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第154話 助太刀する!





「魔物!? いや、合成生物キメラか!」


 里に現れた敵は、合成生物キメラの群れだった。


 体はウルフ系の魔物で、尻尾は蛇。動きが素早く、鋭い爪や牙は脅威だが、それに気を取られていると尻尾の蛇に噛まれて猛毒に冒される。


 しかもやたらと耐久力が高い。エルフたちが放った矢が何本も刺さっても、さして意に介さず突っ込んでくるのだ。


 頭部などの急所を貫くか、魔法で焼き尽くさない限り動くのをやめない。だが、そのような致命的な一撃を簡単に当てられる動きではない。


 エルフたちは次々に倒れていく。怪我人や毒を受けた者は避難させ、治療魔法を使える者に治療させているが、これ以上被害が出たら追いつかない。


「くっ、合成生物キメラって、こんなに強いものなのか!?」


 ただでさえおれは対魔物戦は、対人戦ほど得意ではないのだ。


 苦戦しつつも何匹かは撃破しているが、数が減った気がしない。


「ショウ、どうやらロイドとの約束は果たせそうにない!」


 戦いながらアリシアが声を上げる。


「なんだって!?」


「こいつらは普通の魔物と違って心がない! 怯えも怒りもない! ただ命令に従うだけの操り人形のようだ! 私には従えられない!」


「命令に従うだけ? そういう風に作られたのか」


「あっ、それなら!」


 ノエルはなにか思い付いたようだ。マルタの部屋へ走っていき、やがて本を一冊持ってくる。


 合成生物キメラたちは一斉に、その本に目を向ける。すぐさま駆けてくる。


「そぉれ、取ってこぉ〜い!」


 ノエルは本をぶん投げた。合成生物キメラたちはそれを追いかける。本が地面に落ちたところに群がり、爪を立て、噛みつき、分解していく。


 その隙にノエルは特大の火炎魔法を発動させ、群がっていた合成生物キメラを一挙に焼き尽くした。


「やっぱり本が狙いだけど、区別はつかないみたいね。あれ、白紙の本なのに」


 今のでかなりの数は倒せたが、まだ半数以上は残っている。


「それ、もう一丁行くよ〜!」


 ノエルは再び本を取ってきて投げつける。が、今度は無視される。合成生物キメラは唸りながらノエルに突進していく。


「えっ、え!? もう学習したの!?」


 魔法で障壁を張ってノエルは逃れるが、それだけでは囲まれてしまう。おれとアリシアは間に入って、ノエルを守る。


 その際におれは一匹、アリシアは三匹仕留めた。


「あと十匹くらいかな。アリシア、いける?」


「ああ、もうひと踏ん張りだ」


 そう話していると、森の奥からさらに十匹以上の合成生物キメラが現れる。


「うわ、まだ控えてたのか……」


「さすがにまずいぞ。毒さえ無ければ、もっと大胆に戦えるのだが……」


 確かに、きつい。呼吸は乱れてきているし、味方の数も減っている。


 合成生物キメラはじりじりと、おれたちを取り囲むように接近してくる。


 どうする? この状況を、どう打開する?


 思考を巡らし、一か八かの作戦を立てる。それをノエルとアリシアに伝えようと口を開きかけたとき。


「……なんだ? ショウ、この音は!」


 アリシアの言うとおり、なにか音が聞こえてくる。森の中で聞こえるはずのない、機械的な音だ。段々と近づいてくる。正体がはっきりする。


「モリアス車の走行音だ!」


 わかったときには、小型のモリアス車が合成生物キメラたちに側面から突っ込んでいた。ほとんどは回避するが、何匹かははね飛ばされる。


 小型モリアス車は、減速しつつ車輪を滑らせ、こちらへ方向を転換する。


 その操縦者を、おれたちはよく知っている。


「フライヤーズ義肢工房、助太刀する!」


「エルウッド!?」


「オレだけじゃないぜ!」


 モリアス車の荷台から女魔法使いが飛び降りる。そしてもうひとり、全身鎧の男も。


「手伝いに来たわよ、みんな!」


「シオン、ここは俺に任せろ!」


「ラウラに、その声はバーン!?」


 全身鎧を着込んだバーンは、大剣を鞘から抜いて構える。


「バーン、気をつけてくれ。そいつらは合成生物キメラだ! 尻尾が毒蛇になってて危ない! しかもやたらと素早くて頑丈だ! 簡単には仕留められない!」


「問題ない! この鎧があれば!」


 バーンは驚異的な速度で踏み込み、合成生物キメラを一度に二匹も両断した。


 ほんの一瞬。瞬きする間の出来事だった。


 その速さと威力に、おれは確信する。


「そうか、完成させたのか。あのアイディアを……!」


 バーンが着ている鎧は、モリアス鋼繊維を用いた義肢技術の応用だ。


 レジーナが初めて義足を付けたとき、その義足での跳躍が異様な飛距離を見せていたことから着想を得た。


 モリアス鋼繊維でなら、人の力を遥かに超えた動きができる。ならばそれを鎧のように着込めば、人の動きを外部から強化させることもできるはずだ。


 もともとは半身不随の患者や、体力の衰えた高齢者を補助する目的で開発が進められていた物だが、それを戦闘用に作り直してきたのだろう。


 バーンは圧倒的な戦闘力で、あっという間に合成生物キメラを全滅させた。


 大きく息をついて、バーンはヘルムを脱いだ。汗がびっしょりだ。体にかなりの負担がかかるのだろう。


「ありがとう助かったよ、バーン。それに、完成おめでとう」


「ああ、ありがとよ。戦いには使いたくなかったが……お前を助けられて良かったぜ、シオン」


「でも、どうしてここに?」


 その問いにはエルウッドが答えてくれる。


「ケン師匠から通信連絡があってな。お前たちがシマリリスへ向かったっていうから追ってきたんだ」


 ラウラが補足する。


「それで森に入って探査魔法を使ってみたら、あなたたちが戦闘中なのがわかったから急いで来たのよ」


 バーンはおれを真っ直ぐに見据える。


「シオン、魔王退治に行くんだろう? 俺たちも協力するぜ。お前の【クラフト】を、これ以上悪用させるわけにはいかねえ」

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