翌日。おれたちは通信魔導器で、メイクリエ王国のセレスタン王にこれまでの経緯や成果を報告した。
結論から言うと、おれたちの命令違反に対するお咎めはないそうだ。
むしろ期待通りだとか。
「うむ。余から命を下しては、関与を疑われたとき問題になるゆえな。お前ならもうひとつの身分を利用して、勝手に上手くやるだろうと期待していた」
「どおりで。動くなと言われていた割には、ずいぶん簡単に出国できたと思っていましたよ」
続いてサフラン王女の同行についても、セレスタン王は許可してくれた。
「元より特使として派遣した身。ショウやソフィアがその役目を続けるというのなら、サフランも共にするが道理である。此度の旅は、良き学びになるであろう」
「ただしショウ、絶対無事に連れて帰ってきなさい! サフランになにかあったら承知しないわ! サフランも無茶はしないで! あなたがいないと、自慢する相手が減ってしまって、つまらないわ!」
最後に、第二王女のマーシャが本当に心配しているのがよくわかって、サフラン王女は嬉しそうな、はにかむような表情を見せたのだった。
これで憂いはなく旅が続けられる。
のだが、問題がないわけでもない。いや、旅が続けられないような問題ではないし、放置したところで痛手を被ることもない。
ただ、気まずいのだ。
おれとしては、もう過去のことなので気にしていないのだが、バーンのほうは負い目からか話の輪に入ってくることが少ない。
エルウッドやラウラも、バーンが相手となるとどこかよそよそしくなってしまう。
そんな雰囲気なので、過去のバーンを知らないソフィアやノエル、アリシア、それにサフラン王女もどう接すればいいのかわからない様子だ。
そこで間を取り持とうと奔走したのは、聖女セシリーだった。
積極的にバーンを輪に連れてきたり、話を振ったりと、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
おれもその手伝いをしてやっていると、なんとか馴染めてきたようだ。
おれやソフィア、サフラン王女やエルウッドと、物作りについて語り合って一緒に勉強したり。
バーンとセシリーの関係について、ノエルが尋ねてみたり、アリシアが怪しんでみたり。それをラウラも聞き耳を立てたり。
「いや……今はそういうのは考えてねえんだ。仕事以外じゃ、レジーナの面倒を見てやるだけで手一杯だからよ……」
セシリーと話すときや、レジーナが話題に出るときに、バーンの表情がほころぶのは、もうみんなに知れ渡っている。
「今日は、そのレジーナさんについて詳しく聞きたいな。君が助けて、お世話してる女の子だってくらいしか教えてもらってないし」
おれも話題を展開させると、バーンは少しばかり嬉しそうに口を開いた。
助けたあと、眼鏡を買ってあげた話。一緒に旅をした話。海を見た話。そして右足を失った話。そんな彼女が、また走り回れるようにと義肢作りに情熱を注いでいること。
「俺があのリックさんと戦ったときなんかよ、まだまともに歩けもしないのに、庇いに出てきちまってよ。割と考えなしなところはあるかな」
「それだけ慕われてるって証拠じゃないか」
「ああ……ありがたい話だ。こんな俺なんかによ」
「よっぽど可愛いんだね。君がそんな風に語るなんてさ」
「まあ、身内びいきかもしれねえが……。あれは間違いなく美少女だ。あと四、五年もすりゃあ、すこぶる付きの美人になるだろうよ」
ちょっと嬉しそうに笑う。その表情は以前の彼には無いもので印象的だ。
「……あれ? ところでレジーナさんって、いくつくらい? なんだか、ちょいちょい子供扱いしてるように聞こえるんだけど」
ノエルが尋ねると、バーンは一瞬きょとんとしたあと、すぐ納得した。
「ああ、すまねえ。言ってなかったな。レジーナは実際子供だよ。本人は十二歳って言ってたが、たぶん、どこかで数え間違えてる。もう少し下だろうな」
それを聞いてアリシアはなにか難しい顔をした。
「念のために聞いておきたいのだけど、バーンは極端な年下が趣味だったりするのかな?」
「違います! どうしてそうなるんです!」
バーンより早くセシリーが否定した。
「いや貴族だとしばしばいるから。結婚相手を幼い頃から育てる、みたいな」
「そんなわけないじゃないですか。レジーナさんは妹さんとか娘さんみたいなもので、バーンさんは健全に年頃の女性が好きに決まっています!」
「いや否定してくれて助かるし、好みもその通りだけどよ、なんで聖女様がそんなツッコむんだ?」
バーンに言われて、セシリーは顔を真っ赤にした。
その様子におれたちは笑ってしまう。
もう気まずさはない。そう思えるみんなの笑顔だった。
それからの旅は気楽なものだったが、バーンが別れる大きな分かれ道に近づいていくにつれ、聖女セシリーは寂しそうな表情をすることが増えてきた。
なぜかエルウッドも、ひとり無言で考える時間が増え、そんな彼を見つめるラウラも物思いに耽ってしまう。
そして、いよいよバーンが離れる日。
分かれ道で、それぞれの気持ちが明かされる。