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第4話 夢も希望もありはしない

 ヤバい。ヤバい。なんであんなところに聖騎士がいる!あのチェーンメイルに白いマントを纏っているのは聖騎士以外存在しない。それも聖騎士団の中でもトップクラスしか身に着けられないという白い色。


 私は上空を飛んで逃げている。いや、あまりにもイライラしていて、こっちを見ているヤツがいるのに気がついてしまった。そして、憂さ晴らしをしようと、森の奥まで飛んでいって茨の鞭を振り切って気がついた。


 めっちゃヤバいと。それももう手遅れ、二人もぶっ飛ばしてしまった。

 速攻逃げたよ。


 外壁も外門もすっ飛ばして、空から教会に戻ってきた。空の箱を持って。

 周りに人が居ないことを確認して、地面に降り立つ。これも私の聖痕の力の一つ。重力の聖痕。


 さっさと教会の中に入って祭壇の前に空の箱を置き、冷たい石の床に膝をつき、両手を組み祈りを捧げる。


 すると箱がほのかに光り。紋様が浮き出てきた。多分これが誓約完了の印なのだろう。もうここには用はない。さっさと出ていこう。


 立ち上がり、後ろを振り返ると……


「あ」


「おかえりなさい。アンジュ」


 教会の入り口には神父様がいた。なんでここに?いや教会に神父様がいるのはおかしくはない。おかしくはないけど、今ここにいなくてもいいはず。


 違う。これはただの私の希望。居なければいいと。

 私は神父様に向き合う。


「私は自由にしていいですか?」


 私の希望を言ってみる。多分、駄目だと言われるのはわかっているその時は強行突破するつもりだ。


「無理ですよ」


 神父様はニコニコしながら言う。この顔、腹が立つ。笑っているようで、笑っていないこの顔。

 そして、一枚の紙を取り出す。


「困るんですよね。時々いるのです。貴女のような聖痕があるのに自由になれると勘違いしている子が」


 どういう事!


「これ貴女を買ったときの誓約書。ここに書いてあります」


 そう言って、紙の中程を指で示しながら


「聖痕が発現した場合、聖騎士団に入団しなければならない。と」


 ニコニコと言う。それは、聖痕が発現して入団しなければ、死を賜るということ。そんな誓約書が存在するなんて知らなかった。いや、子供には知らせる必要はない。教会と親との契約の一部に子供の誓約が含まれていた。


「はははは。こういう事」


『どう足掻こうとも、お前の未来は一つしかない』という言葉はコレを指していた。


「馬鹿なのは私の方ってこと」


「アンジュは馬鹿ではありませんよ。ここまでたどり着いた子はこの10年で5人です」


 はっ。馬鹿にしてるし、ここまであがいたヤツが少なかったってこと。


「本当に褒めているんですよ。よくここまで頑張ってくれたと。どうやら聖痕は2つ持っているようですしね」


 私は目を見開く。私は教会で聖痕の力を使ってはいない。神父様が知っていても先程の空から降りてきた能力のみのはずだ。

 もしかして私にわからない方法で監視していた?


「アンジュ。どうして聖質を持つ子供を過酷な状況に置いていると思いますか?」


 私は答えない。そんなもの知らない。ただ、そう言われると思い当たることはある。


「困難な状況に陥ると、人は願ってしまうのです。こうあれば、こうなっていれば、こうでありたいと。それが、聖痕の発現に繋がるのです。ただ、聖騎士としてふさわしくない能力を発現してしまう子もいますからね。その子たちは神の慈悲を賜りましたが」


 神の慈悲?ただ殺しただけ。そんな能力はいらないと。


「16歳は聖痕が発現する最高年齢なのですよ。そして、聖水の儀は聖痕を発現させる最後の機会。命の危険にさらされて発現する能力は聖騎士としてふさわしい能力が備わりやすいのです」


「あの少年たちは?」


「ああ、あれは青竜騎士団のヒヨッコです。何かしら規律違反を起こした者の減罰の選択です。箱を持った者を殺すことで減罰されるか、殺す事ができなければ正規の罰を受けるというものです」


 最低だ。こちら側は死ぬというのに、あっちはただの罰で済むなんて不公平だ。


「不満そうですね」


「ええ」


「そうでもしないと、アンジュの様に聖痕を隠している者を見つけられないでしょう?」


 私は罠に掛かってしまったということか。道は1本しかない。クソ!クソ!クソ!今まで頑張って来たのが全て無駄だった。夢も希望もありはしない!


「明日、王都に向かえるように手配しておきます。それまでお休みなさい」


 頭がクラリとする。なにこれ。眠りの魔術?


「アンジュ。聖騎士になって活躍することを願っていますよ。そうなればキルクスの教会の評価が上がりますからね」


 あ゛?活躍?そんなものしてやるものか!

 そう言いたかったが、瞼が下がり意識がなくなってしまった。


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