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第127話 早く戦争なんか止めちまえ





 おれたちを迎えに来たのは、勇者リックだった。


「教皇の説得には時間がかかりましたが、あなた方のご活躍のお陰で、ようやく教皇も話をする気になれたようです」


 物作りによる各地の発展は、いよいよ否定派の考えを動かすところにまで来ているらしい。


 前線においても、その噂を聞きつけた勇者や兵士たちは、もはや戦う意義なしと士気が低下しているそうだ。投降した部隊も少なくないという。


 まともな為政者なら、戦争継続は無理だと判断するところまできているようだ。


 あくまで、なら。


「この期に及んで、まだ話をする余地があるのかな? すぐ終戦させてもいい状況だと思うけど」


「その終戦のさせ方について、あなた方と——特に聖女様やメイクリエのサフラン王女様と相談したいのでしょう」


「この国の将来のためになるならそれもいいと思うが、リックさんはどう思うんです?」


「私は……正直に言えば、教皇がこの国のために動いているのか、自分の考えを守るために動いているのか、もう判断がつきません……」


 リックは村の教会を見上げる。


「民のため、国の存続のため、厳しく意思統一することには私も賛成していました。実現できないことは諦め、民に清貧を強いて維持する。それに限界が来たから戦争も許容する……と。しかしその裏では、カーラ司祭のように支配に快楽を覚える者たちが生まれました」


 強く拳を握りしめる。


「人々を救う物を作ることさえ弾圧する。信念あってのおこないではない。意味のない、支配のための支配を続ける者たちです。意思統一するはずが、一部の者だけが太るような土壌を作り、今なお考えを改めない教皇を、私はもう信用できない」


「だからこそ、話をつけないといけない……か」


「そう思います。真意を問いただし、必要とあらば……」


「わかった。その準備はおれも進めておいた。おれは付き合うよ」


「私も教皇とはお話をしなければならないと思っていました。一緒に行きます」


「もちろん、わたくしも」


 おれが頷くと、聖女セシリーやサフラン王女も同意する。


 他のみんなも教皇との会談には賛成のようだ。


「良かった。あなた方がいてくださるなら、これ以上心強いことはない」



   ◇



「それで明日の早朝にも出発ってか。ずいぶんと急だな、おい」


「この戦争を一刻も早く終わらせるためですよ」


 出発が決まって、おれとソフィアはケンドレッドに挨拶に来ていた。


「しかし中途半端だな。例の義肢、次は試作品の設計をしようってとこだったのによ」


「はい。わたしも是非やりたかったのですが……今回は、ケンドレッドさんにお譲りしたいと思うのです」


 ソフィアが少々残念そうに言うと、ケンドレッドは肩をすくめる。


「俺にやれってか。ま、形までならいいがよ、装着者の意志で動かせるような魔力回路も入れるんだろう? そいつは俺にゃ無理だぜ」


「そこはアテがある。ノエルほどじゃないけど、腕のいい魔法使いがいる。あなたも知ってる女性だ」


 ケンドレッドはそれで察したようだ。


「ほう……。お前、俺にエルウッドたちのいる診療所へ行けってんだな?」


「ええ。この村での仕事は一段落したと聞いています。商隊にはもう話をつけてある。ここからはおれが雇って、あなたを派遣するということになるけれど……」


「へへっ、俺は高いぜ?」


「お金なら言い値で払いますよ」


「冗談だ。金なんざ最低限ありゃいい。こんな面白そうな仕事、やらねえわけねえだろ」


「ありがとう、ケンドレッドさん。診療所には近いうちに援助物資をまた送ることになってる。その輸送団と合流してください」


「わかった。モリアス鋼繊維は全部持って行っていいんだな?」


「ええ、元はあなたが手に入れた物ですし。あと、もうひとつ頼んでもいいですか?」


「なんだ?」


「診療所にはエルウッドとラウラの他に、バーンという義肢職人がいるんです」


「ほう。どんなやつだ?」


「おれの親友のひとりで、今回の義肢の原案を考えたんですよ」


「お前のダチなら、よほどいい腕なんだろうな」


「いや、腕前はまだ未熟みたいだ。作り方さえ知ってればなんでも作れる先天的超常技能プリビアス・スキルの【クラフト】を持っているけれど、完全には活かしきれてない」


「そいつを鍛えてやれってか?」


「是非、お願いしたい」


「まったく。面倒くせえが……いいぜ。どうせまたエルウッドをしごいてやるんだ。ついでにやってやるよ」


「よろしく頼みます」


「ああ。そっちこそ早く戦争なんか止めちまえ。物作るのに邪魔だからよ。期待してるぜ」


「ケンドレッドさんも、よろしくお願いします。良い物作りを期待しています」


 ソフィアに言われて、ケンドレッドは照れくさそうに笑む。


「奇妙なもんだな、ソフィア。お前に、よろしくお願いされちまうとはな」


「そうかもしれません。ですが不思議でもないのかもしれません」


「そうか?」


「はい。きっと、作った物が互いの気持ちを語っていましたから。わたしたちはもう充分に語り合って、分かり合えたのだと思います」


「ふふふっ、そうだな。違えねえ」


「じゃあ、おれたちはこれで。話が上手くまとまったら、おれたちも診療所へ向かう。そのときにまた会いましょう」


「おう。楽しみにしてるぜ!」


 こうしておれたちの休暇は終わり、再びメルサイン大神殿へ向かうのだった。

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