「あっれー? おっかしいなぁ〜?」
ノエルの案内でエルフの里シマリリスへやってきたのだが、そこはもぬけの殻だった。
家屋は残っているが、食料や生活用品はない。埃の溜まり方から、最近までは生活していたであろうことは窺える。
無人の里を調べていると、アリシアがそっと近づいてきてささやく。
「……ショウ、気配だ」
「わかってる。八人はいるね?」
おれとアリシアは、ソフィアとノエルの手を引いて物陰に隠れる。
アリシアは剣を抜き、おれは槍を構える。
鋭い風切り音。おれの足元に勢いよく矢が突き刺さる。威嚇のようだ。
「あれ、この矢……ちょっと待って! ちょ〜っと待ってぇええ!」
「ノエル、前に出たら危ない!」
出ていこうとするノエルを押し止めるが、ノエルは自分の姿をアピールするように手をぶんぶんと大きく振る。
「アタシ! アタシだよ、ノエルだよぉ〜!」
「ノエル!? ノエルか!」
するとエルフの男性が、姿を現す。
「エグルおじさん! 久しぶり〜!」
「元気そうじゃないか。てっきり魔王の手先かと思ったぞ」
友好的な様子に、おれもアリシアも武器を下ろす。
続々とエルフの射手が姿を現す。弓につがえていた矢を矢筒に戻していく。
「ねえおじさん、里はどうしちゃったの?」
「ああ、魔王の手先がやって来たんでな。追い返してやったが、念のため場所を変えたんだ」
「ええ!? みんなは無事なの?」
「ああ、誰ひとり怪我しちゃいない。それよりノエル、どうしたんだ。こんなときに帰ってくるなんて」
「うん、アタシたちも魔王絡みで用事。お
「家族だって?」
エグルと呼ばれたエルフは、ソフィアやアリシアを経由して、おれに視線を向けた。
「まさかノエル、お前……」
「うん。アタシの旦那様♪」
「ほほう?」
おれは前に進み出て、エグルたちにお辞儀をする。
「ショウ・シュフィールと申します。ノエルを娶らせていただきました」
「人間じゃないか。ノエル、こんなのダメだ。血筋を残せない相手と結婚なんて」
「心配ご無用〜♪ アタシ、ショウとの子供産みました〜♪」
Vサインを向けられて、エグルは目を丸くした。おれのほうにも顔を向ける。
「本当ですよ。リムルという名前の女の子です。今回は危険なので連れてきていませんが、次の機会にはお目にかけます」
「そういうことなら歓迎だ! ノエルの家族なら我々の家族だからな! 新しい里へ案内しよう! そこのお嬢さん方は、ノエルのお友達かい?」
そっとソフィアが進み出る。
「いえ、姉妹のようなものです。わたしたちも、ショウさんの妻なので」
「はぁ?」
エグルは再びおれを見た。というか睨んできた。
「どういうことかな、ショウくん?」
「えーっと、風習の違いです。説明に時間をいただいても?」
「いいだろう。どうせ新しい里に行くまで時間がかかる」
◇
エグルになんとか納得してもらえる頃に、新しい里へ到着した。
里といっても、森を切り開いた空間に、急ごしらえの家屋がいくつか建てられているだけだ。持ち込んだ道具は外に置きっぱなしになっているし、調理場も外に作られている。
エルフもダークエルフも分け隔てなく暮らしている様子だ。
おれたちはノエルの両親とも挨拶したのちに、里の最長老でもあるノエルの祖母マルタと話すこととなる。
最長老といっても、さすがは長命のエルフ。年齢は三百歳に近いそうだが、見た目は人間の四十代後半といったところだ。
「お
「あらあらノエルちゃん、久しぶり。すっかり大きくなったわねぇ〜」
「もー、里を出る前からあんまり変わってないってー」
「見た目はそうね。魔力が大きくなったわ。生命力も。子供を産んだのでしょう?」
「おー、さすがお
「ええ、これくらいの歳になると、色々と見えるものが変わってくるわ」
それからマルタは、おれを見て穏やかに微笑んだ。
「あなたもお久しぶりね、ショウ・シュフィールさん」
おれは面食らってしまう。
「いえ、おれは初対面のはずですが……」
「あら、そうだったかしら? あなた、お名前は?」
「ショウ・シュフィールです」
「あらあら、それならやっぱりお久しぶりじゃない」
「いや、えっと、おれの名前は貰いもので。生まれたときの名前はシオンです。あなたの言うショウ・シュフィールは、二百年以上も前の人ではないでしょうか?」
マルタはゆっくりと首を傾げる。
「それもそうね。あのショウさんは、もう亡くなったのだったわ……。でもよく似てる」
マルタは身を乗り出して、まじまじとおれの顔を覗き込む。
「あなた、
「はい。今はもう失くしてしまいましたが【クラフト】を持っていました。材料さえあれば何でも作れる
「やっぱり同じね。彼には
そこまで聞いて、ふと思い出す。
「あなたは、