死神に追い詰められ、状況は確かに厳しかった。だが、アルマの胸にはまだ小さな希望の光が残されていた。それは、魔導騎兵に内蔵された人工魔石を活用する可能性。この深い闇の中に微かに差し込む光を、彼女は決して見逃さなかった。その光を頼りに、アルマの中で再び燃え上がった闘志が、彼女の疲れ切った体を奮い立たせていた。
(魔導騎兵がいくつ存在しているかなんてわからない。でも…この混乱が王都全域に広がっているなら、まだどこかにマナを残したまま動きを止めたものがいるはず…だったら!)
強い決意を胸に、アルマは再びペンダントの魔石に強くマナを注ぎ込んだ。一度起こした共鳴の感覚を頼りに、魔石と魔石を繋ぐ術を本能的に理解し、精密に操作していく。
「もっと広範囲に…王都中の人工魔石を呼び覚ます…!」
ペンダントから溢れ出したマナは円を描くように彼女の周囲へと広がり、一つの魔石に留まらず、辺りに散らばるすべての魔石へ共鳴を促す波紋となって拡散していく。アルマは全神経を研ぎ澄ませ、その微細なマナの流れを一瞬たりとも見逃さぬよう、全存在を集中させていた。
「お願い…届いて…!」
その言葉には祈りが込められていたが、それ以上に、彼女の中で燃え上がる強い意志が滲んでいた。その声は、ただの願いではなく、彼女自身の覚悟そのものだった。
そして、次の瞬間――アルマの意志に応えるかのように、王都の各地から純白の光の柱が次々と天へと突き上がった。瘴気に満たされ、暗闇に覆われた戦場を貫いたその光景は、まるで天から神々の奇跡が降り注いだかのようだった。純白の輝きは暗闇を鋭く切り裂き、瘴気すらも浄化していく。その光は、単なる魔法の力ではなかった――それは、絶望に沈んだ戦場に希望そのものをもたらす、聖なる輝きだった。
崩れかけた建物の屋上に身を潜め、瘴気の流れと死神の動きを注視していたカーライルは、突如として王都に立ち上る純白の光の柱を目の当たりにした。その異変に目を細め、息を呑んで凝視する。
「何だ…?」
彼の声には困惑が混じりながらも、その光がもたらす変化を本能で感じ取っていた。戦場の空気が変わり、まるで戦局全体が大きく動き始めたような気配が漂っている。ただの光ではない――この光こそ、戦いの行方を左右するものだと彼は確信した。
そのとき、遠くからアルマの声が戦場の喧騒を切り裂き、カーライルの耳に届いた。その声は、絶望を打ち破る強い意志に満ちていた。
「カーライル!聞こえる!?」
その叫びに応えるように彼が顔を上げた瞬間、彼女の言葉が続く。
「光の柱の下に、まだマナが残っている人工魔石があるの!それを使えば、デスサイズを倒せるかもしれない!」
彼女の声には確信が宿っており、その響きは戦場の緊張を一瞬で引き締め、周囲に希望の光をもたらした。
「特に!特に光が強いものを取ってきて!お願い!急いで!」
さらに張り上げられたアルマの声には、時間がないという切迫した緊張が溢れていた。
「嬢ちゃんが何を言ってるのかよく分からんが…任せろ!」
カーライルは軽口を叩きつつも、その声にはアルマへの信頼と覚悟がしっかりと込められていた。彼はすぐさま身を翻し、屋根を駆け抜け、瓦礫を跳び越えながら全力で目的地へと向かう。その動きには一切の無駄がなく、全力を尽くすという強い意志が滲んでいた。何としてもこの戦いに勝利をもたらす――その決意が彼の背中に刻まれている。
「私たちで、デスサイズを引き止めるわ!」
アルマの瞳には、不屈の闘志と、この場を全力で守り抜こうとする決意が揺るぎなく宿っていた。その叫びが戦場に響き渡り、それに応えるかのように死神も動き出す。瘴気に包まれ、自然と息絶えるだろうと高を括っていた者たちが、今もなお彼に対抗できるほどの力を保っていると悟り、戦場に漂う瘴気の中で鋭い眼差しを向ける。
その時、ロクスもまたアルマの声に反応した。彼女の計画全てを把握しているわけではなかったが、新たな策を見つけたのだと直感的に感じ取っていた。
「もし手があるなら…もちろん、私も協力しよう!」
その言葉には揺るぎない信念と決意が込められており、ロクスの瞳には、どんな状況でも最後まで戦い抜く覚悟と、戦士としての誇りが光を宿していた。彼は剣を構え直し、すでに晴れ始めた瘴気の中から姿を現すと、目の前で鎌を振り下ろそうとするデスサイズを鋭く見据えた。
デスサイズの圧倒的な威圧感が迫る中、ロクスの心には一片の揺らぎもなかった。アルマの作戦が勝機を生むと信じ、全力で時間を稼ぐ覚悟を決めたのだ。そして、アルマもまた、自らの計画に全身全霊を注ぎ込む決意を固めていた。
二人は心を一つにし、再び巨大な闇の脅威──デスサイズに対峙する準備を整えた。その姿には、絶望を打ち砕く強い意志と、闇を光へと変える覚悟が静かに宿っていた。