるが、左腕は白い布で吊るされ、頭には包帯が巻かれている者だ。そのような状態では普通はこの場に出ることはできないだろう。
しかし、黒髪の男と赤髪の男は知っていた。
「なんで、あれだけ聖痕が使えて、ここにいるんッスかね?」