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(54)不可解な事象

カーライルが人工魔石を取りに向かい、ロクスとアルマがデスサイズの足止めをしているその時──


同時刻、王城にて


赤いマナで構成された王都の盤上。その平穏だった光景に、突如として銀色の光点が浮かび上がり始めた。シオンの視線が光点に釘付けになる。次第に増え続ける光点は南の城門近くを中心に円を描くように広がっていく。


「これは…」


彼の眉間に深い皺が刻まれた。不吉な感覚が胸をよぎる。目の前の盤面は、王都全体の状況をマナで映し出すもの。だが、その中で浮かび上がる光点は、かつて死霊系モンスターとの激戦で壊滅したはずの魔導騎兵の位置を正確に示していた。


「あの騎兵たちは完全に機能を停止しているはずだ。それなのに、なぜ…?」


彼の口から漏れる言葉は、自らの思考を整理するような響きを帯びていた。常識的に考えればあり得ない事態だった。魔導騎兵は破壊され、その機能も消失している。それにもかかわらず、光点は不気味に増え続けている。


「まさか…誰かが再起動させたのか?」


その可能性が頭をよぎる。しかし、シオンは即座に否定した。彼らは破損が激しく、外部からの修復は現実的ではない。さらに、それを可能にする術式を操れる者は極めて限られている。だが、目の前の異常な光景は否応なく新たな疑念を突きつけてきた。


「もしや…人工魔石のマナが解放されたのか?」


その考えに至った瞬間、シオンの胸に重苦しい感覚が広がった。人工魔石――それは膨大なマナを秘めた結晶。王立魔法研究所の封印術で管理され、その力は人知を超えたものだ。だが、その力が解放されているのであれば、状況は一変する。


「しかし…一体誰が?」


彼は盤上を凝視したまま、冷静に可能性を洗い出す。人工魔石を扱える者は限られている。天剣の騎士団、聖天の魔道師団、王立魔法研究所──いずれも王家に忠誠を誓う者たちだ。だが、封印を破り、術式を再起動させるなど、理論上不可能に近い。


「モンスターがこれほど高度な術を使うとは考えられない。では…味方の勢力が何かを仕掛けているのか?」


銀色の光点はなおも増え続ける。状況の背後に潜む意図を見極めるべく、シオンはひとつ深く息をついた。


「もしこれが味方の策ならば、歓迎すべきことだが…」


そう呟きながら、シオンは盤面を指でなぞる。その指先からは彼の迷いを消し去るかのような鋭い決意がにじみ出ていた。


「理解できない状況であっても、今、僕にできることを成すしかない。」


赤いマナで描かれた王都の盤上に目を戻し、シオンは即座に命令を下した。


「死霊系モンスターの掃討はほぼ完了している。残る巨大な黒点は五つ…!弓兵を西のギルド本部付近へ。剣兵は東の聖堂周辺を警戒。騎兵は北の研究所を死守するよう配置せよ。」


その声は冷静でありながら、鋼のように力強かった。彼の命令を受けた魔道回路が淡く光を帯び、王都の防衛線に新たな動きが生まれる。


「たとえ未知の事態であろうと、僕が立ち止まるわけにはいかない。」


彼の言葉は、己に対する宣言であり、同時に王家の責務を象徴するものだった。その声は戦場の静寂を切り裂き、決して揺るがぬ覚悟を伝えるかのように響き渡った。

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