魔王アルミエスは武装工房車に狙いを定める。
「『
その行く手を阻むように、アリシアとエルウッドが前に出る。
「ふたりともダメだ! 近づきすぎると【クラフト】にやられる!」
おれの忠告に、ふたりはアルミエスとの距離を開けざるを得ない。
代わりにノエルとラウラが魔法を使う。
進もうとするアルミエスの足に、土が張り付いていく。
「ほう、なかなか。魔法も使い手が増えたか」
余裕の笑みを浮かべるアルミエス。
「シオン! 俺の鎧を使え!」
バーンが叫ぶ前に、おれは走り出していた。
おれが武装工房車に乗り込むと、ソフィアもほぼ同時に乗り込んでいた。
「ショウさん、手伝います!」
「ありがとう、急ごう!」
おれたちは整備途中の
ノエルたちの足止めの魔法はすぐに破られる。アルミエスが前進するのを、すぐべつの魔法で足止めをする。ノエルとラウラの魔法のレパートリーも大したものだが、それらを数秒で解除してしまうアルミエスの実力も底知れない。
アルミエスが目前に迫ったとき、おれたちは
武装工房車を飛び出し、アルミエスの前に降り立つ。
ソフィアはすぐ武装工房車を後進させてくれる。
アルミエスは
「今の動き、身体強化魔法か? 強化幅は大きいようだが、それで私に対抗できると思っているなら、お前もつまらないやつだな」
おれは再び訴えかける。
「魔王アルミエス。おれたちは話がしたいだけなんだ」
「話す気はない。どうせ応じたとしても、話がこじれたら『
「それは本当に最後の手段だ。おれたちは、あなたのような素晴らしい技術者を失いたくない」
「お前ごときに私のなにがわかる。結局お前も、理解できもしない物をただ崇めて、利用することしか考えていないのだろう」
「そんなことはない」
「口でならなんとでも言える」
「だったら腕で認めさせてやる。この鎧で!」
「もういい。黙れ。紛い物に用はない」
アルミエスが手をかざす。【クラフト】の間合いだ。
人間を材料に、死体を作る。回避不能の即死攻撃。
「おれは、誰かの紛い物じゃない」
「——!?」
アルミエスは驚いて後方へ跳んだ。
「なぜ効かない?」
【クラフト】は確かに発動したが、おれは死体にはならない。なるわけがない。
「さて、なぜかな? あなたにも理解できないこともあるんだな」
「その鎧の効果か? いや、しかし、
「ではおれに効かないのを、どう説明する?」
動揺するアルミエスに急接近する。
「くぅ!?」
アルミエスは再度【クラフト】を使うが、やはり効果はない。
腰に装備した短剣を抜き、振りかぶる。
「『
アルミエスは咄嗟に両手で魔力を放った。頭部に直撃し、ヘルムが吹き飛ばされる。下手したら、首ごと飛ばされていたかもしれない威力だ。
だがおれは痛くも痒くもない。
「中身がない、だと!?」
その驚愕の声のとおり。おれは
その場にいないおれを、【クラフト】で殺すことなどできない。
通信魔導器を応用して作った魔導器で、おれの魔力を届けている。ついでに声も。
そしてヘルムがなくても、問題なく動く。
おれはそのまま
「うあ——!? 違う?」
短剣は魔王を封印しない。
だがその代わり、短剣に力が流れ込んでくる。【クラフト】が宿る。
「これは『
その通り。マルタの贈り物の中にあった物だ。
短剣を抜くと、おれはバーンのほうへそれを放る。バーンは上手にキャッチする。
「なぜ……? 『
おれは武装工房車から降りて、アルミエスに歩み寄っていく。
「さっきも言ったはずだ。おれたちは、あなたのような素晴らしい技術者を失いたくない。ただ、あの【クラフト】だけは、おれが親友に贈った大切なものだから返してもらった」
「…………」
アルミエスは力が抜けたように、その場でただ
「騙してしまったようで悪いが、これでおれたちを認めてくれただろうか?」
「そんなことより、これはなんだ!?」
両手でおれの両肩を掴み、力いっぱいに揺さぶってくる。
「身体強化魔法ではなかったのか? どうやって動かしていた? 答えろ! これはどういう技術だ!?」
どこかおれたちに似たその反応には、同類の匂いが感じられた。