——エルウッドが『フライヤーズ』を抜けてすぐのこと。
エルウッドには志があったが、ろくに路銀がない。
そこで大都市リングルベンの冒険者ギルドで、ひとりでもこなせそうな依頼を物色していたところ。
「エルウッド! 良かった、まだこの街にいたのね!」
「ラウラか。引き止めに来たんなら悪いが、オレは戻るつもりはないぞ」
「逆よ逆。あたしも辞めてきたの」
「いいのか? お前は、ジェイクを……」
「ええ、でもいいの。全部振り切ったわ。お陰で、今は心が軽くなったみたい」
「そうか、それは良かったと言うべきだな」
「ありがと。それで、エルウッドはこれからどうするつもりなの?」
問われて、エルウッドは自分の鞄に詰め込んだシオンの本を見やる。
「オレはシオンの遺志を継ぐ。旅をしながら鍛冶修行を続けてみるさ」
「目的地はあるの?」
「アテはないが……そうだな。どうせ修行するなら本場がいい。のんびりメイクリエ王国でも目指してみる」
「ふぅん、そっか。じゃあ、途中まであたしと同じ方向ね」
「ラウラはどこへ行くんだ?」
「ロハンドール帝国魔法学院。冒険者向けの短期錬成コースが開講したらしいのよね。この際だから、しっかりA級になっておこうと思って」
「それはいい。なら途中までだが、組むか?」
「ええ、組みましょ。戦士と魔法使いのふたりなら、やれる仕事も増えるしね」
「そうだな。ラウラはもっと仕事を増やしたほうが良さそうだしな」
「んん? どういう意味? 実戦で修行しろってこと?」
「いや、気づいてないなら言っておくが……お前、店をやってる間、ちょっと肥えたぞ」
「なっ!?」
ラウラは自分の体中に視線を巡らせる。
「そう言えば最近、服が縮んだな〜って、思ってたけど……」
「服は縮んでないな」
「……少しくらいぽっちゃりのほうが、男ウケが良かったりしない?」
「自分でぽっちゃりって言うやつは、だいたいの場合は——」
「あー! あー! 言わないでわかってる! 魔法使わないとカロリー消費減るから、同じ量のつもりでも食べ過ぎになっちゃうのよ! ご指摘どうも! でもね」
ラウラはエルウッドを睨んでくる。エルウッドはなぜだかわからない。
「デリカシーがなぁい! もっと気を使って指摘しなさいよ!」
すぱぁん! と、ラウラのツッコミの張り手がエルウッドを襲った。
「それはすまん」
盾役戦士のエルウッドは、びくともしなかった。
——そうしてふたりは旅立ち、今もそれぞれの目標に向かって旅を続けている。