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第7話 天使の聖痕

 結局、私はあの女性教師とは別のクラスに変更になった。流石、騎士を養成するための教師なだけあって、殴る蹴るなどの手荒な暴行を受けた。

 部屋の外にいる神父様似の男性は我関せずとそのまま廊下に立っていた。


 あまりにも遅いということで、宿舎の管理人が様子を見に来て、ようやく女性教師の手が止まった。

 よく飽きもせず、1時間も罵倒と暴力を続けられるものだ。


 それに罵倒の声と暴力の音が聞こえているにも関わらず、よく平然と廊下で立っていられるものだ。

 これが普通なのだろうか。

 本当に組織というものは嫌気が差す。 


 医務室に連れて行かれた後、宿舎に連れて行かれた。医務室で神父様似の男性が宿舎まで送ろうと言ってきたが、丁寧に断った。


 誰がクソ神父の血の繋がりのあるヤツの手を借りるものか!教師に暴行を受けているというのに止めもしない男の手など借りるものか!


 ということを丁寧に言って断った。いや、半分ぐらいは漏れていたかもしれない。 


 宿舎の一室には管理者の女性の手を借りて、たどり着いた。木枠と薄い綿のマットが敷かれたベッドの上に座らされ、部屋のカギを手渡たされ、管理者の女性は部屋を出ていった。


 固いベッドの上に寝転がる。暴行されてできた傷など私はあっという間に治せるが、それこそ怪しんでくれと言わんばかりなので、痛みが酷いところのみ治す。


 天使の聖痕だ。


 これは一番見つかってはならない物。なぜなら200年前に一人現れてから、それ以降天使の聖痕を持つ者が現れていない。そして、200年前の人物は聖女に掲げ上げられている。そんなものはまっぴらごめんなので、絶対に隠しておかなければならない。


 一番酷い痛みが無くなったので、これで寝られそう。



 ブーツを脱ぎ、右足の小指にある緑色をした聖痕を見る。細く小さな聖痕。


 聖痕の太さと大きさはその聖痕の力の大きさを示している。だから、金髪の女性は残念そうにしていたのだ。私が使い物にならなさそうだと。でも、それでいい。


 私の茨の聖痕の本来の大きさは私の全身を纏わりつくように茨が這っているのだ。そんなもの聖痕が発現したと見せびらかしているのと同じ。


 なぜ、ここまで小さくなったかと言えば、8歳の頃、野菜を配達する仕事を受けた時だった。山積みになった野菜が入った箱を乗せて、荷車を引いて歩いていると、箱を縛っている縄が切れて荷崩れを起こしてしまったのだった。

 指定された時間が迫っており、急がなければならないのに焦って、近くの庭に植えてあった薔薇の花枝が目に付きいた。それは蔦のように絡み合いながら柵に這っていたので、これは使えるんじゃないのかと思ってしまった。

 よく考えれば無理な事ぐらいわかるのに、縄代わりにしようかと本気で考えていたら足元から茨が生えてきたという感じだ。


 もうパニックとしか言いようがなく、腕を見れば一面の茨。足元も茨。荷物が散乱。


 教会の時刻を示す鐘がなり、もう指定時間に間に合わないと悟った私はやっと冷静になれた。

 取り敢えず私の優先順位から荷物を指定時間に間に合わすのは諦め、聖痕をなんとかする事にした。


 聖痕を擦ってみる。引っ掻いてみる。叩いてみる。何も変わらない。

 それはそうだ神の奇跡とか言われている物だ。これしきのことで消えるはずがない。


 消えないなら小さくできないかと思うと右手の小指一面にまで小さくなったがこれでもひと目に付く。


 もっと小さくひと目に付かないぐらいと願えば、今の状態に落ち着いた。


 他の聖痕も同じような感じだ。街の食堂の皿を洗う仕事をしていた時、次に皿を落とせば解雇だと言われていたのだ。しかし、それは私の不注意で落としているのではなく、いつも私にちょっかいを掛けてくるヤツが無理にぶつかってきて、皿が落ちてしまうのだ。

 そして、そいつがぶつかってきて、持っていた皿を派手にぶち撒け、落ちるなと強く思ったとき皿が浮くという現象が起きた。


 そう、神父様が言っていたとおり、過酷な状況に陥れば願ってしまう。それが聖痕を発現する事に繋がっていたのだ。




ラファーガ side


「何落ち込んでいるのですぅ?」


 所属する聖騎士団の部隊の詰め所に戻ってきたラファーガは椅子に座って項垂れていた。その姿を見て声をかけてきたのは金髪の女性だった。その女性は昨日の夜中に緊急の要請があり、王都からキルクスの間を共に往復した同僚である。


「きつい」


「夜中に出発して、やっと一息つけたのが、今ですからねぇ。流石に疲れますねぇ」


 金髪の女性は自分だけ紅茶を入れて、それを目の前で飲んでいる。


「違う。それが仕事だとわかっていても、殴られている子を助けては駄目だなんて」


 ラファーガの言葉に金髪の女性は前のめりになり、目をランランと輝かせて聞いてきた。


「やっぱりぃ、スメリーは殴ってきたのぉ?ラファーガに近づく女の子は何が何でも排除したがるものねぇ。で、聖痕はどうだったぁ?茨は何本出てきたのぉ?」


「……なかった」


「え?」


「聖痕の力は使われなかった。俺あんな目で見られたの初めてだ。虫ケラでも見るような、あの目」


「それは貴重な体験をしたわねぇ。そう、力は示されなかったの。あの子駄目かもしれないわね」



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