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第156話 魔王が玉座で待っているだけだとでも思っていたのか?





「——特にこの追加装甲が凄いね。攻撃に反応して爆発することで、威力を相殺するなんて」


「はい。素晴らしい発想です。それに攻撃力も、恐ろしかったです……。バーンさんたちがいなかったら、どうなっていたことでしょう」


 おれとソフィアは、撃破した戦闘車両を検分していた。


 おれたちは、国境線付近で待ち伏せしていたグラモルの部隊と戦った。


 こちらの攻撃を無効化する追加装甲に、高い攻撃性能を備えた戦闘車両が三台も投入されていた。


 その戦闘車両には魔力を無効化する処理が施されており、モリアス車の弱点である魔力過多による故障を発生させられなくなっていた。


 武装工房車の装甲は世界最強と自負していたのだが、敵の砲撃はその装甲にダメージを与えるほどだった。


 エルウッドが小型モリアス車で囮になってくれたり、バーンが強化倍力鎧パワードアーマーで敵の砲塔を破壊してくれなかったら、武装工房車は完全に破壊されていた。


 辛くも三台の戦闘車両を撃破し、グラモルの部隊を撤退に追い込んだわけだが武装工房車の損傷も激しい。


 そして大破させた敵の戦闘車両の姿が、ひどく物悲しい。無力化するにしても、すぐ修理できる程度に留めたかったのだが……。


「やっぱり、こんなの嫌だな……」


「はい。とても痛ましく思います。こんなにも素晴らしい物を、壊さなければならないなんて……」


「使い方次第で、どれだけ人を豊かにできるかわからないのに……」


「だがお前たちも似たような物を作っている。しかも、なかなか性能がいい」


 知らない声に振り向くと中破した武装工房車の前に、目深にフードを被った黒いローブの人影があった。


 おれは咄嗟にソフィアを庇うように前に出る。アリシアもノエルを守るように盾を構え、いつでも抜剣できるよう柄に片手を添える。


 バーンたちも臨戦態勢に入る。今は強化倍力鎧パワードアーマーは装備していない。戦闘後、整備のために脱いで、武装工房車の中に置いてきてしまっている。


 黒ローブは意に介さない。


「相当、手間暇をかけたようだ。高性能なのも頷ける。その反面、生産性はないな。同じ労力で五台は戦闘車両が作れそうだ」


 こちらにやってきて、その場に座り込む。地面になにか図形を描いてから、荷物から鍋を取り出した。そこに水を注ぎ入れ、図形の上に置く。どうやら即席の魔力回路で湯を沸かしているらしい。


「茶を入れる。カップを人数分用意しろ」


「お茶?」


 こちらの困惑も気にせず、黒ローブは今度はトレイを取り出した。さらに、紙袋をいくつか。トレイの上に乗せる。


 それから手をかざす。紙袋の中身が減り、トレイの上にビスケットが並べられた。


「今のは……【クラフト】?」


「じゃあ、この人が……」


「魔王さん……?」


「どうしてこんなところに?」


 黒ローブの人物がフードを脱ぐ。長い赤髪と尖った耳が露わになる。美しく整った顔立ちは、ショウ・シュフィールの手記にあったスケッチと同一だった。


 魔王アルミエス。


「お前たちは、魔王が玉座で待っているだけだとでも思っていたのか?」


 おれたちは驚きのあまり身動きできない。


「茶と菓子を用意しろと言ったのはお前だろう?」


 紅い瞳に見据えられ、おれはやっと声を出す。


「……確かに言ったけれど、おれは待っていて欲しいとも言った」


「退屈は嫌いでね。これ以上待つのは嫌だったんだ。ショウ・シュフィール」


 アルミエスの表情は、どこかほころんだようだった。


「だってお前は私を見つけてくれた。また会いに来てくれるというのに、じっと待ってなんていられない」


「おれは、あなたと会うのも初めてだ、魔王アルミエス」


「わかっている。私のショウ・シュフィールは、私が死なせてしまった。けれどお前は約束通り、生まれ変わって来てくれた」


 アルミエスは立ち上がり、触れそうなほどに顔を近づけてくる。


「この私を目の前にしているんだ。思い出せるはずだ。さあ、あのときの言葉を、もう一度言ってくれ」


 おれは数歩後ずさって、首を横に振る。


「申し訳ないが、思い出せることはない。おれは、前世の話をしにきたわけじゃない」


 アルミエスは息をつまらせた。ひどく落胆して。


 その表情に少し胸が痛くなる。


「違うのか……? お前は似てるだけで、生まれ変わりじゃないのか……?」


「生まれ変わりだと言われたことはある。けれど、本当のことなんてわからない」


「あの車両はお前が作ったのだろう。私の技術の原理を見抜いた、あの観察眼を前世から引き継いだからこそできたはずだ」


「あれはあなたの真似をして作ったわけじゃない。ライバルや、友達や、愛する人たちがいたからこそ作れた物だ」


「愛する人……?」


 おれはソフィアやノエル、アリシアに目を向ける。


「おれの妻たちだ」


「そうか……。私では、ないのだな。やはり違う。期待外れだ」


 アルミエスは背中を向け、立ち去ろうとする。


「待ってくれ! 話をしてくれないか」


「話すことなどない」


「あなたのやり方では、望んでるものは手に入らない!」


 アルミエスは立ち止まる。


「こんな兵器ばかりを作っていたって、あなたが満足するような認め方はされない!」


「ではお前が私が満足する方法を教えてくれるのか?」


「そのつもりだ」


 足元の鍋で湯が沸騰する。


「調子に乗るな、紛い物が!」


 瞬間、おれは激しい衝撃に見舞われて吹き飛ばされた。


「ショウさん!?」


「シオン! この!」


「待てみんな!」


 みんなが今にも飛びかかりそうになるのを、必死に声を上げて止める。


 魔力をぶつけられた腹部を押さえつつ、やっとのことで立ち上がる。


「おれたちは話をしにきたんだ。まだ武器の出番じゃない……」


 アルミエスはゆっくりと振り返る。魔王らしい威圧感で。


「そういえば、お前たち『魔封の短剣マジックシール』を作ったのだろうな。処分しておかなければな」

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