アルマは、カーライルが最後の力を振り絞って投げた光り輝く魔石を空中で捉えようと必死に駆け寄った。魔石が描く弧が地面へと届く瞬間を見逃すまいと、彼女は両手を差し出し、しっかりと受け止めた。その冷たい重みと内部で脈動する力が、カーライルの覚悟そのものを伝えるように、彼女の手に強く響いた。
「カーライル…!」
アルマの声は切実だった。だが、彼女の視線の先に映ったのは、地面に伏し、静かに動きを止めたカーライルの姿だった。彼は全てを託し、その重責を抱えたまま力尽きたのだ。胸を締め付けられるようなその現実に、アルマの瞳には自然と涙が浮かんだ。
(泣いている暇はない…今は、彼の意志を無駄にしないことだけが私の使命…)
心の中でそう強く自分に言い聞かせ、アルマは震える手で魔石を見つめた。その内部に眠る膨大な力を感じ、封印を解くために意識を集中させる。
「さっきと同じ…共鳴で内部から破壊すれば…!」
アルマは胸元のペンダントに手を触れ、そこに自らのマナを注ぎ込んだ。ペンダントと魔石の波長が重なり合い、静かな振動が響き始める。その音は微かだが、確実に封印を崩していく力を帯びていた。
――パキッ。
小さな音と共に、魔石の封印が音もなく崩れ去った。その瞬間、魔石を包み込む光が溢れ出し、戦場全体をまばゆい輝きで照らし出した。その光は脈動し、生きているかのように力強さを増していく。
アルマは光を放つ魔石を手に、その輝きをじっと見つめた。彼女の手の中にあるのは、カーライルが全てを懸けて託したもの――その責任を果たすという決意が、彼女の瞳に宿っていた。魔石の輝きに合わせるように、彼女の震える手にも闘志が込められていく。
その様子を、ロクスは息を呑んで見つめていた。驚きと敬意が入り混じった視線で、彼はアルマが魔石の封印を解いていく一部始終を目撃した。そして、魔石から放たれた膨大なエネルギーが戦場全体を飲み込むように広がると、低く呟いた。
「…なるほど、こういうことか。」
その声には、アルマの知恵と覚悟への敬意が滲んでいた。同時に、その行動が背負う重みと、そこに秘められた力の大きさに戦慄していた。
「王家の象徴たる魔導騎兵の動力を、自分の手で解放するとは…。」
ロクスの言葉には、アルマの行動の意味を深く理解した上での驚きが込められていた。しかし、彼女が抱えた強い意志が、戦場の重苦しい空気を確実に変えていることもまた事実だった。
封印を解かれた魔石の力は、まるで生命の息吹そのもののように溢れ出し、戦場全体を包み込んだ。そのエネルギーは単なる魔力を超え、魂にまで染み渡るような神聖さを帯びていた。圧倒的な光が荒廃した戦場を覆い尽くし、破壊と絶望に満ちた景色に新たな命を吹き込むかのようだった。
ロクスはその力を剣へと注ぎ込み、剣が放つ神々しい輝きは戦場全体を照らし出した。その光は闇を一掃し、あらゆる敵意を弾き返す力を纏っている。
「守護者の力、見せてやろう。」
その言葉には揺るぎない決意が込められていた。彼の手の中で剣は、天の祝福を受けたかのように神聖な武器へと変貌していく。
アルマもまた、魔石から手を離し、破壊された戦場を見渡しながら静かに呟いた。
「終わらせるわ…」
その一言には、すべてを懸けた覚悟が込められていた。両手から溢れ出す光がまばゆい輝きを放ち、天へ祈りを捧げるような気高さを感じさせる。アルマは静かに詠唱を始め、その声は力強くも穏やかに戦場に響き渡った。
「天より降り注ぐ清浄の光よ、大地を照らし、全てを貫け――
その瞬間、天を裂くように現れたのは、まさに神の威光とも言える巨大な光の槍。これは上級魔法「
デスサイズは苦痛に満ちた咆哮を放った。その声は戦場を揺るがし、まるで天地を裂くかのごとき怒りが響き渡る。しかし、圧倒的な闇の力はまだ完全には消えていなかった。黒い瘴気が聖光の槍に抗い、ねじれるように渦を巻きながら、破壊されぬままにその姿が現れる。デスサイズの巨体は地に倒れることなく、依然として立ちはだかっていたが、確実にその力は削がれ、かつての凄まじい威圧感は失われつつあった。動きは鈍り、その威力も幾分か弱まっていることがはっきりと分かった。
デスサイズは予想外の一撃に苛立ち、怒りに満ちた表情で鋭い眼光をアルマとロクスに向けた。その瞳には絶望と憤怒が渦巻き、彼のすべての怒りが沸点に達したかのようだった。巨鎌を大きく振りかざすと、空気を裂くような咆哮を響かせ、一気に振り下ろした。その一撃には圧倒的な憎悪が凝縮され、まるで大地そのものを打ち砕かんとするような凄まじい力が込められていた。
一振りが地を震わせ、闇の瘴気が破裂するように四方へ広がり、戦場全体を覆い尽くすほど膨れ上がった。闇の波動は戦場を圧倒し、すべてを呑み込もうとするかのように荒れ狂った。しかし、その絶望の闇がアルマとロクスに迫った瞬間、二人の前にまばゆい光の障壁が突如として現れた。
その光は神聖なる守護のように輝き、闇を拒むかのように強烈な輝きを放っていた。闇と光が交錯する中、光の障壁は揺るぎなく二人を守り、まるで聖なる力が降り注いでいるかのように戦場を満たしていった。