朝日の眩しさに意識が浮上する。朝日が眩しい?寝過ごした!ヤバい!朝のお勤めが……
慌てて目を開けると私の目を緑の目が見つめている。金髪の美人の女性が私を見つめている……私は目を閉じた。
「寝ないでくださいよぉ。朝ですよぉ」
「美人のお姉さんの夢ですね」
私にあのような美人の知り合いはいない。もう一度寝れば、目が覚めるだろう。
「美人と言われるのは嬉しいですが、今日の朝には王都に向けて出発するので準備してくださいー」
私の体をゆさゆさと揺らしながら、言ってきた。
王都?王都!
勢いよく起き上がるとガツンと頭に衝撃が走った。起こそうとしていた女性の頭とぶつかってしまった。
「すみません」
額を押さえながら謝る。
「いいえ、こちらこそぉ」
昨日の事は夢じゃなく現実だったということか。はぁ。と、ため息を吐いてベッドを下りると……服を着ていない?なぜ、私は裸なのだろう。
「服はこちらを着てくださいねぇ」
そう言って女性は濃い灰色の隊服を渡してきた。見習い騎士の隊服の色。
渡された隊服を着ていると先程の女性が話しかけていた。
「名前はアンジュで間違いありませんかぁ?」
「はい」
「聖痕は1つですねぇ。右足の小指に円状に現れたものですねぇ」
「……」
1つ?神父様は何も言っていないのだろうか。
「しかし、これだけ細く小さいとあまり期待できませんねぇ」
女性は残念そうに言葉をもらした。細く小さい聖痕。多分、聖騎士の人なのだろう。この女性は私に渡してきた隊服よりも薄い灰色のものを着ている。
私を全裸にして聖痕をあることを確認していたのだろう。最低だ。人が意識がないというのに体中を探し回るというのは。
しかし、逆の立場を考えれば理には適っているのかもしれないが、一言ぐらい言うべきなのではないのか?
「貴女の荷物は机の上に置いてありますから、それを持って直ぐにここを立ちますよぉ」
そう言って女性は部屋を出ていった。私の荷物?部屋には何も残してはいなかったはず。机の上を見てみると、昨日茂みに隠しておいた、背中に負える鞄がある。確かに私の荷物だ。
はぁ。所詮、私のような浅はかな考えなんて神父様には全てお見通しってことだったか。
私は荷物を持って部屋を出た。そこは見たことがない廊下だった。教会はどこもかしこも寒々しい石造りの建物だ。だけどここは、木の床にレンガの壁、若しくは布地のような物が壁一面に貼られている。
ここはどこだろう?首を傾げていると、手を引っ張られた。
「こっちですぅ。貴女は騎獣に乗るのと馬車に乗るのとどちらがいいですかぁ?」
先程の女性に手を握られ進まされている。王都までの移動手段の選択肢が私にある?普通はこれで移動すると言われる立場のはず。
「私は騎獣にも馬車にも乗った事がありません。どちらがいいという選択肢を出されてもわかりません」
私の答えに女性は立ち止まって私の顔を見た。それに対し私は目を伏せる。
「普通は女の子は馬車がいいって答えると思っていたけどぉ?」
「では、男の子は騎獣ですか?」
「そうねぇ。どちらでもいいなら騎獣でいいかしらぁ?」
そう言って女性は歩き出した。騎獣の方が都合がいい?しかし、私は乗ったことがないと言っているので誰かに乗せてもらうという形なのだろう。
玄関扉の外に出ると二人の男性と騎獣が三頭いた。朝日の眩しさに目を細め確認してみると、男性二人は女性と同じ灰色の隊服を着ている。そして、馬車の存在なんてありはしない。
元々用意なんてしてないじゃないか。それで敢えて聞く理由は何?意地が悪いってやつ?
「じゃ、どの騎獣に乗りたいー?」
また質問された。どの騎獣?どれも狼に羽が生えた騎獣だ。違いなんてありやしない。一体何を試されているのか。
「私は騎獣なんて初めてみたので、違いがわかりません。お姉さんの騎獣でお願いします」
「あらぁ?彼とか人気よぉ」
そう言って一人の男性を指し示した。人気?その男性をみると、薄い茶髪に青い目。どことなく神父様に似た雰囲気を感じる。
「一番ないです。あの人は神父様の親戚の人ですか?」
「御子息よぉ」
「そうですか。一緒に乗ると途中で首を締めたくなると思います」
「それは困るわねぇ」
どう困るのか分からないが、女性は私の手を掴んだまま騎獣の側まできた。
女性が先に騎獣に跨がり、私を騎獣の上に引き上げ、女性の後ろにまたがる。
そして、三頭の騎獣が空に飛び立った。
神父side
「もう少し言い方ってものがあったのでは?」
教会の祭壇前にいる神父に声を掛ける者がいる。
「いいのですよ。これでいいのです」
神父は振り返りもせずに答える。後ろに居るのが誰かわかっているのだろう。
「嫌われ役も大変だな」
「アンジュは頑張り屋さんですからね。何か目標があった方がいいのですよ」
アンジュが嫌いだという笑顔とは違う微笑みを浮かべている。
「しかし、2つも発現していたとは驚きだったなぁ」
「君もまだまだですね。4つですよ」
その言葉に後ろにいた者が神父に詰め寄る。
「はぁ?4つ!ありえない。今までよく隠せていたな」
「それほど自由を求めていたということでしょう。我々に自由なんてものはありはしないというのに」
神父はそう言いながら、王都がある方に視線を向ける。今頃このキクルスを自由を求めた少女が出た頃だろうか。行動の自由は許されないが、心は自由だ。
「さて、一筋縄ではいかなそうですので、あの子に連絡だけでもいれときましょうか。今度は間に合うとよいですね」