「もう! もう! なんなのよぉ、みんなおかしくなっちゃってぇ! 全部あいつらのせいよぉ。早く教皇に報せなくちゃ。このままじゃ、本当に国が変わっちゃうわ」
カーラ司祭を追って教会に来てみると、ひとりで騒いでいる声が聞こえた。部屋の外に漏れているのに気づいていないようだ。
おれたちと一緒に来たダリアは、その部屋に遠慮なしに突っ込んでいく。
「ダリア! ちょうど良かったわ! 護衛! 護衛をお願いしたいの! メルサイン大神殿まで行って、教皇にお伝えしなきゃならないわ!」
「なにを、どうお伝えするんだ?」
「決まってるじゃない! 今日のことを話して、異端を取り締まるのよ! 物作りだって潰してもらわなきゃ!」
「異端ね……。自分の言うことを聞かなくなったら異端扱いってのは、都合が良すぎるんじゃないのか」
「教皇の意向にだって反してるわ。あなただって、こっち側だったんだからわかるでしょう!」
「……ああ、よくわかってる。いや、わかったつもりになってた……。枢機卿や聖女をバカにしてた。全部無理だと諦めてた。でも、もう違う! 変えられる時が来たんだ。お前こそ、わかっているんだろう!」
「だから潰して止めるのよ! 厳重に支配しなきゃいけないんだから!」
「その支配もいらなくなるんだと、なんでわからない!?」
「冗談じゃないわぁ! もっともっと支配して、いい気分にさせてもらいたいもの!」
「大神殿には連れて行ってやる。あたしも教皇にお伝えしなきゃならない。新たな希望が生まれた今、それを守り育てることこそが国のためになると。戦争など無用どころか邪魔なだけだと!」
おれは一応、ノックしてから部屋に入った。
「ダリア、君が行ったらこの村の守護はどうなるんだい?」
「それは……すまないシオン。お前たちに頼みたいのだが……」
「悪いけど断るよ」
「……お前を否定し、罵倒したことは謝る。これまで諦めて、なにもしてこなかったことも……。償えというならなんでもする。だから——」
「ならダリア、これからすぐ魔物の捕獲や飼育のお仕事を覚えてくれ。商人が人材を派遣してくれるらしいけど、こればかりは腕の立つ人間にしかできないからね」
「それはいいが……しかし、すぐは無理だ。カーラの護衛がある。教皇に会いに行かないと」
「いや、カーラ司祭はおれたちが連れて行く。おれもメルサイン大神殿に会いたい人がいるんだ。君も教皇に伝えたいことがあるなら手紙を書くといい」
「シオン……お前は、本当にこの戦争を終わらせるつもりなんだな」
「冗談を言ったつもりはないからね」
「一度は国を捨てたお前が、どうしてそこまでするんだ?」
「この国に囚われた、愛する人たちを助けるためさ」
ダリアの視線が、おれの左手に注がれる。
「そうか。前から気になってたが、お前のその指輪……やっぱり結婚してたのか」
「ああ、おれの運命の人だ」
「ふっ、ちょいと残念だよ。しばらく見ない間にいい男になってたからさ、この件が落ち着いたら口説いてやろうかと思ってたのに」
ノエルとアリシアの視線を強く感じたか、ダリアは苦笑を浮かべる。
「ちょっと! 勝手に話を進めないでくれる!? 私、こんなやつらと一緒に行くなんて嫌よ!」
喚くカーラ司祭を、ダリアが睨みつける。
「うるさい! お前が選べる立場か!」
「ひぅっ! だってぇ、村がこんなになっちゃった原因と一緒に行ったら、なにを言われるかぁ……」
「はっきりと、教皇におれたちが原因とでも言えばいいじゃないか」
おれの発言に、カーラ司祭は目をぱちくりさせた。
「教皇とはおれも一度話してみたかったんだ。是非、紹介して欲しい。一応は教区長の立場なんだ。それくらいできるだろう?」
「うぅう……わかったわよぉ……」
こうしておれたちは、スートリア神聖国の中枢、メルサイン大神殿へ向かうこととなる。
ソフィアがきっと待っている、その場所へ……。