夜の森の入り口の前まで来た。昼間来たときとは雰囲気が全く違う。足元を照らすのは腰に付けたカンテラランプの魔光石の光のみ。
息を一つ吐いて顔を上げて周りを確認する。人の気配は感じない。私を見張っている者は居ないということ?疑問に思いながらむき出しの土が続いている舗装されていない道を歩きだす。
歩いて10分の距離だ。木の箱を抱えても大した距離ではない。その距離で何か起こることは普通はない。
けれど、人の気配が近づいてくる。それも急いでいるかのような足音が聞こえる。私以外の数人の足音。草をかき分け、木の枝が折れる音も。
てっきり私は魔物でも放たれてるのかと思っていた。
けれどこれは人。それも素人?
ここは西の森。森の奥には魔物も魔獣も存在している。なのに警戒心もなく、ここにいることを示しながら歩いてくる。
冒険者たちが言っていた。夜は火を絶やさずに休むと、少なからず火を恐れる魔獣や魔物がいるためだ。しかし、明かりが見えないことから、冒険者ではない。
では、盗賊か。ここを根城としているのならまだしも、ここには森の管理者がいる。それはないだろう。
では何?光魔石に魔力を流し、光を強める。木々の陰から5人の外套を纏った同じぐらいの少年がいた。それも剣を佩いているようだ。その少年たちは『アレだ』と言って私を指している。
これが?この少年たちが今まで私達を死に追いやっていた存在?
少年たちは剣を抜いて私に向かって駆けてきた。
ああ、違う。組織だ。だから大人は嫌いだ。権力というものは嫌いだ。
私の両手は木の箱で塞がれている。嫌だ。嫌だ。試されているのはどっちだ?私か?少年たちか?腹が立つ。
「『
地面から茨が生えていき、少年たちを囲んで行き
「『
四肢に絡みついた。
まぬけ。茨を切ろうと剣を振り回しているけど、動くと段々締まっていくだけ。
私は箱を地面に置き、茨の鞭を作り出す。そう、これが私の聖痕の力の一つ。茨の聖痕。彼らを脅すには丁度いい。
私は鞭を一振りし地面をえぐる。それを見た少年たちが『ヒィ』と怯えだす。
「さあ、答えて。あなた達はどこに所属している?」
鞭で脅しても鞭を振って恥ずかしい姿になり下がっても、少年たちは何も答えなかった。衣服も剣も一般的にありふれている量産品。終いには『この豚野郎と罵ってください』とまで言われてしまった。
どうやら私は彼らの新たな扉を開けてしまったみたい。今後は気をつけなければ。
少年たちは恥ずかしい姿のままロープで縛り、木に吊るしておくことにした。ここの管理人か所属組織かが解放してくれるはずだ。
私は木の箱を持ち上げて、小屋の方向に向かう。チラチラと木々の間から明かりが見え隠れしている。どうやら管理人は帰っているようだ。
それからは何事もなく5分後には小屋の前にたどり着いた。やはり、あの少年たちが私の死の一つだったのだろう。
箱を足元に置き、小屋の扉をノックするすると直ぐに扉が開いた。まるで待ち構えていたかのように。
中からは熊のような大柄な男性が出てきた。この人物が管理者なんだろう。
「聖水をお持ちしました」
そう言って箱を持ち上げ目の前の管理者に差し出す。しかし、管理者は箱を受け取ろうとせず、箱の中の聖水だけ抜いていった。箱は必要ないのだろうか。
管理者は何も喋らないまま扉を閉めようとして、しかし、何かあるのか少しだけ開けた扉の隙間から憐れみの目を私に向けた。そして、口を開く。
「どう足掻こうとも、お前の未来は一つしかない」
と。扉がバタンと閉じた音が耳の奥にとても響く。
なにそれ。なにそれ。なにそれ。
私は死ぬしかないと?若しくは教会という組織に囚われたままだと?
ふざけるな!
???side
「わぁー。見ました隊長!あれ!仕事帰りに青の奴らが何かしてると思って見てたら、逆にしてやられているじゃないっすか!」
「でも、この街に聖痕持ちが居るっていう情報はなかったですわ」
月夜の暗闇の森の奥深く崖の上に三人の人影がある。一人は赤髪の男。一人は金髪の女。一人は黒髪の男。三人の共通点は皆チェーンメイルにサーコートを着ており、兜は被っておらず、ただ、眼下で行われていた事柄を眺めていた。その中で黒髪の男のみが真っ白なマントを纏っている。
「あの灰色の衣服は教会の育て子でしょう」
黒髪の男が目を細めながら言う。
「あ!そう言えば来週キルクスから一人来るって聞いたっスよ」
赤髪の男が思い出したかのように言った。
「あら?男の子じゃなかったかしら?」
金髪の女が首を傾げる。
「どちらでもいいでしょう。あの聖痕持ちは聖騎士団に来ることでしょうから」
黒髪の男は興味がないと言わんばかりに背を向けたところで、何か焦ったように再び先程見ていた小屋に目を向ける。
居ない。先程まで小屋の前にいた灰色の服を身に着けた者が見当たらない。
「ミレー!ティオ!構えなさい!」
「「は?」」
黒髪の男が金髪の女と赤髪の男に命令をしたところで風が吹き抜けた。目の前には白い髪にピンクの目を光らせた少女が茨の鞭を振り切った姿でいた。
黒髪の男の側にいた赤髪の男と金髪の女は茨の鞭によって飛ばされ、黒髪の男は茨の鞭を剣で受け止めていた。