「シオン、お前、生きていたのかよぉ……!」
エルウッドは恥じることなくボロボロと涙を流す。
ラウラも大粒の涙を頬に伝わらせる。
「あなた、生きてたんなら教えてくれたっていいじゃない……! あたしたちが、ずっとどんな気持ちでいたと思ってるのよぉ!」
「すまない、ふたりとも……。事情があったんだ」
おれは号泣するふたりをなだめて、生存を隠していた理由を説明した。
「そうか、やっぱりジェイクがお前を……。抜けて正解だったか」
「『フライヤーズ』の解散のあと、脱獄までしてたのね……とことん落ちたものね、あいつも」
ふたりはジェイクを悪く言うが、おれにはもう彼を恨むような気持ちは残っていなかった。
彼に【クラフト】を奪われたからこそ、おれはソフィアと出会えた。今日まで仲間たちと共に、ひとりでは作れないたくさんの物を作ってこれたのだ。
実際にまた会ったら、やっぱり怒ってしまうかもしれないが。
「それで物作りの旅をして、結婚して、貴族に出世……ね。なんだか手の届かないところへ行っちゃったみたい」
「でもシオンはここにいる。こうして生きてる」
「ええ……本当に良かった……」
揃ってしんみりしてしまう。
本当はおれも時間を忘れて再会を喜び合いたいが、そうするわけにはいかない。
「ところで、ふたりはどうしてここへ? ボロミアくんとケンドレッドさんの紹介みたいだけど……」
「ケンドレッド? ケン師匠のことか?」
「師匠?」
「ああ、オレはケン師匠から鍛冶仕事を習ったんだ。シオン、お前の友になりたくてな」
「おれはもとから友達だと思ってたよ」
「お前はそうでも、オレは違った。お前が見ていた世界のことを、なにもわかってなかった。でも……今なら少しはわかる。お前と語り合いたい」
「エルウッド……そう言ってくれて嬉しいよ」
「お前の工房で働かせてくれないか。まだまだ役立たずの未熟者らしいけどよ」
エルウッドが持ってきた紹介状の内容と、エルウッドの認識は少々違っている。
ケンドレッド曰く「メイクリエでは平均以下だが、他所なら一生喰っていけるだけの腕前だ」とのこと。調子に乗らないよう、弟子には厳しく言っていたのだろう。
ケンドレッドさんらしいや、とおれは微笑む。エルウッドには黙っておこう。
「ラウラはどうしてここに?」
「あたしはボロミア先生のとこでA級に昇格したんだけど、S級を目指すならノエルさんに師事しろって勧められて。まあ、先生の思惑としては、あたしにショウさんを籠絡させて、ノエルさんを取り戻したかったみたいだけど」
「あぁ、その小細工……彼らしいな」
「でも、あの噂のショウ・シュフィールの正体がシオンだなんてね。先生には悪いけど、そんな気にはなれないわ」
「そうだね……。でも、そっか。A級魔法使いになれたんだね、おめでとう」
頭の中でかちりと歯車がはまる感覚があった。
職人とA級魔法使い。ふたりとも戦闘経験も申し分ない。
おれは深く頭を下げる。
「ふたりとも、ここへは目標のために来たのはわかってる。けど、すまない。その前に力を貸してくれないか。おれは——」
「いいとも。なんでも言ってくれ」
最後まで聞かずに、エルウッドは即答した。
「事情も聞かずに?」
「聞く必要があるか?」
エルウッドは腕を伸ばして、拳をおれの胸に当てた。
「お前の頼みなら、どんな事情だろうと力を貸すさ」
「エルウッド……ありがとう」
「あたしも手を貸すわ。シオン、さっきから他のこと気にしてるでしょ。相当、切羽詰まってるんじゃない?」
「ああ、実はそうなんだ」
「でもあたしは事情は聞きたいわ。なにをすればいいのかも、ね」
おれは頷いて、事情を話す。
それから、ノエルとアリシアも呼んでくる。簡単な紹介を終えたところで、おれはみんなに表明する。
「やることは当初の予定通りだ。スートリア神聖国に、物作りに行く」
全員、困惑の表情を浮かべた。代表して、アリシアが問う。
「どういうことだ。戦争中だぞ」
「戦争中だから行くんだ」
おれは闘志を込め、強く拳を握りしめる。
「資源が欲しくて戦争するんなら、欲しがる物を作ってやればいい」
「戦争の原因を取り除くってこと?」
いち早く理解したノエルの問いに、おれは頷きを返す。
「そうさ。おれたちの物作りで戦争を止めるんだ」
「できるのか、そんなことが」
エルウッドは、ラウラと同じく困惑したままだ。
「できる。物作りに不可能なんかない」
「なら……信じるぜ」
エルウッドは困惑から一転、覚悟を決めた表情になる。
その隣でラウラが声を上げる。
「待って。仮にそれができたとして、ソフィアさんとサフラン王女はどう助けるの?」
「戦争の必要が無くなれば人質もいらなくなる。返してもらえるさ」
「回りくどくない?」
「かもしれない。けど、これが一番確実なんだ」
ソフィアたちをアテもなく探して回り、見つけたら今度は、精強な勇者たちを倒して奪還する。そんな方法は現実的ではない。
おれたちにやれる方法で、最も確実なのはこの方法だったのだ。
「もちろんソフィアたちは探すし、見つけたなら救出の手段も考える。そのとき物作りが進んでいたら、交渉材料としても使えるはずだ」
ふぅ、とアリシアは感心したようなため息をつく。
「まったく。さすがの発想だな、ショウ。私も乗った。この国を一度救っているんだ。戦争を止め、ソフィアや王女を救うことだって、きっとできる」
「アタシも賛成。物作りでどうにかするって、きっとソフィアがいたら同じこと考えると思う」
ノエルの返答を一瞥し、エルウッドもすでに賛成済みとばかりにうなずく。
「そこまで言うなら、あたしも賛成するけど……。シオン、変わったわね。発想のスケールが特に……」
最後に残ったラウラは賛成しつつも、呆気にとられていた。