「久しぶりだな、ショウ。それにソフィア・シュフィール」
おれたちに声をかけてきたのは、メイクリエ王国からの追放をみずから望んだ、あのケンドレッドだった。
「あの商隊、ずいぶんな凄腕を連れてきたと思ってたけど、あなただったのなら納得だ」
「へへへっ、戦争中の国に派遣するっつーから怪しい連中かと思ったが、話を聞いてみるとどうも面白そうだからよ。ひと口乗ってやったのさ」
ケンドレッドは工場へ目をやる。
「新素材を使ってなにか作ってる以上、お前らだと思ってたぜ」
口には出さないが、再会を喜んでいるようだ。
ソフィアも微笑む。以前のように嫌悪を向けることはない。
「その後、ケンドレッドさんはいかがでしたか?」
ケンドレッドは不敵に笑う。
「とびきりの成果があるぜ。いい出会いもあった」
「エルウッドさん、ですね?」
「おう。そこの工場にあった装置は、あいつに作らせたんだろう? 悪くはないが、もうちょいと良く出来た気がするな。実際、あいつはどうだった?」
おれは製作当時を思い出しながら話す。
「確かに精度という意味では、それほどでもないけれど……。こうあるべき、っていう方向を示せば、そこにたどり着くまで根気強く何度でも挑戦してくれる。とにかく、完成まで辛抱強く付き合ってくれる職人って感じかな」
「同感だな。あいつは図面通りに作らせるより、客の要望を聞きながら調整を重ねていくってのが向いてる。時間はかかるが、満足度は高くなる。本当なら、オーダーメイドの武具でも作らせてやるのがいい修行になるんだろうが……」
「それなら、まさにぴったりのところへ行ってますよ」
「ほう。どんなとこだ?」
「とある診療所で、義肢作りの手伝いをしてる」
「そうか。ここにいねえのは残念だが、なるほどな。患者に合わせるってんなら、あいつの得意分野だろうぜ。あの、ラウラとかいう姉ちゃんも一緒か?」
「ああ、もうそろそろ告白して、付き合いだしててもいい頃じゃないかな」
「へっ、浮ついて仕事に支障がでなきゃいいがな」
とか言いつつ、弟子の幸福に喜んでいる様子だ。
「大丈夫です。浮ついていても、しっかり成果を出せます。わたしたちが証拠です」
「その成果に負けた身としちゃあ、なにも言えねえな」
ソフィアの言に、ケンドレッドは楽しげに笑う。
「それで? とびきりの成果というのは?」
「そりゃあもう面白い素材を手に入れたからよ。有効な活用法を編み出してやったのさ!」
おれとソフィアは、ぐいっとケンドレッドのほうへ一歩迫った。
「面白い素材って? どこの、どんな素材なんです?」
「どのような活用法なのですか? どんな物が作れそうなのです? 詳しくお話を聞かせてください」
「おうおう、いい食いつきじゃねえか。見つけてきた甲斐があるぜ」
にやりとケンドレッドは口角を上げる。
「だが口より腕で語るのが職人ってもんだぜ。まずは完成品を見せてから、話をしようじゃねえか」
「是非そうしよう!」
「完成品はどこですか? 工場ですか?」
「ふふふっ、鋭意製作中だ」
おれとソフィアは一斉にずっこけた。
「期待させておいてそれはないんじゃないか、ケンドレッドさん!」
「うるせえな、お前らが来るのが早すぎたんだよ!」
「それなら、わたしたちにも手伝わせてください。一緒に完成させましょう」
「いいや、ダメだ。断るぜ」
「そんな。どうしてですか」
「こっちはな、お前らを驚かせてやろうって楽しみにしてたんだよ。手なんか借りたら台無しじゃねえか。絶対びっくりさせてやるから、黙って待ってやがれ」
「くっ。生殺しじゃないか……」
「ですが、職人としてサプライズしたい気持ちもわかります……」
ケンドレッドは肩をすくめる。
「まあ、そういうわけだからよ。お前らも長旅で疲れてるだろう。休暇でも取ってゆっくり羽根を伸ばすこった。装置はそのうち完成するからよ」
おれとソフィアは、ため息をついて頷く。
「仕方ありません。その分、期待のハードルは上がってしまいますからね?」
「おうよ。上げとけ上げとけ。ハードルなんざ余裕で越えてやるよ」
「楽しみにしてますよ、ケンドレッドさん」
そうして軽い挨拶をしてから、おれとソフィアはその場を去った。
振り返ってみるとケンドレッドは、上機嫌に工場へ入っていくところだった。
おれはソフィアと視線を交わす。
「……よし」
「はい」
おれたちはそのまま帰らず、工場へ戻って窓のひとつから、ケンドレッドの作業風景を窺おうとする。
が、その窓はすぐ開け放たれた。
「帰れっつーんだよ!」
「うわぁ、バレた! なんで!?」
「俺も職人だから、覗きたくなる気持ちがわかるんだよ!」
結局、おれたちは休暇を取りつつ完成を待つことにしたのだった。