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第152話 生まれ変わりなのかもしれないわね





「あっれー? おっかしいなぁ〜?」


 ノエルの案内でエルフの里シマリリスへやってきたのだが、そこはもぬけの殻だった。


 家屋は残っているが、食料や生活用品はない。埃の溜まり方から、最近までは生活していたであろうことは窺える。


 無人の里を調べていると、アリシアがそっと近づいてきてささやく。


「……ショウ、気配だ」


「わかってる。八人はいるね?」


 おれとアリシアは、ソフィアとノエルの手を引いて物陰に隠れる。


 アリシアは剣を抜き、おれは槍を構える。


 鋭い風切り音。おれの足元に勢いよく矢が突き刺さる。威嚇のようだ。


「あれ、この矢……ちょっと待って! ちょ〜っと待ってぇええ!」


「ノエル、前に出たら危ない!」


 出ていこうとするノエルを押し止めるが、ノエルは自分の姿をアピールするように手をぶんぶんと大きく振る。


「アタシ! アタシだよ、ノエルだよぉ〜!」


「ノエル!? ノエルか!」


 するとエルフの男性が、姿を現す。


「エグルおじさん! 久しぶり〜!」


「元気そうじゃないか。てっきり魔王の手先かと思ったぞ」


 友好的な様子に、おれもアリシアも武器を下ろす。


 続々とエルフの射手が姿を現す。弓につがえていた矢を矢筒に戻していく。


「ねえおじさん、里はどうしちゃったの?」


「ああ、魔王の手先がやって来たんでな。追い返してやったが、念のため場所を変えたんだ」


「ええ!? みんなは無事なの?」


「ああ、誰ひとり怪我しちゃいない。それよりノエル、どうしたんだ。こんなときに帰ってくるなんて」


「うん、アタシたちも魔王絡みで用事。お祖母ばあちゃんに聞きたいことがあるの。それと……えへへっ、新しい家族も紹介したくって」


「家族だって?」


 エグルと呼ばれたエルフは、ソフィアやアリシアを経由して、おれに視線を向けた。


「まさかノエル、お前……」


「うん。アタシの旦那様♪」


「ほほう?」


 おれは前に進み出て、エグルたちにお辞儀をする。


「ショウ・シュフィールと申します。ノエルを娶らせていただきました」


「人間じゃないか。ノエル、こんなのダメだ。血筋を残せない相手と結婚なんて」


「心配ご無用〜♪ アタシ、ショウとの子供産みました〜♪」


 Vサインを向けられて、エグルは目を丸くした。おれのほうにも顔を向ける。


「本当ですよ。リムルという名前の女の子です。今回は危険なので連れてきていませんが、次の機会にはお目にかけます」


「そういうことなら歓迎だ! ノエルの家族なら我々の家族だからな! 新しい里へ案内しよう! そこのお嬢さん方は、ノエルのお友達かい?」


 そっとソフィアが進み出る。


「いえ、姉妹のようなものです。わたしたちも、ショウさんの妻なので」


「はぁ?」


 エグルは再びおれを見た。というか睨んできた。


「どういうことかな、ショウくん?」


「えーっと、風習の違いです。説明に時間をいただいても?」


「いいだろう。どうせ新しい里に行くまで時間がかかる」



   ◇



 エグルになんとか納得してもらえる頃に、新しい里へ到着した。


 里といっても、森を切り開いた空間に、急ごしらえの家屋がいくつか建てられているだけだ。持ち込んだ道具は外に置きっぱなしになっているし、調理場も外に作られている。


 エルフもダークエルフも分け隔てなく暮らしている様子だ。


 おれたちはノエルの両親とも挨拶したのちに、里の最長老でもあるノエルの祖母マルタと話すこととなる。


 最長老といっても、さすがは長命のエルフ。年齢は三百歳に近いそうだが、見た目は人間の四十代後半といったところだ。


「お祖母ばあちゃん、久しぶり〜!」


「あらあらノエルちゃん、久しぶり。すっかり大きくなったわねぇ〜」


「もー、里を出る前からあんまり変わってないってー」


「見た目はそうね。魔力が大きくなったわ。生命力も。子供を産んだのでしょう?」


「おー、さすがお祖母ばあちゃん、そんなことまでわかっちゃうんだ」


「ええ、これくらいの歳になると、色々と見えるものが変わってくるわ」


 それからマルタは、おれを見て穏やかに微笑んだ。


「あなたもお久しぶりね、ショウ・シュフィールさん」


 おれは面食らってしまう。


「いえ、おれは初対面のはずですが……」


「あら、そうだったかしら? あなた、お名前は?」


「ショウ・シュフィールです」


「あらあら、それならやっぱりお久しぶりじゃない」


「いや、えっと、おれの名前は貰いもので。生まれたときの名前はシオンです。あなたの言うショウ・シュフィールは、二百年以上も前の人ではないでしょうか?」


 マルタはゆっくりと首を傾げる。


「それもそうね。あのショウさんは、もう亡くなったのだったわ……。でもよく似てる」


 マルタは身を乗り出して、まじまじとおれの顔を覗き込む。


「あなた、先天的超常技能プリビアス・スキルを持っていたりしない?」


「はい。今はもう失くしてしまいましたが【クラフト】を持っていました。材料さえあれば何でも作れる技能スキルです」


「やっぱり同じね。彼には技能スキルはなかったけれど、当時は何でも作れる職人なんて呼ばれていたのよ」


 そこまで聞いて、ふと思い出す。


 先天的超常技能プリビアス・スキルは、その人が前世で培った技術が、転生したときに昇華された能力であるという説があったことを。


「あなたは、の生まれ変わりなのかもしれないわね」

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