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(48)試練の始まり

次々と押し寄せるグールやスケルトンの不死の波。それでも、カーライルとロクスは一歩も退くことなく、それぞれ剣を振るい続けていた。腐敗した肉を裂く鋭い刃、砕けた骨が鈍い音を立てながら大地に散らばるたび、戦場には不気味な静寂と血なまぐさい臭いが漂った。


「…十年前の面影すらないとはな。」ロクスは、無言で敵を斬り伏せ続けるカーライルを一瞥し、皮肉交じりに低く呟いた。その声には哀惜の欠片すらなく、むしろかつての仲間が全く使えない存在に成り果てている現実への苛立ちが滲んでいた。十年ぶりに再会した男は、かつての輝きなど微塵も残していなかった。


「これが…かつて共に歩んだ男の末路か。笑わせる。」冷徹な眼差しをカーライルから外し、ロクスは感情の残滓を振り切るように前方へ歩を進めた。その背には、もはや頼る価値がないと断じた冷酷さと、すべてを己で成し遂げるという揺るぎない覚悟が宿っている。


「私が一気に片付ける。」


低く、静かな言葉が戦場に響く。それは戦況の緊張に鋭い刃を差し込むような冷たい響きだった。ロクスの剣が青白い輝きを帯び始め、冷気が刃を中心に収束していく。光は次第に強さを増し、彼の周囲に凍てついた風が渦巻いた。ロクスが剣を高々と掲げると、その冷気は暴風となり、戦場全体を呑み込む静寂を生み出した。大地が震え、冷気に侵されて揺らぎ始める。マナが戦場全体に浸透し、空気そのものが彼の意思に従うかのように凍りつく。そして、ロクスの声が鋭い刃となり、戦場を引き裂いた。


氷天衝フロストエッジ!」


その叫びとともに剣が地に突き立てられた。轟音とともに大地が裂け、鋭利な氷柱が天を突き破る。湧き上がる無数の氷の刃が、不死者たちを次々と無慈悲に貫き、粉砕していく。凍てつく嵐が戦場全体を支配し、冷気そのものが生き物のように敵を呑み込んでいく。圧倒的な光景の中、ロクスの前に立ちふさがっていた敵の大半は、瞬く間に氷の中で跡形もなく砕け散った。


しかし──その冷たい静寂を嘲笑うように、漆黒の影が戦場に浮かび上がる。その影は凍てついた大地に歪んだ闇の残像を映し出し、冷気さえも凌駕する深淵の力を漂わせていた。ロクスが放った氷柱がその足元を狙うが、デスサイズは青白い炎を纏い、冷気の刃を無情にも燃え上がらせる。


「蒼い…炎…!」ロクスの低い声が苦々しく響いた。凍りついていたはずの氷柱が次々と蒼い炎に呑まれ、音もなく溶け崩れていく。広がる蒼い炎は、まるで生き物のようにゆらめき、デスサイズの巨体が戦場を再び支配するかのように浮かび上がった。冷たい恐怖がロクスを襲う。


だが、その中でアルマは冷静さを失わなかった。彼女は溶けた氷の水たまりに反応する微かなマナの流れを敏感に感じ取り、その変化が瞬時に新たな戦略の閃きをもたらした。


「雷なら…!」


アルマは鋭く杖を掲げ、全身にマナを集めた。その瞳には光が宿り、戦場全体を見通すかのような鋭い視線を放つ。冷静な判断力と戦局を見極める洞察力が、彼女の動きを導いていた。


「みんな、水たまりから離れて!」


アルマの鋭い指示が戦場を駆け抜け、瞬時に味方たちに伝わった。次の瞬間、彼女の手中に雷光が収束し始める。まるで生き物のように蠢く雷は、爪を研ぐ猛獣のように力を増し、周囲の空気が張り詰めた緊張に包まれていった。戦場全体が彼女のマナに応え、自然そのものが彼女の意思に呼応しているかのような、荘厳な気配が漂う。


「駆け巡れ、天を裂く雷の獣よ!無数の鋭き爪で、大地を引き裂け!轟雷爪サンダークロー!」


その言葉と共に放たれた雷は、一瞬にして水たまりを媒介に戦場全体を駆け巡った。閃光の如く走る雷光が残っていたグールやスケルトンを次々に襲い、稲妻の猛威に包まれた不死者たちは、瞬く間に焼き尽くされていく。雷鳴が轟き、閃光が敵の群れを貫き、浄化されたように崩れ落ちる光景は、まるで大地が神聖なる力によって浄められていくかのようだった。


やがて戦場には静寂が訪れ、焼け焦げた残骸と、未だに燻る蒼い炎の巨影だけがその場に残った。アルマは深く息を吸い込み、疲労を抑え込むように静かに息を吐いた。


「これで…少しは楽になるわね。」


その言葉には安堵だけでなく、未だ続く試練への覚悟が込められていた。戦場には依然として暗黒の影が立ちはだかり、彼女たちを試すように揺らめき続けている。その静寂は、これからの激闘の序章に過ぎなかった。

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