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第145話 魔王は、おれが倒す





「しかし、世間ではシュフィール家が関わっているとの噂もあるのです! やつらの武装は、あなた方が作り出した技術にあまりにも似ている。そして進歩している。あんなこと、他の者にできるわけがない」


 メイクリエ宮廷にて。魔王への対策会議が開かれた際、おれは詰問された。


 疑いたくなる気持ちはわかる。


 バーンが【クラフト】を奪われてから数週間。各地で出現する合成生物キメラと、それを使役する軍隊は、現れるたびに強力になっていった。


 それらの武装には、射出成形インジェクション技術が使われている節がある。魔力回路を有した武器が大量に生産されている。モリアス鋼を用いた駆動兵器などという物もあるという。


 おれたちと近い技術を使っているなら、おれたちが関与していると思ってしまうだろう。


 だが、もちろんおれたちじゃない。


 セレスタン王は、詰問者を睥睨へいげいする。


「シュフィール家は今や我が家族である。王家を疑うというのなら、それなりの証拠があると思うが、いかがか?」


「やつらの技術力そのものが証拠ではありませんか」


「ショウたちの技術は、広く普及しつつある。才能ある者が学べば、応用させることもできよう」


「そうだとするならば、新技術というものの危険性が示されましたな! 進みすぎた技術は、幸福だけでなく災いも運んでくるのです!」


「そうです。やはり人々は祈りによってのみ救われる。旧来のスートリアの教えが正しかったのです。新技術により世界に危険をもたらした責任は重いですぞ」


 年配の貴族や、老いた聖職者もこれ幸いにと批判を口にする。


 どちらも以前からの新技術反対派だ。ヒルストンの一派とは違い、利権ではなく思想で反対している。


 いつもなら気にしないところなのだが、責任と言われては少々堪える。


 考えなかったことではない。


 おれたちの作り出した技術が、人を傷つけるために使われることを……。


 少なくともおれたちは、新技術で防具は作っても武器は作らなかった。人を傷つけさせたくなかったからだ。


 だが技術が広く普及すれば、いずれは誰かがやる。


 国際法で新技術の悪用を規制して、ボロミアたちがどれだけ違反者を取り締まったとしても、抜け道はどこかにある。


 そして法に縛られない力さえ手に入れられる。


 これは物を作る上で、避けることができない責任かもしれない。


「いいえ、ショウ兄様たちに責任はありませんわ」


 擁護する声を上げてくれたのはサフラン王女だった。


「剣は、ひとりでに動いて人を傷つけはしません。誰かを傷つけたとしたら、それは使い手の責任です。新技術を作ったからといって、その責任まで負わせるのは間違っていますわ」


「うむ。そもそもショウたちの技術を応用したものだという前提も怪しいものだ。やつらは合成生物キメラも使う。未だ人間に再現できぬ魔法道具マジックアイテムも豊富に持っている。元より、高い技術力を持っていたとも考えられる」


 セレスタン王の強い語調に、詰問者たちは静かになる。


「ショウよ、お前はこの魔王とやら、どう思う?」


 おれは顔を上げ、セレスタン王を見つめる。それから周囲の会議参加者全員を見渡す。


「……正直に申し上げたほうがいいのでしょうね?」


「うむ。申してみよ」


「不謹慎かもしれませんが、非常に興味深く、心惹かれています」


「ほう、どのように?」


「おれたちに近い技術があるけれど、思いもしなかった使い方をしている。そもそもの技術力も、それだけを見れば、素晴らしいの一言です。話を聞けば聞くほど、胸が高鳴っていくのを感じます」


 先ほどの新技術反対派が顔を真っ赤にして叫ぶ。


「なんてことを! その技術でどれだけの人が苦しめられているかわかっているのか!」


「わかっていますよ。先ほどのお言葉をお借りしますが、進んだ技術は災いだけでなく、幸せだって運んでくる!」


 セレスタン王は、わずかに口角を上げた。


「お前らしい考えだ。ショウよ、ならばどうする?」


「あんなに凄い技術者なら、是非とも会ってみたい。せっかくの技術を、なぜ争いに使うのか問いたい。より良いことに使えると教えてやりたい。そして、物作りについて、語り合いたい」


「それが叶わぬときは?」


「おれが倒します」


 会議場はどよめいた。


「バカなことを……」


「相手は魔王だぞ」


「できるわけがない——!」


 おれは「できるわけがない」と言った者を睨みつける。


 非難はしない。今回ばかりは、神様だってそう思っているだろうから。


 聖女セシリーが聞いたという神のお告げには「魔王の野望を絶つのは、シュフィールの血を引く男子」とあった。


 おれではない。おれはシュフィール家の家名をもらっただけで、血を引いてはいない。


 きっと、おれとソフィアの子——ハルトが、いつの日か魔王を倒すと予言しているのだ。


 だが神の予言など、知ったことではない。


 ハルトが産まれたとき、おれは誓ったのだ。もっと幸せを作ると。いい物作りをして、今よりいい世界を手渡すのだと。


 それは魔王が存在し、息子が戦いに赴くような世界ではない。


 おれはもう一度、声を上げる。


「——魔王は、おれが倒す」


 おれの本気の言葉に、文句を言う者は誰もいなかった。

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