バーンたちと別れてから、おれたちは物作りの旅を続けていた。
立ち寄った町や村で、その土地に適した物作りを提案、実行する日々だ。
聖女セシリーの存在や、サフラン王女による教義の解釈は、リリベル村でのような対立を生まず、実にスムーズに進んだ。
ある村では、比較的食料が豊富なので、味付けや調理法を改良した名物料理の開発を。
べつの町では、もともと染料を作っていたのでその生産力の強化を。
特に染料と新素材は、新素材生地を作るリリベル村との交易品となり、ひとつの経済圏へと発展していく。
そして、ついにリリベル村に戻ってきた。
以前よりずいぶんと人が増えて賑わっている。建物も増え、無かったはずの宿屋や商店が開業している。
工場のほうでも機械が増えており、生地の生産量は順調に増えているようだ。
どうやら例の商隊は、約束通りに人材を連れてきてくれていたらしい。それも、かなり凄腕の職人だ。ちらりと見た限りだが、エルウッドが作った少々歪な装置を改造して、性能を向上させている。
村の変化に目を向けながら教会への道を歩いていると、魔物の世話をしていたダリアがおれたちに気づく。
「シオン! 戻ったな、この野郎!」
「やあ、ダリア。前より顔色が良くなったね?」
「はははっ、お前らのお陰だ! 村が潤って、みんな腹いっぱい飯が食えてる。しかも美味い飯だ。太ったのはあたしだけじゃないぞ」
「それは本当になによりだよ」
「最近じゃ、よその町や村との交易も始まってる。って、どうせお前らの差金だろうがな! 本当にこの国を救ってしまいそうなんだから、大したやつらだよお前らは」
そこでダリアは気づく。
「ん? お前たち、メンツが変わっていないか?」
ソフィアが一歩前に出る。
「初めまして。ショウさん——もといシオンさんの妻の、ソフィア・シュフィールです。夫がお世話になりました」
「どうもノエルです。ショウの第二夫人(予定)で〜す」
なぜかノエルが続き、アリシアも釣られる。
「えっ、じゃあ私が第三なの? えぇと、アリシアです」
「いや後のふたりはもう知ってるって」
続いてサフラン王女は、ふわりと気品のあるお辞儀をした。
「お初にお目にかかりますわ、勇者ダリア様。メイクリエ王国第三王女、サフラン・ウィル・メイクリエと申します」
「はい? なんでメイクリエのお姫様がこんなところに!?」
「やんごとなき事情がありますの。わたくしの身分についてはご内密に」
「ちなみに、新素材生地の考案者だよ」
「マジか。あたしらにとっちゃ大恩人じゃないか!」
最後に聖女セシリーは、ダリアの前で聖印を切る。
「初めまして。セシリー・セントールです」
「セシリーって……聖女様か!? おいおいおい、シオンシオン、いったいお前はなにをやってるんだ!? お姫様に聖女様だって!? しかも奥さんが三人? わけがわからないぞ!」
「実はおれたち、聖女様からの要請でこの国に物作りしにきた、メイクリエ王国の特使なんだ」
「はぁあ!? お前、この前はそんなこと一言も言わなかったよな!?」
「言えなかったんだよ。王女とソフィアは、メイクリエへの要求を通すための人質にされてたからね。おれたちは立場を隠して行動せざるを得なかったんだ」
「そうか……。それでここでの物作りか。その成果を交渉材料に教皇と会って、見事、人質を取り戻して帰ってきたってわけか」
「いやごめん。実は教皇には会えてないんだ。色々あって、結局、一戦やらかして奪還してきちゃった」
「お前、本当になにやってんだ?」
ダリアにはその後も色々とツッコまれたが、事情を説明したら諸々納得してくれた。
村のみんなからは歓迎されて、村の様子を是非見ていってくれとせがまれる。
いい機会だからと、おれはソフィアをデートに誘ってふたりで村に出た。
ちょうど商隊が来ていたようで、ちょっとした市場が開かれていた。
この国では滅多にお目にかかれない、甘いお菓子なんかもある。
「ソフィア、久しぶりにひとつどう?」
「では、今日はこちらとの組み合わせを」
ソフィアはお菓子だけではなく、柑橘系の果物も選んだ。一緒に食べると甘さと酸味が絡み合い、絶妙な味わいになるという。
「ソフィアがその組み合わせで食べるの初めてじゃない?」
「はい。いつもは食べ慣れてる物を選んでしまうのですが、異国情緒にあてられたためでしょうか。今日はそういう気分なのです」
「美味しかった?」
「はい。クセになりそうです」
ソフィアのにっこりとした笑顔に、おれはとろけそうだった。
続いてソフィアが目を向けたのは服屋だ。
旅人向けの服も揃えている。交易で人の行き来がある以上、自然なことだ。
「なにか欲しい服でもある?」
「いえ、欲しいのは下着なのです」
ソフィアはなぜか胸を張った。
「なにを隠しましょう。最近、少々胸が苦しいのです。どうやら成長の時が来たようです。わたしの時代です」
「そ、そうなんだ? 気のせいじゃなくて?」
「確信しています」
ソフィアが買い物を済ませたあと。次はどこへ行こうかと、楽しそうな場所を探していると、おれたちの足は自然と工場のほうへ向かってしまう。
「やっぱり、気になるもんね」
「はい。自宅のような安心感があります」
などと話していると……。
「前は仕事サボってデートしてると思ったが、今度はデートをサボって仕事の話か?」
聞き覚えのある声に、おれとソフィアは一斉に振り向く。
「おう。お前らだろうなと思ってたら、やっぱりお前らだったな」
「ケンドレッドさん!?」
「久しぶりだな、ショウ。それにソフィア・シュフィール」