王都にその日の夕方に到着した。騎獣なら半日で行けるから元から騎獣しか選択肢が無かったってことか。
そして、私はとある建物に連れて来られた。そこは見習い騎士が過ごす場所だった。
騎士養成学園。
見習い騎士が座学、実技を学ぶところで聖騎士だけでなく、この国の騎士というものを育成するところなのだろう。
「アンジュさんは聖騎士となることが決まっていますが、ここであまり成果が見られないと脱落ということになりますので、頑張ってください」
目の前でこの学園での校則や注意事項を説明してくれているのは、私が入るクラスを受け持つ教師だという女性だ。
「基本的には校外に出ることはできません。外出許可は一週間前に提出してください」
外にはでられない?どうやってお金を稼げばいいのだろう。
「あとは、途中入学という形なので、困ることが多々あるかもしれませんが、その時は気軽に相談してくださいね。説明は以上ですが何か質問はありますか?」
質問?質問ね。いっぱいあるけど、それだと気合入っていると捉えられそう。取り敢えず一つでいいか。
「お金はどうやって稼げばいいのですか?」
「え?」
聞こえなかったのだろうか。もう一度同じ事を言う。
「お金を稼ぐにはどうすればいいのですか?」
「あ!学費はね。気にしなくていいのよ。食事も食堂があるからそこで食べれるから大丈夫よ」
と言う事はすべて無料ということ?
「身の回りの物が欲しい場合は?」
「それは購買部で買ってね。隊服も新しい物が欲しい場合もそこで購入できるのよ」
ちっ。やっぱりお金がいるじゃないか。
「だから、そういう物を購入する費用はどこから捻出すればいいのですか?」
イラっとして少し声が大きくなってしまった。
「あら?ご両親からお小遣い貰っているでしょう?」
何?この脳内花畑のようなお気楽な教師は!少なからず私のような親に売られた子供もいるはずだ。なのにそれを知らないと?
その前に私がどういう立場か説明がされていないのだろうか。
「貴女はここで何年教師をしていますか?」
「私の歳を知りたいの?それは秘密よ♡」
駄目だ話にならない。私は立ち上がり部屋の扉を開け、廊下に立っていた神父様似の男性に聞く。
「ここで勉強をする意味はあるのですか?あるならここで暮らす為のお金を稼ぐ方法はなんですか?」
私の勢いに若干引き気味になっているが、この人が神父様に繋がっているならその辺りのことも聞いているはずだ。
「君がここでお金を稼ぐ必要はない。君の場合は全て支給という形だ」
「そうですか。それを説明できない教師は必要で··」
思いっ切り腕を引っ張られ、部屋の中に戻され、頬を叩かれた。それも先程の女性教師が凄い形相で睨んできている。
ああ、そっちが本性で
「小汚い小娘の癖にラファーガ様の前でなんて事を言うの!」
ラファーガって誰?ああ、そう言えば名前聞いていなかった。神父様似の男性の名前か。
別に名乗られなかったし、そもそも興味もないし。灰色の隊服ってことはそこまで、階級の高い人でもなさそうだし。
なんで、叩かれなければならないのか。
ん?そう言えばここまで一緒だった女性が彼は人気って言っていたから、モテるのだろう。
ははーん。可愛く見せようとしていたとか?
そして、この学園までは3人だったけど、学園内では神父似の男性が私を連れて来たので羨ましかったみたいな感じかな。
さっきからずーと文句を言っているけど、そのラファーガ様って言う人に筒抜けだけどいいのだろうか。
「わかったら返事をしなさいと言っているでしょ!」
そう言って女性はまた頬を叩いてきた。別に私が悪いわけではないと言うのに、なぜ、頬を叩かれなければならないのだろうか。
まぁ。こんな事は教会でもよくあったことだし、気がすめば終わるかな。
連れてきた女性 side
「それで、新しく聖痕が現れたという子はどんな感じ?」
執務室のような部屋で机に肘を付いて、男性がにこにことしながら目の前の女性に聞いている。
「はっ。あまり期待できない感じであります。聖痕の太さも細く、大きさも小さく茨の紋様でしたが、茨が1本出現すれば良い方かと推察します。あと、食が細いようで、あまり食べ物を食べませんでした」
女性はアンジュと接した時とは違い、ハキハキと言葉を発している。
「ふーん。性格はどんな感じ?」
「何事にも興味がないように思われますが、自分の意志ははっきりと持っています。ただ、リュミエール様の事をよく思っていないようで……」
「ああ、それは仕方がないね。それがリュミエール様の教育方針だから。まぁ、その子が成長しないようなら、聖騎士としての道は絶たれる。それだけだからね」